第26話『陰謀』


 僕は久遠強司。

 僕はある人を、第3魔導学校の教室に呼んだ。


「笹村先生、こんにちは」

「はい、こんにちは」


 笹村愛。僕の担任である。

 赤縁眼鏡とハートのイヤリングがトレードマークで。

 みんなから、愛ちゃん先生と呼ばれている。


「すいません、わざわざ来てもらって」

「いいのよ。それはそうと、久遠くん、優勝おめでとう」


 笑顔で拍手をしてくれた。


「八雲くんのおかげです」

「確かに、準決勝と決勝は彼の手柄かもしれないわ。だけど、それまで勝ち進んだのは、久遠くんや龍千地くんの頑張りがあったからよ」


「ありがとうございます」


 笹村先生は優しいな。けど、彼女には大きな秘密を持っている。


「で、話って何かしら?」


「《けっかい(結界Ⅷ)》」


 俺は教室内に強力な結界をはる。これで、誰かに盗み聞きされる事も、奇襲をかけてくるのも困難だろう。


「わざわざ、結界をはるほど、重要な話?」


 先生は、苦笑し。近くにある席に座る。

 僕は先生の近くにある机に座る。


「お行儀が悪いですよ久遠くん。 で、話は何かな?」

「実は、笹村先生に頼み事があるんです」


 さあ、笹村先生、僕の頼み事を引き受けてくれるかな?

 まあ、拒否したら地獄に落とすけどね。


「頼みね、先生が手伝える範囲なら、何でもいいわ」

「そうですね、先生にはスパイになって欲しいんです」


 そう、僕は彼女にスパイになって欲しいのだ。


「あら、スパイ? こんなワタシにスパイだなんて。どんな事? 教えてちょうだい」

「魔神教の事です」

「……魔神教?」


 ハハハ。とぼけてるな。無駄な事をするね。


「とぼけないくていいです。先生が魔神教の信仰者であり、幹部だって知ってますから」

「あら、ワタシは魔神教を信仰者じゃないわ」


 まだ、とぼけるのか。往生際おうじょうぎが悪いよ、先生?


「口を割りましたよ? 犯罪グループの『癌闇地獄がんやみじごく』さん達は」


「……!」


 顔に出さないようしてるけど、体がビクっとしてるよ。内心、動揺してるのが手に取るようにわかる。


「うん、いい反応ですね」

「久遠くん、話がわからないんだけど?」


 まだ、とぼけるのか。証拠はいくらでも、あるというのに。


「犯罪グループは『癌闇地獄』の一人が、闇蛇間学をそそのかし、花輪囲さんと八雲くんを誘拐し、八雲くんを殺害させようとした。知ってますよね?」


「初耳だわ」

「犯罪グループ『癌闇地獄』は魔神教と繋がっているんです。その証拠を僕は持っている」

「証拠?」

「これです」


 彼女にリストのコピーを渡す。彼女の手はわずかに震えているのを僕は見逃さない。


「これは……」


 彼女は目を大きく見開き、リストを食い入るように見る。


「どうです?」


「……」


 先生は観念したのか、目を閉じ、一呼吸する。


「スパイになればいいのかしら?」

「はい、そうです」

「わかった。でも、あくまでワタシのできる範囲でよ。バレたら、拷問を受けるの可能性が高いわ。あなたも当然、その標的になる。覚悟はあるの?」


 そう言って、僕を睨み付ける。その目は人殺しの目だよ?


「おお、それは、怖いですね~」


 僕はわざとらしく、肩をすくめる。


「引き返すなら今のうちよ?」

「いえ、大丈夫です。痛いのは慣れているんでね」


 僕って、嫌われ者だからね。結構、痛い思いをした経験がある。

 まあ、悪魔の拷問は苦手だけどね。


「そう」

「では、よろしくお願いします」

「よろしく」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る