第28話 ゲオルグの痛み

「なんやあにさん珍しく前出たぁ思うたら苦戦してますやん」

「うっさい! そっちこそ来るの遅いやん」

「仕方ないやろ? 精霊王様に祈りを捧げていたんや…これもわいの仕事やて」

「そなこと言うて、どうせ自分が祈り捧げたかっただけやろ」

「そうですよぉ、その前に精霊王様は守護者ガルディの一員ですぅ、馬鹿にせんといてや!」

守護者ガルディ言うんなら師匠はんに頼みこんで会わせてもらえや」

「そんな迷惑なことできませんわ!」

「まあまあまあまあ…2人とも落ち着いて、ね? 兄弟なんだから仲良くしようよ」

喧嘩腰で口論になる木聯とタチアオイを宥めるアロエ、その仲介で仕方ないと口論をやめた。

「まあええ、アロエ戦えるかぁ?」

「うん、もう行けるよ」

「まだやるの? わい一応聖女の本気として魔法使ったんやけど…」

少し拗ねたような物言いをするタチアオイを咄嗟に腕の中に抱いて防御魔法を展開する。

十徳武器魔法瑪瑙めのうハサミ

木聯が巨大なハサミを出して、刃を二つに分けてぶん投げる。パシッ!

その片方の鋏がキャッチされた。

「勘弁してや、うちが師匠に怒られてしまう」

目を向けた先には無傷のベルゼブブとルキフグスが歩いてきた。

「ふざけてる」

絶望の声を上げるアロエは杖を握っている手に力を込める。

あにさんどうします?」

タチアオイが木聯に指示を仰ぐ。ふむと一寸考え、逆刃刀を手に取る。

「変わらん、時間稼ぎや…七洋御客様がお帰りになるまでのな」



落下した2人の行き先は大きな池のような場所であった。水深は浅く、足が濡れるくらいまで、そこには花が浮かんでおり、水が発光していた。周りは断崖絶壁、上からは水が滝のように落ちている。石碑のようなものが残骸としてあるくらい、あとは目立ったことはない。

「…水も滴るいい漢だな、腹立つ」

「見ない間に貧相な体になってるなあ、俺も仕事で来てる…が、魔法の実験台になってもらうぜ」

「ハッ! 相も変わらず引きこもって魔法の研究か?」

「それは……お前もだろうがよっ!!」

マナ魔法水源荒らしフェストケルパー

マナ魔法氷河の散在アイスクラフト

池の水が生き物のように動き出して実経を襲うが、それを全て凍らせて氷の足場を作る。滝を形成していた水が足場を削り実経を狙う。しかし、水の軌道を完璧に読み実経が凍らせる。

「おい! 滝の上の水浴びたくねえか?」

キルケが上を指差す。実経を見下すような目をしたキルケを蹴落とそうと飛び掛かる実経の腕を掴み逃げられないようにする。

マナ魔法水系水を操る魔法ヴァッサッ

掴んだ腕を手加減無しに地面に叩きつけるように投げる。落下と同時に滝の上から大量の水が実経を呑み込み落ちる。

マナ魔法時空系時空落としアーベントロート

実経が魔法を使うと大量の水が消え、もとの状態に戻っている。

(あっぶねぇ~! あの野郎、物量で殺す気だったな?&見下ろしやがって…ああいうのが嫌いなんだよ!)

真下からガンを飛ばす実経だが、すうと息を整えて一対の鎌をぶん投げて距離を詰める。

「魔法使いにとって目に見えた急襲は無謀な策だって知ってんだろうが、」

「生憎、俺は独学だからな! 近づきさえすりゃあいいんだよっ!」

マナ魔法時空系時空の色褪せアーベントロート

キルケの間合いに入りこんだ実経、鎌を回収してそのままの勢いでキルケの左腕に刃を当てると、触れた場所から感染してキルケの左腕がしわしわに枯れた。

「……うざ」

「あ?聞こえなかったなぁ!!もっと褒めてくれよ、魔法の開祖様よおお!」

「なら、お望みどおり!!死ねっ!!」

マナ魔法雷系雷霆ドナー•メテの錨オオロロギー”

冷徹な瞳には黒々とした閃光が映る。天井から落ちる稲光が水の中を走り、威力が増幅する。

「っ、てめぇ!」

浮遊魔法で脱出しようとするキルケの足を鎌で貫通させて動きを封じる。

「兄貴のとこには行かせねぇよ、お前の行くとこは奈落だ!」

マナ魔法時空系時空落としアーベントロート

稲光が水中をさらに駆け巡り、大爆発が起きる。逃げようと最善を尽くすキルケだが、実経の自殺紛いの爆破攻撃に巻き添えを食らう。

「…いや~我ながらの自殺行為だな」

綺麗な池には落下してきた岩があり、水が濁っている。その天井を見ると落ちてきた穴は塞がっている、というか木の根で塞がれている。

(やっぱりイレミアがこっちに援軍に来れねえように仕組んだな、まああいつ相手に援軍なんて余裕はねえが……仕事片付けねえと帰れねぇからな)

実経は辺りを見回して状況を確認する。そうすると断崖絶壁であった地の壁が崩れ、その先には新たな池が広がっていた。始めに落ちてきた池よりも大きく、水深は膝下くらいまである。その中央には石碑と、石盤らしき破片が散らばっている。ジャバジャバと水で重くなった足を動かし、そこまでいく。石碑のある小さな島だけが発光していて、そこからは何処と無く神秘的な力が感じられる。実経は石碑に彫られた文字をなぞる。苔が生えたり、石碑だったりとが劣化していて読みづらいが、実経にはこれが何か分かった。

