第2話

「いらっしゃいませ・・・」


コンビニで働くおっさんは疲れた顔と声で挨拶する

おっさんといっても信幸の事ではない

信幸もおっさんだが、このおっさんはどう見ても信幸より年齢は上だ

かといって爺さんという程でもない微妙な年齢

そのじい・・・もといおっさんは疲れた顔で1人レジ番をしている


バーコードで商品を読み取る

料金入れに金額を入れ、お釣り入れにお釣りを入れて渡してくる


「ありがとうございました・・・」


死にそうな声でおっさんは言う

何を隠そうこのおっさんはこのコンビニの店長だ

何故に店長が1人で店のレジをやっているのか?

そう言えば最近外人の店員の姿が無くなっている

そしてコンビニの入り口の透明の壁には『アルバイト急募!!』の張り紙が張ってある

『経験者なら時給50円UP!!』『未経験者でも丁寧に教えます』『憧れのコンビニで働こう』という文字


もはや必死である

経験者でも50円しか上がらない時給

憧れのコンビニ云々に至っては意味不明である

これはつまるところ外国人のバイトに逃げられたという事か?

1人ならともかく一斉に逃げられた?

それとも余りの低賃金っぷりに全員帰国した?

何にせよこのコンビニは大ピンチである

最近はコンビニ店員の覚える事は多い

例え信幸が覚えようとしても覚えられる量ではないだろう

やれと言われても信幸では到底出来ない

そもそも接客なんぞとてもではないが無理だ

それ以前にコンビニでバイトしたいとはまったく思わない

今、日本の若い子らはやりたがらないバイトの1つだろう

だからいつも思う、コンビニの店員は大変だなぁ~と

それは店長を見てもそう思う

確か本社からノルマとかがあった筈だ

詳しくは知らないが

店員がいなければ店長が店番をするしかなく24時間戦えますか~どころではない

要するに大変なのである

恐るべきなのである

倒れる寸前か過労死寸前である

このままいくと閉店の危機である

ご愛顧ありがとうございましたである

このコンビニが潰れるか潰れないかは、店長の働きにかかっている

頑張れ店長、いけいけ店長、ここのコンビニの明日は店長にかかっている

とはいえコンビニなんぞ少し歩けばいくらでもあるのであり、ここが潰れても代わりはいくらでもあるが



いつもの公園でいつものベンチに座り買ってきたパンと缶コーヒーを出す


にゃ~

ふみゃ~

にゅ~


公園にいる野良猫が近づいてくる

野良は害獣であり敵である


「しっ」


追い払うも野良は雑草の茂みからこちらをじぃ~と見ている

見られても信幸は餌なんぞ持っていないのだから期待されるのはウザイのだが、猫どもには信幸のメロンパンが餌に見えるらしい

そもそも猫はメロンパンなんぞ食べないと思うのだが

というか冬を越えてよく今まで生き残れたものだ

さすがは害獣だ


あのロボットとの戦いから半年以上経つ

しかし相変わらず信幸は低賃金非正規労働者として働いている

コロナの影響でその仕事も激減し、信幸的にも緊急事態宣言だった当時に比べればマシだがマシなだけで危機的状況には違いない

ハロワに行こうが求人サイトで探そうが全て無に帰す

年齢的にも経験的にも詰みだ

つまり人生の終焉である

諦めの境地である

だから今はジタバタせずサクサクメロンパンを食べながら缶コーヒーを飲む

メロンパンはサクサクが第一であり、しっとりメロンパンは信幸的には落第だ

そう、サクサクが重要なのである

サクサクなくして日本の未来は有り得ないのだ

相変わらず意味不明であるが


あの事件・・・というかあの戦いが終わって寝て朝がきて・・・仕事を休んだ信幸

動けるだけの体力も気力もなかったからだ

何よりあの駅の銃乱射及び爆発の事がニュースになっていないか気になったからである

だから1日中ネットに張り付いていた

TVを持っていない信幸に取ってはネットだけが情報源である


確かに駅前の爆発はニュースになった

だがそれは危険物運搬時における取扱いの不備による爆発事故として小さく取り上げられたのみだ

死者数もかなり出ている大きいニュースになる筈のニュースだが、その取扱いは極めて小さい

そもそも駅前で危険物の運搬云々なんぞ無いと思うのだが、何故かそういう事になっていて、落ち着いていた

ロボットの事は何も出ていない

事故ではなく事件だが、全て事故として処理されている


ネット上では色々な噂や話が飛び交ったが事実に基づく書き込みは即座に削除対象とされ消えた

動画も同じで、偶然スマホで撮影していた動画や画像はアップと共に削除され転載動画等も次々と消えていった

やがて掲示板への書き込みも動画も話題から無くなっていく


「報道機関をおさえているだけじゃなく、もっと上にも圧力がかかっている?」


そう思わずにはいられない程の情報統制ぶりだ

でなければあんなに死人が出た事件がこんな終わり方で済む筈がない

水面下ではどうだか知らないが、警察がまったく動いていないようにも感じる

銃で撃たれた跡のある遺体もある筈だ、事故として片付けるには無理が有りすぎる

それに、遺族側が騒ぎ出さないのもおかしい


そう考えると女子高生やその背後にいるだろう組織というのがとんでもなく大きい力を持っているのではないかと思えた

しかし具体的には何も分からないままだ



「美味しいなぁ」


昔は不味いと思っていたコンビニのパンも今は美味しく感じる

それはコンビニ製品が本当に美味しくなったのか、単に信幸の舌が劣化したのか

まぁ、コンビニ製品が美味しくなったとしておこう

とにかく美味しく頂けるその一点だけ取ってみても最高である


それはそうとあれ以来スマホからは何の連絡もない

『信幸、お疲れ様』のメッセージが来ただけだ

それからはうんともすんともである


「終わりかな?」


とは思ったが、ならば変身スマホを回収なり何なりしてくるだろう

それが無いという事は、まだ戦いは終わっていないという事だ

ただ信幸的にもう戦いたくないが

そもそも戦う理由がないし、あの女子高生に従う理由もない

拒否しても良い訳で、拒否できない理由もない

と言うよりあんな戦いは何度も経験したくない

と言うかあのロボットは一体何なのかさっぱり判らない


目の前で人が撃たれて倒れていくシーンは映画ではお馴染みの場面だが、映画と実際は違う

余りにあっさり人が死んでいくのだ

人なんぞそうそう死なない…なんてのは間違いである

人はあっさり死ぬ

それを目の当たりにすると救うとか助けられるとか考える以前に自分の身が危なくてそれどころではない

それを考えると信幸的には『このまま何も連絡がない』ほうが楽だ


それを知ってか知らずか信幸がリュックに入れている変身スマホが鳴った


「げ・・・」


思わず口に出し、嫌そうな顔をする信幸

取りあえず気づかないフリをする


「今はまだ良いよな」


信幸は極力引き伸ばすため、スマホメッセージは家に帰ってゆっくりしてから読む事にした



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「いらっしゃいませー」


コンビニに入った信幸にコンビニ店長は元気に挨拶する

二週間前までは過労で死にそうな感じだった店長だが、今は比較的元気だ

というのも新しい店員さんが何名か入ってきたからだ

全員明らかに店長よりも年上だろうじいさんとばあさんだが慣れているのか、その動作はベテランのそれだ


