第3話 ヘル・ウルフ討伐(2)

【ソーエン視点】

 本当はこの闘いにアオバを連れていくことは反対していたんだ。だが、どうだ。弟子は役にたっている。誰がなんと言おうと…な。刃をムッキーに向けたまま、内心は苛立っているが感情を抑える。俺様は師匠だからな。

「誰が何と言おうと…弟子は役にたっている…!」

アオバの蒼き焔の魔力を喰らったボス個体のヘル・ウルフは無効化した魔力を自身の力に変える性質であることが判明した。恐らく…俺様の魔力をも喰らい…想像より強い恐れがある。

「俺様の魔力さえも喰らった…かもな。」

「「えっ?」」

ムッキーとアオバの二人は青ざめる。俺様の災害級の魔法を目の当たりにして…さらにはそれさえも喰らい強くなった数千のヘル・ウルフの群れ。普通は、戦意喪失するだろう。だが、俺様は違うってところを大好きな愛すべき弟子に見せつけるのだ。

「はははは! 犬コロ風情が! さあ、かかってきやがれ! 俺様は逃げも隠れもしないぞ! どうした!」

 挑発することがモンスターに効果的な場合もある。まあ、人の言葉を理解しているとみられる個体に遭遇した経験はあまりないが。

 試しに魔力を再び練り上げてみる。蒼き火の粉が蝶々のように飛び交う。すると魔力に引き寄せられたかのようにヘル・ウルフの群れが現れた。魔力を腕だけに纏(まと)わせる。焔の性質は筋力向上の効果がある。その焔の中でも火力が高い蒼き焔は肉弾戦にも通じるのだ。

「アオバよ…その瞳に焼き付けておけ。これが蒼き焔の力の真髄(しんずい)よ。」

蒼き焔の魔力が腕のみに集中する。刀を片手で振るう。筋力向上のおかげで骨までスルリと切り裂いてゆく。

 血の雨を降らせていく俺の姿を過去の故郷の同胞達は鬼と呼び恐れ避けた。故郷を捨てこの和国にて出会った弟子。

 俺と同じ蒼き髪に蒼き瞳…蒼き焔の魔力を持つアオバと出会ったんだ。

「かつて蒼鬼と呼ばれた男の剣だ。とくと味わうがいい…犬コロ共よ。」

鬼気迫る戦闘にはならないが準備運動がてらヘル・ウルフの群れを斬る、切る、KILL。内心のテンションは爆上がりだ。刀に血が滴り落ちる。それを拭う間もなく次から次へ湧いて出てくるヘル・ウルフ共。俺様とアオバの蒼き焔の魔力を喰らった影響で蒼い毛並みになっており度々蒼き焔を吐き出してくるが、所詮二番煎じの力。俺様の前には通用しない。

「はははは! 蒼き焔を我が力と思い込みやがって…甘いわ!犬コロ風情が! ひれ伏すがいい!」

「師匠…いつもよりやる気満々ですね。」

「お前の師匠…戦闘狂か?」

 闘いの最中ムッキーとアオバが何か話しているが俺様の耳に入らない。闘いに必要な情報を取捨選択してひたすら標的を斬り伏せる戦闘マシーンだったあの頃に一時的に戻る。

「はははは! 闘いは数じゃねえんだよ! 圧倒的な質で切り裂いてゆく。それが闘いってやつだ!」

「流石師匠ですね!」

「いや、いや! そんな無茶苦茶な闘い方はソーエンさんだけしかできねぇよ?!」

 一心不乱にただただ刀を振るう。戦闘技術? 対モンスター? 対人? 知ったこっちゃねぇよ。標的は全て死あるのみだ。腕に纏わせた蒼き焔の魔力が闇夜になった今も輝く。そうだ。纏わせた蒼き焔の魔力は闇夜を照らす光にもなるのだ。我が弟子よ見ているか。視線をアオバに向ける。

「流石ですね! 師匠!」

「もう、こいつは何をしても師匠を褒め称えるやつってわかったぜ。」

そして、朝日が昇る頃…ようやく最後の1匹の首を真っ二つにして闘いは終幕を迎えた。

「他愛ないな…SSS級の依頼か? これは。」

「いや、いやいや! これはランク外の災厄級の依頼にあたるぞ! 6500万ジェルでは安いくらいだったぞ!! まさかあれだけの大群を本当に単騎で討伐するだなんて…。」

チャキン!

「弟子もいたぞ?」

「あの、師匠? ムッキーさんは悪くないですよ?」

「なら、仕方ないな。」

「すぐ刃向けるなよ?! めちゃくちゃびびるんだからな!」

「すまないな。弟子を悪く言われたらつい刀に手がいくんだ。」

「やめて!」

「ムッキーさんいじめるのこれ以上は許さないよ? 師匠…。」

「む、了解。」

こうして、俺たちは路銀を稼ぐことに成功した。

「ああ…! ところでお前さん達は若いんだから流浪の旅ばかりでなく…学園かギルドに所属しないか? 断言する…流浪の旅より稼ぐことができるようになると!」

「ムッキーさんなんかすごい張り切ってるね?」

「学園かギルド…か。今まで二人で何とかやってきていたからな。和国にて蒼き焔の剣士の噂が広がるくらいには…な。」

二人はひとまず宿に泊まることにしてギルドに所属するか、学園に通うことにするか相談することにした。

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