第15話 青の痛み
元祖による2万年の統率が続いた神聖時代、その時代の頂点の存在であった失われた大陸”クヴァレ”は全て規律ある人類統率を目的とする
ノーヴァは元祖の長兄である、地位も高いと思いきやそうではない…なぜならクヴァレに属していないからである
七大一族は2万年の中の1万年からそれぞれの海に定住し力を蓄えていた、それは何故か?
簡単なこと、考え方と行動が一致しなかったからである…2万年もの長い間統治をしつづられていたのは暴君とも思えるような規律と、明帝族の徹底的な殺戮と破壊
「弱者に人権なぞない、ただ他の強者のために命を懸ける存在…故に――我等の役にも立てぬ者など切り捨ててしまえばいい」
明帝族は弱く、すぐに崩れ落ちるような一族であった。抵抗しても意味がない、なぜ神は生んだのだろうか?
紅魔族はそういった一つの考えを常識としてランク付けをして身分社会を造り上げた。
「そうは言ってるが…594年前、お前たちは1人の明帝族に手を焼いていたみたいだな」
ノーヴァがボリボリと頭を掻きながら言うことは真実である。一瞬でキフェの間合いに詰め寄るノーヴァは、刀を振り上げる。キフェは仰け反り回避して手印を結ぶ。すると薄い黒煙の膜がキフェを囲む。
―”封”の元祖、彼の者維持を司る者也
彼の者、均衡を維持し、人類と元祖の隔絶を図り
彼を見たもの、何人たりとも彼を触れることはできぬ、それが彼の力の理也
“隔絶”、対象と対象を隔てる結界のようなものである。しかしながら、普通の結界とは違う。
ノーヴァは右足を前に出し強く踏み込む。そして刀を振るう。ノーヴァの斬った”隔絶”は引き裂かれた。しかし、すぐに元通りになる。まるで、生きているかのように…
ノーヴァが内心舌打ちをすると、黒煙がノーヴァに触れる。
(まずいな)
一瞬で危険を察知して後ろへと下がると同時にキフェもノーヴァに追撃をする。鎖玉をノーヴァの手に引っ掛けてグイッと引っ張り近づかせる。顔と顔とが今すぐにでも触れそうな距離感。
ソロモンは魔獣を召喚させ、地や建造物、岩などに宿らせる。そして、指示を受けた魔獣はノーヴァに攻撃をしかける。足で地面を蹴って土を魔獣の目に入れることで、爪が手の動きを制限していた鎖玉を千切れさせて、一瞬で魔獣を倒す。グイッと頬についた血を拭う。ノーヴァはキフェではなく、ソロモンを仕留めようとする。防御魔法を張ってノーヴァの攻撃を防いだが、びきっとヒビが入っている。
「汝の魔法が嫌か?」
「魔法は専門外だからな!」
防御魔法ではなく、腕を鋼鉄に変化させて刀を受け止める。そして、ニヤリと嗤うソロモンにノーヴァは判断を誤ったことを悟った。
今の魔力は多様な種類があり、それぞれに魔法の術式が開発されている。その大元の魔術は3つ、
“法則魔術”、個人の空想や願望を具現化させる魔法/高レベルの科学により世界法則を取り入れた技術を指す魔法、
“霊異魔術”、聖霊や神力の一部を発言させる”奇跡的要素”の高い魔法、
“物質魔術”、エーテルやマナなどの名称がつけられた特殊な性質を有する”仮想の物質”に呪文などの手段で働きかける魔法
ソロモンを始めとしたマナ魔法を使う魔法使いは法則魔術と物質魔術を組み合わせてできた術式を用いている。そして、4人の魔法開祖の1人にして、マナ魔法を発展させたのが、このソロモンというわけだ。
キフェが複数の短剣をノーヴァに投げる。
ソロモンが魔法を発動させたことで、急所は外れたもののノーヴァに短剣が突き刺さった。口から血を吐くノーヴァにキフェが話しかける。
「あんたの才、”痛覚”はあんた自身が痛みを負い味わうことで克服することで才としての能力が初めて開花する…克服したのだから同じ”痛覚”は通用せん」
「1000年もあれば大元は変わらずとも式が増えて効力が変化する、相性最悪だ…本当に」
親指で口元の血を拭くノーヴァはため息をつくが、まだ戦う意思はあるようだ。山金造波文蛭巻大太刀の刀身に手を添えて動かす。
「俺は魔力を持っていなければ魔法も使えん…だが、目の前にある技術を無視するほどの愚か者じゃない」
波紋に術式が刻まれた。それは魔法開発時に書き記す魔法術式に似ていた。二人はアイコンタクトで話す。
(術式を見せたのか?)