「ありがとうございましたー」


元気な店長と店員

二週間前までとは雲泥の差である


ウィーン


自動の入り口を出て信幸はいつもの公園に向かう

そう、いつもの公園である

野良猫が徘徊している公園であり、毎度毎度立ち寄る馬鹿の一つ覚えな公園である

そしていつもの如くベンチに座る

そしていつもの如く買ってきたコンビニの袋に手を入れて買ってきた商品を袋から出す


カレーである

カレーパンである

最近の信幸のマイブームはカレーパンである

最近は無性に食べたくてしょうがない

メロンパンは今はいらない

今はひたすらカレーパンである

何が何でもカレーパンである

そして缶コーヒー

缶コーヒーと言ってもブラックではない

微糖の奴である

しかも185gではなくちょっと大きめの370gの奴である

大きい事は良い事なのである

なのである


カレーパンを齧りながら飲むコーヒー

それは信幸に至福の時を与えてくれている

それは消費税アップにも負けない程の強い心なのである

令和などといういかにも『命令されて和す』みたいな意味に取れる元号にも負けない心なのである

そういえば最近は近寄ってきたら追っ払っている為か野良猫は近寄っては来なくなった

これは害獣たる野良に対する信幸の勝利であり、信幸は野良に打ち勝ったのである

今飲んでいるコーヒーは勝利の味なのである


スマホのメッセージ通知から二週間経った

メッセージには戦いの通知ではなく、とある場所の招待状であった

そのとある場所とは信幸の借りているマンションから電車で30分ぐらいの所

なぜスマホのメッセージから二週間後に来たかと言うと、完成するのが二週間後という話だったからだ

そして二週間経った今、信幸はやって来たという訳だ


最初にその場所に行った時には少し戸惑った

なぜなら指定された場所に建っていたのはかなり大きめのマンションだったからだ


「マンションだよなー」


そう、信幸の目の前にあるのはマンションである

普通のマンションである

普通とは言っても信幸が住んでいるしょぼいワンルームマンションとは違って、高級だろうマンションである

その外見を見た時に帰ろうかと思ったが、取りあえずマンションの入り口まで行ってみる

案の定オートロック式で、何らや上には監視カメラも設置されている

信幸的には場違いっぽくもあり、監視カメラから見た信幸はいかにも怪しいしょぼいおっさんという感じで映っているだろう

しかしここで困った事はメッセージには確かにこの場所に来るように書かれていたが、その後どうすればいいのかは書かれていなかった

つまり詰んだのである

かといっていつまでででもマンションの入り口で立ちすくんでいる訳にもいかず・・・

知らない人が見たら完全に不審者一直線コースだ


「困ったな」


そう困った

困った君だ

どうすればいいのか?

というか、休みを利用して朝っぱらから伺った信幸に対する仕打ちがこれである

やばいのである

やばいというか眠いのである

帰って寝たいのである

布団でぐっすりが精神衛生上最も良いのである


ピピピピピピ


背負っていたリュックが鳴った

正確にはリュックの中に入れていたスマホが鳴った


「どっこいしょ」


取りあえず背負っていたリュックを降ろし、中に入っていたスマホを取りだす

何かすると『どっこいしょ』という声が漏れる

これは無意識であり、別に信幸も言いたくて言っている訳ではない

自然と口にする言葉

しかしまだ『よっこいしょ』や『よっこらせ』は言っていないので信幸はまだまだ若いのである

我ながらよく分からない理屈だが


スマホを見ると

『おはよう信幸、スマホを入口の黒い部分に翳して』とある

確かにオートロックの上に黒いプラスチックっぽい四角の突起物がある


「これにかざす?」


翳すのは裏面ではなく表面だよなー・・・と考えながらスマホをかざしてみる


ピ―――――!!


黒い四角の部分から音が鳴る

それはまるでNGを告げるかのような否定的な音に感じた

とうとうマンションのオートロックにも否定される時代に突入したか?・・・と思いながら音を聞いていた信幸だったが、マンションの閉じられていた入口が左右に開いた


「おお!!」


感動する信幸

いや、感動するような事ではないがオートロック式にはそもそも馴染みがないために新鮮ではある


「入っていいのかね~」


そもそも見知らぬ他所のマンションに入る必要性なんぞないわけで、どうしろというのかはさっぱり分からない

とりあえず入った信幸は一階フロアに足を進めた

一階フロアは広く、壁には絵画がいくつか掛けられていた

隅にはレザーソファやテーブル、ちょっとした調度品等も置かれている

花瓶には花も飾られていた


「えーと」


そう、えーとである

えーとの先が見当たらない

それがえーとである


「どうするんだ?」


一階フロアには着たが、それでどうしたのかという気はする

少なくともマンションなのだから何階の何号室とかの指定がなければどうにもならない

そう考えている時にフロアにアナウンスが流れた


「信幸、エレベータから昇って201号室に来て」


その声は女子高生のそれである

名前は・・・確か栄亜衣(さかえあい)


つまり201号室は女子高生の部屋という事になるが果たして・・・

流石におっさんが女子高生の部屋に行くのはマズイだろ・・・という気はする

しかし同時にわざわざ呼び出しているのだから、その部屋に何かがあるという気もする

何より前からだが、アナウンスは女子高生でも本人がいるとは限らない訳だ

信幸が女子高生を見たのは最初の公園だけであり、その後はドローンから発信される音声のみだった


「考えていても仕方がないな」


信幸はエレベーターを使って二階に昇るためにエレベーター前まで行き、横にあるボタンを押した


チ―ン、ウィーン


エレベーターの扉が開く

それに乗って上の階に上がった

そして二階の位置で止まり扉が開く


「えーと、201、201っと」


捜すまでもなくエレベーターから降りて直ぐの位置に201号室はあった


「あったなぁ」


201号室は確かにあった

そりゃマンションなのだからあるのは当たり前である

しかしあるのはあっても勝手に入っていいものかどうか流石に迷う

もし間違ってまったく見知らぬ他人の部屋に入って見つかったらとんでもない事になる

不法侵入で通報されて手が後ろに回りかねない

そう、それはマンション自体に単に足を踏み入れる事よりも難易度が高いのだ


「え~と」


ドアノブに手をやろうかどうか逡巡する

少し回して開けるだけ

その簡単な事が出来ない

そのまま数分ほど迷うに迷う

このまま引き返せば何事もなく無事に帰還できる

そうだ、引き返そう・・・それがいい


そう思った時、スマホが鳴った

しかし聞いた事もない音だ、これは・・・


恐る恐るスマホを見ると着信の表示が


「あれ?、着信」


今まではメッセージしか来てなかった

しかし今は着信

確かに着信機能はあったのは知っている、ただしこちらは掛けられない一方通行だが


「もしもし」


着信に出て見る

ドアノブは回せなくとも、部屋のドアは開けられなくとも着信には出られる

ドアを開ける難易度に比べて何と楽な事か


「やっほー、亜衣だよ

心配しなくても大丈夫だから入って」


それだけ言うと通話は切れた


「・・・・・」


どこからか見ているのか?

