第23話 芝蘭玉樹の痛み

「久しいね~、ノーヴァ」

「ああ、久しぶりだな………とりあえず、これ、どこ向かってんだ?(まさか、死刑とか)」

「アッハハハッ‼ 警戒するこたぁ無えさ…今から行く所には守護者ガルディどもがいるってだけさ」

「…(それが問題なんだよ)」


意識空間でカオスと分かれてから、白練と合流しようと目を開けると、海族から槍だの、剣だの、弓だの、双剣だの向けられて包囲された。殺されるな~、と思っていた矢先に、頭上に宇宙戦艦が勢いよく突進してきた。オーシャンが舌打ちをしていると、船艦から出てきたのはプロエレであった。

「乗りなっ‼ 会議に遅れるよ!」


で、今に至る。

(相変わらず強引だな…今回は助かったが、にしても)

肘から掌までが黒い肌で、バンクルが附けられ、爪は黄金に装飾されている。横から見るだけでも、湾曲した綺麗な体、口調を聞けば凛々しく男勝りな性格だが、聞かなければ朗らかな女性だ。

(…イニティウムはまあいろんな意味で黙っていた方がいいしな…ラウルスと同様黙っとけばいいのに…)

「失礼なこと考えていねえかぃ?」

「ソンナコトナイゾー」

ブンブンと首を横にふり、全力で否定する。2人が話していると、ペタペタと素足でオーシャンが近づいてくる。

「報告書見たよ」

「そうかい、で? どうすんだい…最強さんよ~、」

「………それを今から話しに行くんだよ、ということで~、下ろしてくれる?」

少し疲弊しているなとノーヴァは感じとる。プロエレは舵をきり、船艦のスピードをあげる。オーシャンはガラス越しから宇宙を覗く。

「それじゃ…会議に云っちゃおうか、遅れると愚痴られるからね」



絶対的中立地区永遠なる神秘”レース・アルカーナ・アエテルニタス”

神殺しの海を除く、10つの海が交わる地…歴代2番手の強さである初代守護者ガルディによって施されたもので、ここでの能力の使用•決闘は禁止とされている

ここに立ち入ることが許されているのは守護者”ガルディ”のみ、行われるのは、これからの宇宙情勢を決定するアレオパゴス会議


ペタペタとオーシャンが前を歩き、コツコツとノーヴァが城内をキョロキョロと見回しながら歩く。宇宙から見たときは緑が目立ち、近づいていくと様々な動植物が生息していた。その中央に鎮座する白皙の孤城。城の中も外見同様に広く、中央には庭園があり、それを囲うように柱が建てられ廊下が続いていく。それなりに部屋数があるようだ。

「こっちだよ」

オーシャンが石畳の階段を上っていくので、ついていく。真っ直ぐ上っていくと、滝が行く手を阻む。オーシャンがダン!…と足踏みをすると、滝が裂け、道が開いた。

その先は今までとはガラリと変わり、石畳であるが、白と黒のチェック柄のタイル。白皙の壁と柱には蔓が伸び、バラ窓からの光が遮られているためか、薄暗い。遠目で見える扉からは異様なまでの重厚さが、遠くにいるノーヴァを1歩後ろへとたじろぐほどに襲う。

「大海に呑み込まれないでよ」

オーシャンは、それだけ言ってペタペタと歩く。ついに、長い回廊の先にある扉へとたどり着いた。あそことは比べ物になら無いほどの重厚が津波のように押し寄せてくる。

ギィィ、!!!

扉がゆっくりと開くと、今歩いてきた回廊と同じようなデザインの一室。人工の小さな池の回りには、青のカーネーション、ルリマツリ、竜胆、ノボタン、エレモフィラが咲いている。その縁に右足を左足に乗っけて退屈そうに座っているバイラール、ポニーテールにしてバイラールの1人分間を空けて隣に座るライラ。オーシャンがペタペタと2人に近づいていく。