「こりゃすげぇ」

完全に石碑の内容に夢中になっている実経の背後にキルケが立っていた。咄嗟に鎌を手に取り振り向こうとする実経の首を絞める。

「あっ、ぐ!」

「時空魔法を構築する術式はたったの1つ、それ故に当人のイメージに大いに左右される博打の魔法…だからこそ急襲に対応できる魔法じゃねえ、あれほど魔力探知を怠るなと教えたんだがなあ」

キルケの手に力が込められ、実経が息ができないくらいにまで首を絞める。

「てめぇ相手に、、、魔力探知なんか意味ねぇんだよ! いいのかよ、こんなに密着しやがって……」

「……」

「時空魔法は空間を指定し、さらにその空間の時間を想像することでやっと魔法として成り立つ……だけどよぉ、俺がで座天使級魔法使いになったと思ってんのか?」

「その階級も魔法の開祖には意味がねえ」

「そうかよぉ、なら、なんで殺さなかった?」

「!」

実経の予想外の発言にキルケの心の内の余裕が乱される。

「今までもずうっと殺せるチャンスはあった、兄貴とかイニティウムの姉貴がいたからかもしれねぇが…それでもお前は、いやお前たちは俺を殺さなかった……」

(こいつ!)

無表情ながらも、実経の首を絞める力が強くなり、実経が苦しそうな声を出す。それでも何かを訴えかけて、否、煽っている。



「魔法の開祖らが実経を殺さなかった理由ですか?」

原初一族の里、その館の1室、白練がイニティウムを警戒しつつも話に興味があるように話す。窓側にいる純白の布で包まれた踊り子のようなドレスを身に纏うイニティウム。

「ええ、魔法の開祖は魔法に関して絶対的な執着を持っているが故に劣等種が魔法を使うなんてことを赦さない……フッ! 馬鹿馬鹿しい」

「それは種族に関してですか、それとも紅帝族に対してですか?」

「ん、それはまだ内緒」

人差し指を口に当てて微笑むイニティウムに白練はキュンと心を射貫かれたことを少し悔しがる。

「本題が…」

白練が恐る恐る話を戻す。イニティウムはそうねそうね、と相づちを打って話し始めた。

「魔法界において始まりの賢者が生み出した最高の魔法と称される魔法…知っているかしら?」

「存在だけなら」

「この宇宙の根幹を破壊•創造する頂点魔法、頂点魔法は宇宙でたったの3つしかない、そしてこれを扱える人類も3人だけ…座天使ソロネ級魔法使いでの使用成功者として実経は魔法使いとして地位を擁立した」



「てめえらが欲して、欲して、憧れてやまねえ魔法だ!」

実経の口角が上がり、悪魔のように嘲笑うその姿にキルケはぞっと背筋が凍る。実経の首から手を離して後退し、魔法を展開する。

マナ魔法雷系雷霆ドナー•メテの錨オオロロギー”

「なんてな…」

キルケが魔法を発動させたことを確認して実経は安堵する。

マナ魔法時空系時空戻しアーベントロート

「使うわけねえだろ?ば~~~かっ!!」

「ブッ殺す!!」

雷を時空魔法で無効化して煽り散らす実経にキルケは怒りの矛先を向けまくる。しかし、2人は一筋の光を見た。その煌めく光は1人が握っている剱から、2人が唖然としていると謎の人間が剱を薙ぐ。その剱から放たれたる太刀筋は広範囲の物体を一刀両断し、屈強な大地の根で支えられている地の壁をぶった斬る。実経は落ちてきた巨岩を盾にして様子を伺うも、瞬きの間に移動して巨岩ごと実経を断つ。

「ぐっ!!」

防御魔法を斬られることを前提に剱を流して後退あとずさる。キルケが謎の人間の頭上を取り、水を操る魔法で水の弓矢を創り矢を放つ。水の矢は謎の人間に中る直前に分散して氷の矢へと変化する。

「チッ! だめか…」

宙から眺めているキルケの瞳には小さな謎の人間が誰なのか分からなかった。フードを被っていて目を隠しているのだ。そうやって観察していると謎の人間が大きく映る。

(…なんでこんなに、大きく……いや、そうか、コイツが近づいてきたのか!)

刹那に脳の処理が遅れたキルケだったが、謎の人間が剱を振るう時間とコンマ1秒の差で防御魔法を展開する。

がんっ!!!

太刀を諸に食らったキルケは壁に埋め込まれる。一瞬意識が飛ぶがすぐに立ち上がり、血を拭う。

「そのまま死んでくれたらよかったんだがなあ」

「相っ変わらずの嫌み口だな…で、あれなんだよ」

謎の人間、タンクトップハイネックとサバイバルパンツの女をキルケは不審がる。女が被っていたフードを取ると、露になるカリナンダイヤモンドの三つ編みになっている髪、しかしながら目隠しをしているため素顔は分からない。実経にはこれだけの情報で誰なのか特定できた。

「あ゛~……下手したら俺らは生きて帰れねえぞ」

「………まさか」

2人揃って悲痛な声を上げる。キルケにいたっては頭を抱えている上に呪詛を吐いて悪態をつく。

「明帝族最強セア•アペイロン……ほんとうに、、、最悪」

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