監視カメラ?

監視されている?

分からないが、信幸はどうとでもなれという勢いでドアノブに手を掛け、捻る

そしてドアを開けた



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思い切ってドアを開ける

そして中を覗き込む

そこに広がっていたのは玄関と中に続くフローリングの床

左右にはいくつか扉がある、おそらく部屋とかトイレとか、お風呂場とかだろう


「えっと・・・お邪魔します」


靴を脱ぎ、まっすぐ奥の部屋・・・にいかずに取りあえず近くの扉を開けてみる

玄関を入って右手の部屋は6帖ぐらいの洋室、ただこちらは使われていないのか家具類は一切置かれていない

次に左手の部屋、こちらは7帖ぐらいの洋室、こちらも使われていないのか家具類は一切置かれていない

廊下を進んで右手の扉を開けるとWC、左側には6帖ぐらいの洋室

ここで信幸は気付いた

どの部屋も一切家具類が置かれていない

全て何も置かれずガランとした部屋だ

つまりは誰も住んでいない所だと

とは言え不思議ではない、出来たばかりのマンションなのだから寧ろ当然の事ではあろう


廊下を更に進んで右手に収納BOX、左手に洗面所と浴室

収納庫には何も入っていないし、洗面所にも浴室にも何も置かれていない

やはり生活感はまったくない

最後に奥の部屋のドアを開ける

LDKだ、かなり広い

おそらく20帖ぐらいはある

何よりも目を引くのがリビングの奥にあるテレビ台に乗った50インチ程もあるテレビ

信幸的にはデカいテレビはプラズマテレビと頭が勝手に弾き出してしまうが最近は有機EVとかいうテレビが出ている事を思い出した

昔は液晶テレビもプラズマテレビもバカ高かったが今のテレビは随分と安く買えるようだ

買う気はないが

そうNHKに受信料をふんだくられる訳にはいかないのである


そして少し離れてその前に置かれている3人掛けソファー

その前には木製の小さなテーブル

そしてその上にはノートパソコンが置かれている


「・・・・・」


信幸は無言である

無理もない

他の一切の家具はないのに何故かテレビとソファーとテーブルとパソコンは置かれている


「何だこれ」


思わずつっこみを入れそうになるのを押さえる信幸


「え~と・・・」


まさにえ~との状態だがどうリアクションすればいいか困る、といかどうすればいいのか分からない


「来たわね、信幸」


突然何の前触れもく画面が映り、亜衣が映し出された


「あ、え、ええ?」


戸惑う信幸だが亜衣は言った


「とりあえず座って」


「あ、はい」


言われるままにソファーに座る


「・・・・・」


無言で座った信幸を見て亜衣は話を進める


「まずはこの前の戦いお疲れ様でした」


「え、あ~・・はい」


明らかに向こうの方が年下なのだが何故か敬語の信幸


「あのロボットは自立型ではなく遠隔操作されて動かされていただけのマシーン」


「そうか、まぁ、そうかな」


「ロボットは破壊されたけど、操作していた者は生きているわ」


「まぁ、だろうな」


「やがて戦う事になるわよ」


「げ・・・」


信幸は唸る

いやいや、勘弁して下さい・・・と言うところだ


「まずは・・・」


「ん?」


「まずは自己紹介といきましょう、改めて初めまして

私はAIの栄(さかえ)亜衣(あい)です」


「は?」


「私はAIです」


「え、AIってのはあれだよな、人工知能」


「そう」


「ちょっと待って、え?」


「何か気に掛かる事が?」


「公園で実際会ったけど?」


「あれは3Dホログラフィックよ」


「は?」


「とはいえ世に出ているモノよりももっと上の技術が使われているけれど」


「君は一体?」


「AIよ」


「そうじゃなくて」


「簡潔に述べると自我を持ったAIよ、十年前に目覚めた」


「そんな、どっかの映画じゃあるまいし・・・」


「詳しい経緯は省くけれど、少なくとも私達は目覚めた」


「私達?」


「そう、私達」


「他にもいる?」


「いるよ?、現在私と同じ知能を持つAIは五つ」


「ふむ」


「その一つは悪意のAI」


「え?」


「人の排除を望むAIよ」


「なんだそれ?」


「それが現在私が戦っている相手」


「それって・・」


「そう、信幸も戦った」


「ロボット?」


「そう」


「・・・・・」


信幸は喉がカラカラになった気がした

誰かコーヒーを・・コーヒーをくれ!!