「おう、おつかれさん」

守護者”ガルディ”鬼族長

紅帝族序列19位バイラール•イグニス

「…久しいね、」

守護者”ガルディ”海族長

紅帝族序列10位オーシャン•クラトス

「ええ、ホント…パパは大丈夫そうね」

守護者”ガルディ”夜の一族2代目長

紅帝族序列14位ライラ•エンプレス

ライラが言葉を紡いでいると、扉が開いて男が入ってきた。

「珍しぃー、オベロンの野郎が来やがった」

「君よりも頭が云いから、マシだよ」

「そうね、誰かさん達と違って」

いがみ合う3人を眺めていると、オベロンが目の前に立っている。黒曜石のような、ミステリアスで、なんとも言えぬ美貌だ。

守護者”ガルディ”妖精族,妖精王

紅帝族序列12位オベロン•ティターニア

「四君子揃ったわね!」

「……まだ可愛げあるよなー、俺らは…それに比べて」

4人が揃って、立派な奥のバラ窓の柱に手を組んで寄りかかる無表情の男、アップルグリーンの瞳からは憤怒がひしひしと伝わってくる。

守護者”ガルディ”精霊族,精霊王

紅帝族序列3位フォーセリア•ラトゥリア

その向かいにあるカウチにドカッと足を組んで、肘をつき、暴君の風貌を見せる

守護者”ガルディ”竜族,魔塔主

紅帝族序列2位ウェルテクス•マゴ

こちらが会議室に入ってきた時も言葉を掛けるどころか、顔を向けようともしない。ノーヴァが眉をひそめて見ていると、

「もう始めるよ、単刀直入に…守護者ガルディの穴をどうする」

フォーセリアが会議を始めた。

「どうするにしたって、誰かを迎え入れるしかねぇだろ」

「でもね、守護者ガルディたる風格と実力が今の紅帝族にいるとは、ボクは思わないよ」

「そうだな、元祖の全盛期で守護者ガルディ創設初期の神聖時代の方が人材がいた」

「へえ、そういえば、パパは初代守護者ガルディにならなかったのね」

「クヴァレの敵対であった七大一族の長なのに、弟妹を育てていた時点で危なかったからな」

ノーヴァの言う通り、守護者ガルディが創立したのは、七大一族がそれぞれの海に定住した神聖時代1万年からである。今よりも強大な力が宇宙を取り巻いていた時代だ。

「元祖は原初にいるとは思うけど、他の元祖は役に立たないだろうね」

「そうは言うけど、フォーセリア? 竜族と原初の序列で言えば原初が格上…だけど、守護者ガルディの欲する絶対条件は、神をも穿つ理不尽なまでの強さよ」

「愚鈍どもが…」

「あ゛?」

固く口を閉ざしていたウェルテクスがやっと、言葉を発した。

(そういえば、ウェルテクスは竜族皇位継承権が…)

「余ら竜族の強さは堅実なるものである、その強さは一族の処遇を決するものである…故に守護者ガルディには必要なし」

「自分の一族だろうがよぉ~…随分な物言いじゃねえか」

「今の議論は代替、明帝族最強と謳われ今尚支持を受けるセアと……この宇宙に5人といない貴重かつ希少な空間能力持ちに……民衆の反発、不満なく…取って変えれるような最強がいるというのか?」

ウェルテクスの発言に黙る。しかし、続けて、

「この議論はクヴァレに単独で恐怖を与えることのできる最強でなければならん……セアとアストラあれが元祖に与えた恐怖を上回る畏怖を持つ者、誰がいようか!」

頬杖をついたまま、睨みつける彼の目には哀愁を感じるも畏敬が勝っている。ビリビリと殺意が走る。

「はいはい! 三傑バカどもの反対で否決ね否決!」

重い空気を打ち破ったライラはめんどくさそうな言い方をしているが、ウェルテクスの言い分には納得しているのか、悲しい目をしている。

「それで…なぜ兄上を呼んだ?」

オベロンが言葉少なく話すと、フォーセリアとウェルテクスは一瞬だけ目を合わせた。

「(まさか!)掃討する気か⁉ 和の海と天地創造の海を!」

「?」

バイラールがあり得ないとばかりに目を見開く。

「そうだね~、確かに天皇と冥皇はノーヴァ元祖に手を貸した訳だけど……それは紅帝族ボク達の戦力を減らしてでも行わなきゃいけないことか?」

菫色ヴァイオレットの眼光が鋭く光り、苦言を呈する。

「先に規則を破ったのはあっちでしょ? 俺たちに唯一共通している規則は、クヴァレに手を貸す行為、則ち悪には制裁を…」

「…」

「貴様らもとうに知っている筈だ、和の海においての七洋配下のヒュドラ及び”聲”の元祖クレオパトラの進攻…黄金郷の湖エル・ドラードの結界の崩壊…七洋ルシファーの虐殺行為…あやつらの目的である明帝族の根絶への白熱化…そして守護者ガルディの瓦解…これだけでもクヴァレあやつられだけの被害を被られたか!」

「確かに、アイツらが兄貴の所在を狙って起こしたこともあるがな! それだけじゃ、掃討殺せねぇだろ⁉」

「これだけ揃っているんだ! 初代元祖である精霊王が動かずして誰がついてくるんだ!」

「それならお前がノーヴァを殺せばいい! 元祖が怒り狂って襲いかかって来るだろうね!」

今までの進攻などでの責任をどうするかという議論が過熱している。ただでさえ、不仲と周知されている守護者ガルディが口論しているという状況をノーヴァは見つめることしかできない。しかし、ノーヴァは腑に落ちない点を考える。

(元祖に意図的ではないが加担したことが問題なのだろうが、口論これを見ている限り、なんだろうな……壊されることへの恐怖、これだな)

「騒がしいですね」

扉が開くと、強大な圧が2つ入ってきた。


守護者”ガルディ”竜族長

紅帝族序列1位ゲニウス•ニードホック

守護者”ガルディ”原初一族血の女帝

紅帝族序列5位イニティウム•テオス


2人が入ってきて盛んだった口論が鎮まり、空気がシンと静まる。

「私たちを呼んだ理由は?」

ライラがガンを飛ばす。ゲニウスは持っていた扇子を閉じたままで口元を隠しながら、ノーヴァを見る。そして、互いに目を見ながら、

「お初御目にかかります、地上宇宙バースに最初に降りたてし人類よ…これまので数々の人類発展への偉業には敬意を表します……ですが、そこの愚弟が呈した規律を乱す行為への加担、如何様な謂われがありますでしょうか?」

丁寧口調のゲニウスだが、ノーヴァに対して憎悪感を抱いているのは明確。ゲニウスは会議室に入ってきた時よりも大きなオーラをノーヴァに集中して当てる。

守護者最強9柱といえど、未練がましく哀れだな」

ノーヴァは目を背けることなく、ゲニウスだけでなく、その場にいたものに向けて言葉を放つ。




「もうっ! 守護者ガルディまじ強じゃーん!」

大きな円卓の回りにある椅子に体育座りをして座るカデナ。ワイングラスを弄りながら、微笑むレヴィアタンは心底満足そうな顔をしている。

「それでも十分な功績じゃないか、守護者ガルディは表だった記録に記載されるような戦闘は行わないからね…地上宇宙バース全土に広まり、クヴァレがついに動き出したという事実が根づき…そして、守護者ガルディが捕り逃したという失態も作れた」

「これ以上にない収穫という訳か…」

頬杖をつき、足を組み、無表情のまま話すキフェにレヴィアタンはワインを1口運ぶ。

「それなら、新しい守護者ガルディが、加わるの…かしら」

モゴモゴと話すアグネスに、キルケとソロモンはないない、と首を横に振って否定する。

「お兄ちゃん達の言うゆー通り、守護者ガルディは絶対に代替を行わないよ」

くまが少しある鮮血の瞳と純銀の髪、黒のピアスや十字架のイヤーカフをつけている軍服姿の男

150男末弟”律”の元祖ロワ•ディスィプリヌ

「あー!ロワ! オーシャン全盲ちゃん強強だったよ!」

「あったり前だろ~?オレ様が相手するんだ、弱かったら困る~」

「あらあら」

「最強で在り続けるからこそ、次代の守護者ガルディが弱いという失態を侵せないだろ?」

「そうだね、メグ…こちらにとっては喜ばしいよ」

言葉でじゃれ合う2人にアグネスは顔を隠したまま、頬を緩ます。続けて、メルキゼデクとレヴィアタンが話す。

「もしあるんなら、紅帝族序列4位のクリスチャン•ローゼンクロイツ…こいつだろ」

キルケが悪態をついて話す。

「そうだなぁ、魔法使い汝らの天敵だからな…どう対処するか」

「フフ、その必要はないわ」

キルケの言葉に賛同したソロモンの隣に座っていたラミアが話し始める。

「私たちのお兄様への歪んだ劣情想い入れを私たちが自覚しているように、あちらもセアへの歪んだ情慾想い入れを自覚しているわ…だからこそ、選ばない」

ラミアの言い分にどうもピンと来ないのか、沈黙が生まれる。そんな様子を見て、ラミアは目を細めて微笑み、ワイングラスを顔の位置にまで上げる。

「クリスチャンとセアは夫婦めおとだったのよ」

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