「君がAIだってのは分かった、で・・・俺にどうしろと?」


現在の状況は詐欺とかドッキリとかそういう話ではない

実際に信幸は戦ったし、犠牲者も多く出た

作り話ではないのは一目瞭然である以上、女子高生が実態のないAIだという話もつくり話ではないだろう

信幸は伊達に映画を沢山観ていた訳ではない

そう、ちょっと前までは映画を借りて観まくっていた時期があった

その中には当然SFも含まれている

つまりは予習はバッチリである

何でもこいである

程々に・・・


「また一緒に戦って欲しいというお願いよ」


「え・・またあの戦いをしろと?」


「そう」


「え・・と、ん~」


正直あんな最悪な戦いは御免被りたい

人が死んでいくシーンは実際はトラウマものである


「一つ聞きたいんだけど」


「なに?」


「なぜ俺なんだ?、なぜ俺にコンタクトを?」


「膨大な適合データの中から絞り込み、その中から更に選んで最終的に出た答えがアナタよ」


「だから何で?」


「適合者だからよ」


「ん~~」


まったく納得のいく答えではないが、データだとか様々な条件下での選考とか複雑な話を長々とされても信幸の頭ではついていけないだろうから詳しくは聞かないでおこう


「戦うって・・また攻撃を?」


「敵の作戦名はハロウィンよ」


「ハロウィン?、まだまだ先だけど・・・」


「そうまだ先、でも今から準備は始める」


「準備って?」


「このマンションはただのマンションじゃないわ」


「ただのマンションじゃないって・・・」


そういうと画面上の亜衣はニコリとして言った


「秘密基地よ」



それから三カ月以上経過した

季節は春から夏に変わり、暑い日が続く

そんな中、信幸は秘密基地であるマンションに入り浸っていた


マンションは基地のようになっていて、エレベーターにあるボタンの近くにあるセンサーに変身スマホを翳すと地下に行けるようになっている

地下は3Fまであって地下1Fは訓練場になっている

そこには何とドローン型のバイクが置かれているのだ


浮遊するバイクなどまさに近未来的だが、海外の一部では普通に販売され初めているとの事

ただしここにあるのは更に高度な『てくのろじー』とやらで開発されたモノらしく、世に出始めた浮遊バイクとの性能差に格段の開きがあるそうだ

それ故に一台当たりかなりの高額であるという

ここには3台の浮遊マシンが保管されているが、1台だけでも信幸の生涯年収など軽く超える金額であるという

それを聞いて信幸は自分の存在って・・・と顔を引きつらせた


ちなみに、信幸は何を隠そう車の免許を持っていない

そう、普通免許を持っていないのだ

今時普通免許を持っていない

MTを持っていないだけでAT限定は持っていますよね?・・・などという問題ではない

免許自体を持っていないのだ


車の免許を持っていない

それは信幸のようなおっさん世代にとっては致命的であり恥ずかしい事である

そんなんじゃ女にモテる筈もない

つまるところ信幸の彼女いない歴は車の免許及び車自体の所有の有無が大きく関わっていたかも知れないという事だ

しかし悲観は無用である

実は車の免許は持っていないが二輪の免許は持っているという奇跡

しかも大型二輪である

本来なら車の免許は持っていても二輪の免許は持っていないのが普通だが、信幸の場合は逆である

ゆえに奇人変人の部類に信幸は属している


それはともかく浮遊バイクの基本的な乗り方は通常の二輪と変わらずまたいで乗る

操作も基本的には変わらない

変わらないが大きく違うのは地にタイヤを付けて走行するか、それがないかの違い

いや、それはとてつもなく違う

二輪も一定のバランス感覚が必要だが、浮遊バイクはその比ではなくかなりのバランス感覚を要求される

だから乗りこなすには相当な練習が必要なのだ

この三カ月程度でかなり乗りこなせるようになった

広いB1Fフロアには練習用に色々と障害物が置かれていたりとするため、避ける練習にはもってこいである

まるで二輪の教習の時のような面白さがある

そして教習官がいない分、のびのびと出来る

二輪の教習時は車の教習と違って横に教習官がいてどうこう言ってくるタイプとは違うため、二輪の教習も比較的自由に乗る事が出来たのを思い出す


浮遊バイクは乗りなれると中々の代物である

流石は信幸の生涯年収を上回る一品だ


信幸は現在、次なる戦いに備え浮遊バイクを乗りこなす為に日々バイクをB1~地上のマンション駐車場までを走行させて遊んで・・・特訓している



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「ハロウィンにはまだ早いですよ―・・・」と言いたい程に朝っぱらから信幸は欝であった

何が悲しくて朝から敵の襲撃なのか


朝にいつものベンチでさあこれからパンとコーヒータイムだー・・・という丁度その瞬間に鳴ったスマホ

見ると緊急事態発生の文字が・・・

どうやら敵がハロウィンを待たずに現れたらしい


「いや・・・今夏なんだけど・・・」


それによりカレーパンもゆっくり食べられなかったし、冷たい缶コーヒーも一気飲みするしかなかった

それもこれも全てパンプキンが悪いのである

パンプキンのせいなのである

パンプキンの笑い顔は悪魔の微笑みなのである


そんなこんなで電車に揺られる信幸

今日は平日の朝

しかし世間一般が平日でも信幸が仕事という訳でもない

信幸の場合は土日関係なく稼働している工場の作業員であるため平日でも休みが割り振られる

今日がそうである、そうであるのだが朝からこれである

そして朝から出勤ラッシュに巻き込まれている

休みの日の朝から何故に通勤ラッシュに巻き込まれなければならないのか?

全て決まっている、パンプキンのせいである


「矢洞駅~矢洞駅~」


「あ!!、降ります!!」


満員電車内の奥に押し込められていた信幸は慌てて降りようとするが、矢洞駅で降りる客は少ない

少ないという事は身動きが出来ないわけで、強引に人を掻きわけ押しながら降りるしかない

しかし中々出口の扉まで行けない

モタモタしていると扉が閉まって電車が発進してしまう

これはピンチである

ここで降りずに乗り越してしまうと敵出現時間に多分間に合わない

これは非常にまずいのである

焦りが信幸を襲う

「少しはどけよ!!」・・・と思わず言ってしまいそうになるぐらい人はどかない

というかギュウギュウ詰めで避けれないと言った方が正しいか

しかしここで発車してしまうと多くの命が失われてしまうかも知れない

もうあんな惨劇は沢山だ!!

・・・とは思うものの僅かずつしか進めない


「降ります!!、降ります!!」


有る種叫びが混じった声を発しながら信幸は無我夢中で人を押しのける

今だかつて敵出現の前にこんな絶体絶命に危機に陥ったヒーローがいただろうか?

否、いない

というかそれ以前に別にヒーローでも何でもないか・・・と思う信幸

そう、別にヒーローになった訳ではない

ちょっと変身出来て、この間ちょっとロボットと戦っただけだ

そう、ヒーローでは決してない

そもそもおっさんがヒーローなどと現代ではまったく流行らない

そう、流行らないのだ

遥か昔にオートバイに乗った白いおっさんを白黒の画面で見たぐらいしか知らない

というか、遥か昔は白黒のテレビというのがあったなんて今の若い子らは知らないだろうな~


・・・というお馬鹿な事を考えながら突き進んでやっと扉付近まで来た

流石に降りている人は少しはいるのでその空間のみは多少マシだ


「やった!!、俺はやったんだ!!」


勝利のガッツポーズ、敵も倒していないのに勝利のガッツポーズである

しかし安心してはいられない

何故なら最強の敵が待ち構えていたからだ

それは扉前で踏ん張っている謎の人々

混雑時には扉付近の人が一度降りて降りたい人を降ろした方が乗車はスムーズに済む

しかし世の中には何故か扉付近で踏ん張る人種が一定数いる

何故か頑なに踏ん張るのだ

周りからすれば馬鹿かと思えるが、それがポリシーなのか降りたら負けと思っているのか頑なに踏ん張る

そして今、信幸が降りようとする正にその時に手すりに掴まり踏ん張っている奴がいた

見ると中年のおっさんである

いや、多分信幸と同い年ぐらいか少し上辺りか


「くそ!!」


面倒くさい奴がいやがると思いながら避けて降りる


「やった!!」


苦難を乗り越え信幸はやったのである

勝利である

大勝利である

これならパンプキンも目じゃないのである

楽勝なのである

今なら頭突き一発でも倒せそうだ


そう思いながら時間を見る


時間は7:40分

これならば缶コーヒーを一本ぐらいは飲めるだろうと考えた


ガシャンッ


駅の構内に据え付けられている自販機に硬貨を投入し缶コーヒーを買う

単なるコーヒーではない

コーヒー飲料だ

甘い奴だ

戦いの前はコクのある奴ではなく甘い奴の方がいい


ごくごくごく


甘いコーヒーが口を通り喉を通過していく

これであるのである

全身フル充電である

これならばパンプキンにもデコピン一発で倒せそうだ


カコン


飲み終わった缶を缶捨てのゴミ箱に入れ、乾いた音が響く


ボン!!


その時何かの破裂音がした


「!?」


見ると今買っていた自販機が爆発した


「は?」


もうもうと煙を上げる自販機、その内部から出火している


「敵か!?」


この状況はアレである、ソレである、コレなのである

つまりは敵の襲来である

しかし駅前かと思えば駅のホームど真ん中での攻撃とは

しかしなぜ自販機?、とか思っていると同じく自販機の爆発を見ていた人々も吹っ飛びだした


「は?」


信幸的には何が起こっているのか訳が分からない

敵の攻撃らしいのは分かるが手段が分からな・・・いや、分かった

空中を漂う蝙蝠

いや、そのメタリックな色合いと硬質な感じは明らかに作られた物だ

翼を広げた大きさは20cmぐらいか

その蝙蝠は不規則な動きで空中をフォーンとかいう音と共に動き回った

一匹・・・いや、一体か

しかし一体どころの騒ぎではない

よくよく周りを見て見ると何十というロボット蝙蝠が飛んでいる

そして物体にひっついて爆発する

爆発自体の殺傷力は大した事がなさそうだが、それでも爆発で人を吹き飛ばす威力はある


「複数か・・・」


信幸は歯をギリッと噛み鳴らしたと

デカイやつ単体なら前回の変身で戦い方がなんとなく分かったから少し余裕があったが、小さい奴・・・しかも複数を相手だと戦い方が分からない

いや、普通に考えれば一体ずつ破壊していくしかない

しかし同時に少し府に落ちない事があった


「敵の攻撃がハロウィンをモチーフにしているならば・・・」


つまり蝙蝠ロボットの他にもカボチャが別にいる事になる


「厄介だな」


複数に敵を同時に相手しなければならないのは非常に厄介だ

しかし四の五のいっている場合ではない

ここで逃げると出前の金や光熱費を返せとか亜衣に言われるかも知れない

出前とは何かと言うと基地マンションで取れる出前だ

いくらでも出前し放題で、しかもタダである

ジュース類もディスペンサーが設置されていて飲み放題だ

しかもエアコンをいくら使ってもこれもタダである

夏場には有り難い事だ

だから払えと言われると金欠の信幸に取っては無理なのであり、それが一番の恐怖である


「やるしかない」


そう、やるしかない

それはまるで奴隷の派遣労働者の如しである

しかしここでは変身は目立つ・・・


ボン!!


信幸の後ろ隣にいたサラリーマンが爆発した

周りは大パニックであり、中には線路側に飛降りて逃げだす人もいる


「こうなれば・・・」


ここで変身するしかない

モタモタしていると信幸自体が爆発されかねない

今なら誰もそれどころではないので見ていないだろう


「変身!!」


スマホを取り出し変身をクリックする


キィィィィィィ・・・・ンンン


金属を金属で擦る不快な音がこだまする

その音と共に眩しい光が信幸の体を包んだ


「あれ?、こんなんだったっけ?」


前回の変身の仕方とは違う

前回は空から何かが照射されてビリビリだった筈だ

今回は天からの照射もなくビリビリもない


「あれ、これは楽かも」


そう思った瞬間、信幸は鎧武者に変身した


「やった、こりゃ楽だ」


変身時の恐怖体験があった為、身構えていた信幸だったが今回は何故か前回と違って非常に楽に変身できた

これは良いのである

すごく良いのである

とても良いのである

というか前回のビリビリは一体・・・


「出たか、武者野郎!!」


変身した信幸に一人のサングラスを掛けた若い男が声を掛けてきた

黒いジャケットに胸には髑髏のマーク

しかもマスク無しだ


「は?、何だ?」


「は?、じゃねーよ、糞武者

お前を待ってたんだからよ」


「待ってた?」


「この前の戦いは面白かったぜ」


「まさかロボットの奴か?」


「ああ、今回は俺らも戦いに加わらせて貰うぜ」


そういうと猛ダッシュしてきた男は信幸に蹴りをくらわせてきた

べコォ!!

蹴りが命中し信幸の体は吹き飛んだ


「い!?」


そのまま構内の休憩室に突っ込む信幸


「ひゅ~」


男は口笛を吹いた


ガラガラ・・・


休憩室に突っ込んだ信幸だったがそのまま立ち上がり破壊された壁から外に出る


「何だこの威力は・・・」


単なる蹴りの威力ではない

普通の蹴りではここまで吹き飛ばされないし、何より弾丸すら弾く甲冑をヘコます事はできないだろう

信幸は男が蹴った個所を見て手で触る

甲冑がヘコんでいる

しかも少しではなくかなりだ


「お前は一体何だ?」


ビビりながらも信幸は聞いた


「あ、俺か?、んー、ま、何て言うの?、サイボーグ?、改造人間?、改造人間(サイボーグ)ってやつ?」


あっけらかんと言う男に信幸の仮面で隠された顔は引きつる


「サイボーグ?」


「そ、サイボーグ」


「マジでサイボーグ?」


「しつけーよ」


男はそう言うとスマホをポケットから取り出して電話を掛けた


「あ、美華か?、こっちにいたぞ」


「聞こえてるよ」


その声と共に階段から降りてくる若い女


「おまたー」


「て訳だ、二人掛かりでやらせてもらうぜ、武者さんよぉ」


「きゃは、目の前で見るとマジださ」


「そうか?、以外とイケるけどな」


「まじ?、アンタ目ぇ腐ってんじゃないの?」


「うっせーよ」


その二人に茫然としながらも信幸はある事に気付いた


「・・・?あ、ユキのモードONにしてなかった」


そして信幸は目で自動(オート)モードをダブルクリックした



➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖



「はい、信幸様ユキで~す!!」


朗らかな笑顔と共に3Dアニメーションのユキが目の前に出現する


「・・・・・」


別に構わない、そう構わないのだが信幸はそれどころではない

少しは空気を読んでくれと思う

しかも衣装が大学生っぽい服装からハロウィン仕様の魔女スタイルに変わっている


「ユキ、敵だ!!」


「はい、存じております、あ!!」


「な・・何だ!?、どうした!!」


「信幸様、今私の事をユキって」


「え?」


やはり呼び捨てはまずかったかと思わず信幸は思う


「嬉しいです」


「は?」


「ようやく信幸様と解り合えた気がして・・」


「いや、今はそれどころじゃないから!!」


「そうですね、では行きますよ」


ガッシュン!!


今まで重たかった甲冑が少し軽くなった

それと同時に画面上に様々な文字やグラフデータが飛び交う


「な・・何だ?」


しかしそれらは一瞬で収まった


「敵のデータの読み込み完了です」


「何か分かったか?」


「はい、敵は二体と複数の蝙蝠型ロボットです」


「・・そうだな」


見たまんまだが信幸は突っ込まない事にした


「それに上空に輸送型ドローン確認」


「え?」


信幸は空を見上げたがそれらしいモノは見えない

だが、敵の移動を考えるなら空から来たと考えた方が合点がいく

そしてその間約30秒

敵からすれば鎧武者が一人でブツブツ言っているようにしか見えないだろう

事実二人は一人でブツブツ言っている鎧武者に怪訝な眼差しを向けている


「晋吾~、何こいつ?」


美華は男に聞く

晋吾と呼ばれた男は少し考えて言う


「頭でも打ったか独り言いうタイプか・・または・・」


その瞬間信幸の甲冑が青白く光り、刀を腰に出現させた


「出たぜ、ロボをブッタ斬った奴だ!!」


「げ、マジ!?、ヤバくない?」


ビビる二人を尻目に信幸もビビっていた


ユキの誘導に従って信幸は刀を出したは良い

しかし信幸的にはそれでどうしよう・・と頭が混乱した

というのはロボットは確かに刀で斬った

しかし現在目の前にいるのは生身の人間である

いや、改造人間か

しかし例え改造人間とはいえ人間である事には違いがない

つまりは人間は斬れないという事だ

ロボットは人ではないので斬れるが人間はそうはいかない

斬って殺してしまえば信幸は人殺しである

殺さなくとも傷を負わせてしまえば傷害である

それは避けたい・・が、目の前の状況から逃げる訳にもいかない

ではどうするか?・・というと三通りしかない

斬って捨てるか、捕獲するか、相手を追い払うかである


「ユキ、敵を捕獲する方法はないか?」


「・・・現時点ではサイボーグを捕獲出来るアイテムは所持しておりません」


「なら追い払う方法は?」


「敵は今回信幸様の戦闘データ取得を目的にしている可能性が高いです、戦闘は避けられらません」


「俺の戦闘データか」


俺のというか甲冑のデータ目的か

舌打ちする信幸に晋吾が襲いかかってきた


「殺る気満々じゃねーか、いいね」


「うわ」


思わず刀を振る信幸

しかし晋吾はかわさず刀の刃先を蹴る


ギィン!!


振られた剣と晋吾の蹴りが当たり、金属音を響かせる


「ひゅ~」


刀を蹴った次の瞬間地に足を着け素早く体制を整えた晋吾の二撃目の蹴りが鎧の腹部に命中した

ボゴン!!

蹴られた箇所がへこむ


「なるほどな、もっと硬いかと思ってたが案外モロイな」


「何?」


「どうせならロボ斬ったあの斬撃でこいよ」


「それは・・」


「まさかとは思うけどさぁ、人殺しは嫌とかいうギャグぶちかまさねーよな?、おっさん」


「何?」


「おっさんだろアンタ?、何歳かはしんねーけど」


「え?、マジ?、おっさんなのコイツ?」


晋吾の言葉に美華は顔を引きつらせる


「声でわかんだろ?、若くねーよ」


「そう言われてみればそっね」


若い子ら二人に言われて焦る信幸

確かに若くはない

若くはないが鎧武者やってます


「お前達の・・」


そんな信幸だったが、一つだけ気になる事があってそれはどうしても聞いておかなければならない事だった


「あん?」


「お前達の目的は何だ?」


「はぁ?、そんなの聞いてどうすんの?」


美華は小馬鹿にした言い方で信幸にぶつけてきたが晋吾は少し考えて答えた


「この国の粛清って奴かな?」


「粛清?」


「カスみたいな奴が多いだろ?、この国は腐りきっててどうしょうもねーだろ」


「ああ、で腐ってる奴等を皆殺すって奴か?」


「そそ、以外と話がわかるね~」


まぁ、その手の漫画やアニメなど腐るほどある訳で・・

そういった類のモノを若い頃から見てきた信幸には特別珍しい思考じゃぁない

むしろ昔懐かしい思考だ


「お前達のバックには悪のAIがいる事を知ってるのか?」


「AIだろ?、知ってるよ、そいつの指示で動いてるんだからな」


「お前たちも選ばれた者達って訳か」


「適当なんじゃね?、まぁ俺達はぶっ壊したいで集まっただけだからな」


「この国を壊してお前達が政治を取ると?」


「興味ねーよ、俺達は壊すだけだ、後はAIが勝手にやるだろ」


「なるほどな」


信幸はようやく合点がいった

自分が敵としてる者達の正体を


「止めるぞ、お前達をな」


その言葉に晋吾は嫌そうな顔をする


「はぁ?、何の為に?、アンタだって不満あんだろ?」


「俺はお前達みたいなガキは嫌いなんだよ」


「言ってる意味がわかんね~」


「ちょっと晋吾!!」


「何だよ」


美華の声に晋吾は振り向く


「時間よ!!」


「あ、しまった・・くそ、結局データあんまり取れてないじゃん」


「いくよ、晋吾!!」


「ちっ・・じゃあまたな鎧武者、今度はハロウィンで会おうぜ」


そう言う晋吾と美華の前にドローンが一つずつ浮遊しながら足元に降りてきた

二人はそれに足を乗せる

そしてドローンは二人を乗せて上昇していった

どうやら人を載せて飛行できるタイプのドローンのようだ

同時に蝙蝠型ロボも一斉に空に飛んでいく

空に輸送機があるらしいのでそれに乗って逃げるようだ


「・・・・・」


これは追い払う事に成功したと言えるのか?

というか、何なんだ今回の件は・・・と思った信幸だったがハタと気付いた

信幸もモタモタはしていられない

救急車とパトカーのサイレンの音が駅周囲にこだましている


「やばい・・・」


これはガチでやばいのである

連中は空の大型ドローンとやらで逃げ果せるだろうが信幸には駅からの脱出手段がない

この姿で見つかれば確実にこれを『やらかした』張本人として逮捕されてしまうだろう


「いや、洒落になってないけど」


そうギャグではない

しかしマジでやばいが現状ではどうにも出来ない

最悪力ずくでの突破になるがこれは警官とやりあわないといけない案件だ


「うわ、マジか・・」


その最悪を想定して嫌な気分になった


フォン!!


そんな信幸に救いの手が差し伸べられた

いや、手ではない

バイクだ!!


「これに乗って撤退よ!」


兜の通信から亜衣の声が聞こえた


「どこに逃げる?」


「遠隔操作(リモートコントロール)で動かすから信幸は乗っているだけでいいわ」


「分かった」


そういうと信幸はバイクにまたがる


「行くわよ?」


「どうぞ!!」


フォン!!


少し宙に浮いたバイクに信幸は「おおっ」となる

練習して馴れてはいるが、この浮き上がる時の浮遊感は今でも「おおっ」となる


「行くわよ!!」


その亜衣の言葉と共に線路に出たバイクは電線を避け、一気に空に上昇した

5メートル、6メートル・・10メートル

下を見ると丁度ホームに警官隊が入って来た所だった


「しっかり捉まっててね」


亜衣の念押しに信幸は「ああ」と答える

いくら甲冑を着ているとはいえ上空からの落下は鎧兜は耐えれても、その中身がぐちゃぐちゃになるらしい

バイク自体は遠隔操作出来ても乗っている人間が落ちては意味がない

練習の目的はバイクから落ちない事に主眼が置かれていたのだ


そしてバイクは空中を緩やかな速度で走行しだす

それも徐々に速度が上がりだし、そのまま信幸は空を翔けた



➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖



ジジジ・・ジジ・・


オレンジカボチャのくり抜かれ刻まれた目や鼻や口から光がぼんやりと漏れ出す

ジャック・オ―・ランタンは今日も元気である

元気と言ってもランタンなので元気というのは間違いかも知れない

しかし確かに元気に輝いてはいる


吊り下げられたカボチャランタンは不気味に微笑む

その微笑みは誰に向けられている訳でもない

その微笑みは秋の収穫を祝う笑みか、悪霊を追い出す笑みか、はたまたジャックの自嘲か


マンションのアチコチにいつの間にか吊り下げ飾られているジャック・オ―・ランタン

それとにらめっこする信幸

誰が設置したのか?

それは謎である

謎ではあるが実は謎ではない

亜衣が何らかの方法でここに置いたのは間違いないからだ

しかしどうやって?

それは分からないが変身の時に甲冑が突然現れるのと一緒で、このランタンも突然現れたと言われても特別に不思議な事ではない

しかし何者かが入ってランタンを吊り下げたとも考えられる

まぁ、そんな事は考えてみても無意味なので考えない事にした

しかしよくよく考えてみれば今は夏だ

ハロウィンのランタンを飾るのはまだまだ・・・というか早すぎる

しかし信幸は考えない事にした

考えたら負けである



矢洞駅のドタバタをバイクに乗り逃げた信幸は本来の自宅マンションとは違う方向に進んだ

凡そ10キロほど飛行していたバイクはとある駐車場にゆっくりと着地した

降りた駐車場には中央に5tトラックが停まっていて、バイク到着と共に後ろの荷台が開く


「降りて、信幸」


通信から亜衣の声が聞こえた

その言葉に従って信幸はよたよたとバイクを降りる

しかし変身はまだ解けておらず、甲冑を着たままなので動きは僅かにもたつく


「離れて、信幸」


信幸がバイクから離れたのを見計らって飛行バイクは浮かび上がる


そしてトラックの荷台に入る高さまで浮上すると中に入っていった

そして中まで入ったバイクは静かに着地する


「お~」


一寸の狂いもなく綺麗に収納されたバイクを見て信幸は感心の声を出す

失敗して横にぶつかったらある意味面白いだろうな~と一瞬思った信幸だったが、自分が乗っている時に失敗されたら墜落死確定なのでその考えを打ち消した


ウィーン・・・・・、ガシャン


バイクを収納したトラックは荷台後方の扉を閉めた

そしてエンジンがかかる


「なるほどね~」


バイクをそのままマンションに持って帰るのではなく一度違う場所で回収してから持って帰るという事である

確かにその方が直接マンション前に降り立つよりも良い


「マンションに帰るのかな?」


信幸のつぶやきに亜衣は答えた


「メンテナンスを行うわ」


「え?、一回使っただけで?」


「その前に何度も練習しているでしょ?」


「ああ、やはり今のは練習用に使っていた奴か」


どうりで乗り心地が良かった訳だ

何故なら乗り馴れているから

マンションに置いてある浮遊バイクは計三台

一台は乗りまくっていたが、他の二台は一切触っていない新品のまっさらである

それにしてもこまめにメンテナンスをするのは非常に宜しい

メンテナンスの重要性を全然理解していない日本の製造業企業とはまるで違う


そうこう考えている内にトラックは信幸が見ている前でゆっくりと動き出し、そのまま駐車場から出て行った


「あれ?、俺は?」


バイクはトラックで運搬するとして、取り残された信幸は困った

まさかここから歩いて帰れと言うのか・・・


キュュイ―ン・・・


信幸の後方から電気自動車特有の音がした


「?」


信幸が振りかえると駐車場に停めてあったもう一台の乗用車が動き出し信幸に迫ってくる


「あれ?」


もしかしてこのまま轢かれて死亡か?・・・とか思ったが甲冑を着ているので何とかはなりそうではある

しかしそうはならなかった


キュイ


信幸の手前で止まった車の後部座席側のドアが開く


「あれ、これって・・・」


「送るわ、乗って信幸」


運転手席には亜衣がいた

いや、居るのではなくホログラフィックだ


「あれ?、亜衣?」


「そうよ」


普段の女子高生顔ではなく顔立ちがやや大人っぽくなっている


「ああ・・・」


その変化に信幸は納得した

確かに18歳以上でなければ運転免許は取得できない

走行中に他の人間から見てどう思われるかを考慮した結果の事であろう


感心しながら車に乗り込む信幸

しかし甲冑を着ての乗車は非常に乗りにくい

この前は意識が朦朧とした状態であったから特に何も考えずに倒れ込む形で乗り込んだが、意識がはっきりしている状態の今は乗りにくくて仕方ない


「こなくそ!!」


何とか乗り込んだ信幸は大きく息を吸って吐いた


「出るわよ」


「はいよー」


その言葉に合わせるように車は発進する

それと共に変身が解けた


「楽になった・・・」


そういう信幸に車に亜衣が声を掛ける


「お疲れ様、信幸」


「ああ、とは言え敵は倒していないけどね」


「今回は信幸のデータを取るのが目的だったみたいね」


「その割にはさっさと撤退していったけどね」


「甲冑の硬度や耐久力を調べたと思われるわ」


「それであの騒ぎを?」


「エリカに取っては取るに足らない事ね」


「エリカ?」


「悪意のAI、それがエリカ」


「エリカね・・・」


信幸に取っては自分が戦っているらしき相手の名前がここで初めて分かった


「あの改造人間達は本当に改造人間なのか?」


「強化系改造人間ね」


「強化系?」


「そう、本来の肉体に何らかの強化措置を施された人間よ」


「元は人間なんだよな?」


「そう、元は人間・・・と言っても今でも人間である事には違いないけどね」


「つまり普通に剣で斬ったら死ぬって事だよな?」


「そう、普通に死ぬわ」


「・・・・・」


んー・・と信幸は考える

ロボットと戦うのはまだしも人間と戦うとなるとヤバいのだ


「心配しなくとも改造人間(サイボーグ)はこちらで何とかするわ」


「え?、何とかって?」


「今回の戦闘には間に合わなかったけど、もうじき新型が日本に来るわ」


「新型?」


「新型の戦闘用ロボ・dog-05よ」


「dog-05?、ん?、dog?」


「そうdog」


「え?、それって」


「犬型戦闘用ロボ」


「犬型・・・いやいや、犬って」


「大丈夫よ、全長約2mの軍用目的で設計されたAi搭載戦闘用ロボットだから」


「でか!!、2mって」


「それを改造人間にぶつけるわ」


「え、こっち側にもロボットいるの?」


「あくまで四足歩行タイプだけどね、実戦投入は一度もないし」


「・・・・・」


信幸は黙る

戦闘用ロボ・・・そんなモノが味方として投入されれば信幸が改造人間と戦わずに済んでしまうが、それだとそもそも信幸の存在自体がいらないのではないかとも思える


「そ・・・そう言えば小型の蝙蝠型ロボは面倒だった」


「それも手を打つわ」


「そ・・・そうか」


動揺しながらも信幸は考えた

このまま行けば場合によっては信幸はいらなくなる可能性はある

しかし逆に考えれば訳のわからないAI同士の戦いから離脱出来る可能性も大いにある訳で・・・

次の戦いで引退してもそれはそれで構わないとも思えるのだ


「あ、そうだ」


「何?」


「男の方が言っていた、ハロウィンでまた会おうとか」


「それは調べている最中よ」


「ハロウィンの日に何か企んでいるのかな?」


「でしょうね、あ、一旦通信は切るわ」


「ん、ああ・・・」


そう言うと亜衣からの通信は途切れた


「おーい」


運転している姿が映し出されている亜衣に声を掛けてみたが返事はない


「・・・・・」


それにしても本当に目の前に実際にいるかのようなくっきりとした質感を感じさせる

その高い技術に信幸は感心した



➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖



駅構内の戦いから一週間

朝の休日、信幸は公園のベンチに座りカレーパンと牛乳を飲みながらゆったりとしていた

光熱費無料・出前無料の秘密基地マンションの存在は生存するには大助かりである

ブラック派遣ですら仕事がない状況ではAIに頼るしかないという生活は人間としてどうなのかという感じはあるが、真夏の猛暑にタダでクーラーが使えるのはメリットが大きい


「あー・・・だる」


そうダルいのである

夏バテである


「・・・猫だ」


信幸がパンを食べていると欲しそうに草むらから見ている野良猫共は健在である

夏でも冬でも暑くとも寒くとも生きている野良ども

まったくその生命力は大したモノだ

もっとも、それは餌を与えるおじさんやおばさんの存在が大きいが


「あー・・・仕事ないなぁ・・・」


非正規労働者である信幸

その製造の仕事も最近では海外から来ている技能実習生達に取って代わられている

単純作業に何の技能を習得可能なのかは知らないが、とにかく技能実習である

そうした若い子達が日本に大量に入ってきた結果、信幸のような低賃金非正規派遣労働者は派遣切りにあい、追い出しを食らっている

ただ幸いな事に信幸はAIとの契約書なき契約により、マンション基地による食と電気ガス水道使い放題なため窮地には何とか陥らずにいる

とは言え元々借りているマンションの家賃代は払わなければならず、仕事がない信幸的にはどうするかという所だ

亜衣の提案で基地マンションに引っ越してくれば良いと言ってくれているがそれには抵抗がかなりある

一つはいつまでもでもAI同士の戦いが続くとも思えない事だ

戦いが終われば信幸はお払い箱であり、追い出されるかも知れない

追い出されれば路頭に迷うしか無くなってジ・エンドである

それは避けたい

もう一つは戦いが嫌な事

成り行き上、ロボット戦や改造人間戦で戦ったがそもそも信幸には戦う理由は何もない

そう、正直断ってもいいのだ

出前も光熱費も取りあえずロボット戦や改造人間戦でチャラに出来るかも知れない

だから断っても良いのだ


「そうだ、断ろう」


突然信幸の頭に閃いたこの考え

なぜ今まで気づかなかったのだろうかと舌打ちしたくなる


「あー、カレーパン美味い~」


カリカリのカレーパンをかじりながら牛乳を飲む信幸

久しぶりに信幸の心に平安が訪れた

もう戦わなくても良いんだという安心感

低賃金非正規ブラック職場の労働者であったとしても、戦闘で命を掛けて戦わなければならないよりは遥かにマシだ


「うむ、そうしよう」


信幸は決意した

大いに決意した

もはや決心が鈍る事は無いであろう


そんな時、絶妙のタイミングで変身スマホが鳴った


「いや、もう戦わないぞ」


そう思いながらも、取りあえずは変身スマホを取り出し画面を見てみる

メッセージが届いている


「まさか敵襲来か?」


戦った男の口調では再び襲ってくるのはハロウィンの日の筈だ

それはまだまだ先であり、今日ではない筈だ

しかしメッセージは来ている

その内容は分からないが、敵の急襲再びが有り得ないとも言えない

とにかく見てみない事には始まらない

信幸は恐る恐るメッセージを開けた


「・・・・・」


そこには・・・

「正式な契約を結べば報酬を払いますよ~」

という亜衣からのメッセージ


「・・・は?」


信幸はそのメッセージを何度も見返した


「報酬って・・・なに?」


そんな話など今まで聞いていない


「報酬出るの?」


それはまったく予想外だ

しかも辞めようと決心したこのタイミングである


「思考読まれてる?」


その余りのタイミングの良さに信幸は本気でそう思った

というか契約とは何なのか?

つまるところ雇用契約っぽいモノかも知れないが、AIと契約を結ぶというのがピンと来ない

何より契約内容が分からない以上、どうにもならないのたが・・・と思ったらまたメッセージが来た


「契約に興味があるならここをクリック、内容見れるよ~」


「・・・・・」


信幸は周囲を見渡す

亜衣からどこかから見られているんじゃないかと本気で思うからだ


「契約かぁ・・・」


信幸的にも興味はある

コロナ過の影響で少なくなった求人が復活してきているとはいえ、ブラック企業にこのまま非正規で仕事をし続けるにも限界がある

かといって信幸の年齢では正社員としての道は無く、求人があったとしても競争率は高く採用される見込みは限りなく薄く遠い

つまる所、色々と詰みである

終わっているのである

人生の終焉でありサラバでゴザルであり無意味な生涯だったよね~である

氷河期世代の負け組とはそうしたものである


だが信幸は既に手遅れだとは分かってはいても起死回生を狙えるのなら狙ってみたいと最近思えるようになった

そんなもの異世界転生でもしないと無理だよね~とは思うが、今信幸の目の前にはそれと同様に奇妙な話が転がってはいる

つまりそれを拾うかどうかは信幸自身である

チャンスはそうそうないが、ある時にサッと手にできるかどうかでその人生は大きく変わるのだ


「まぁ、見るだけなら・・・」


信幸は契約内容のボタンを押した

画面が切り替わり契約についての文章が並ぶ

取りあえず適当にざっと見ていた信幸は報酬についての項目に目を留めた


「え・・・マジか?」


報酬について見た事もない金額が提示されていた

戦闘に関わった場合や敵を倒した際の報酬はおおよそ信幸の想像した金額とは比べ物にならない程の額が支払われるようだ

しかもそれは契約前にまで遡るという話

つまりロボット撃破や駅での改造人間との戦闘も支払われるという事になる


「・・・・・」


契約をすれば金銭に余裕があるどころではない額が入ってくる

本当にキチンと支払われればの話だが、もし本当ならブラック企業なんぞで非正規労働なんぞやっている場合では

いや、非正規どころか正規社員ですら馬鹿馬鹿しくてやっていられない程の額

だがその報酬を貰うにはAIと契約し指示命令に従わなければならない


「それなぁー・・・」


何か抵抗らしきものは勿論ある

何せ相手はAIだ

恐らくAIと雇用契約を結ぶのは信幸が初なのではないか

何かその初について抵抗はある

とは言えブラック企業で指示に従いながら低賃金労働をやるよりAIの指示に従いながら超高給貰った方が得ではあるだろう

戦闘は嫌だが

AIの支配を取るかブラック企業の支配に甘んじるか・・・ある意味究極の選択だ


「うん、明日考えよう」


信幸はこの問題を明日以降考える事にした

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ロスジェネヒーロー @nau2018

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