(1回だけだったし、ほんとにちょろっとだった…よくそんな古い術式を見てこんな芸当ができるな…)
全ての刀身に術式が刻み込まれた山金造波文蛭巻大太刀、術式がキラキラと輝く。ノーヴァの”痛覚”が付随されたことで、刀が昇華する。
山金造波文蛭巻大太刀改祢々切丸
「仕切り直そうか」
ノーヴァが戦っている中、ライラとルシファーは互いの能力を分析していた。
(こいつから杖を奪ったところで意味がない、能力自体はルシファーから…そして何よりめんどくさいことが!)
ライラは接近戦となっていたルシファーから10秒前までのところに離れる。
(あいつは光を反射する…ただ、反射するんじゃなくてチクチクと刺さる針みたいな痛み、それと火傷、規模が違うのよ、そこの細胞を破壊している…これは自然からの光をオートでやっているわ)
(なんとも摩訶不思議な
ルシファーの読み通り時間系能力では何時何分何秒という時間と場所を組み合わせた座礁を示す必要がある。だから、その時の時刻が分からないと使えない仕様になっている。が、ライラは違う。
魔眼で色々な角度から時間を集計、そして平均を求めることで、「2分58秒前に戻る」など細かい過去に戻ることができる。しかし、時間は過ぎていくもの、1秒増えていくごとに計算を瞬時にやり直し答えを導くという至難の業
(恐らくだが、コイツは過去に戻るまでに一気ではなく複数に分けて行っている、それはオーバーヒートを防ぐためか)
ライラは腰に装着していた拳銃でルシファーの肩を撃って隙を作ると、鎌で一気に深傷を負わせる。しかし、それも束の間、ルシファーの傷は癒えた。舌打ちをするライラはこれを何度も繰り返していた。
(光による再生が追い付かない程の致命傷、夜にさえなってくれれば…待って?この時間もう夜、月が出てもおかしくない時間帯よね…元祖の中に時間に関係する才を持った奴がいるのかしら)
ライラは冷静に分析をする。元祖は殆どが同士討ちという死に方であるため才の大まかな内容は知っていても、詳細は分からない。
“隔絶”とは隔てること、今キフェは結界をセアの張った結界よりも上に張っている。結界内で”隔絶”を張ると、’外の時間を始めとした影響を隔てる’という効力がキフェの才の独自の能力であり、それが失われてしまうから。
しかし、ライラはこれを知らない。原因が分からぬまま打開策を練るにしても、時間逆行のための計算をしながらでは、頭の回転も、動きにもボロが出る。
「光の鉄鎚」
ルシファーが本人でも自覚しなかった隙を狙う。それは天使の力が宿る腹部、全反射した光が集まり加速を続けている杖がライラの血で紅く染まる。ゴフッ!
吐血しつつも、ルシファーを足蹴りして追撃を防ぐ。
「さーて…どうしましょうかね」
座天使”オファニエル”と神の毒”サマエル”が一時的にだが使えなくなってしまった。
(せめて、夜になりさえすれば…)
『なに?これ』
カリナンダイヤモンドで造られたような美しい髪を梳かしているセアにライラは貰ったネックレスを尋ねる。眩いほどの光を放つコバルトブルーのアウイナイトが嵌め込まれたシルバーチェーンのネックレス。
『綺麗でしょ』
『いや、まあ…キレイだけど…なんで私にこれを?』
『お礼』
確かにセアはここに1ヶ月くらい滞在していたけど、出陣案件は殆どセアがやってくれた。お礼は私達がしないといけないのに…
回答に不満を感じたライラを見たセアはヘアブラシを置いて困ったような笑みをする。顔を見たのではなく、なんとなく横顔から。
『それはあなたが窮地に陥った時に使うためのものよ』
『私?そんなこと…』
『信じられないでしょうね…でも、私は未来が見える、それに
セアの言葉に意味が分からないライラ、それに、そう簡単に人を信じていいのだろうか、と内心疑惑を覚えるライラはネックレスを返そうとする。
『ライラ、
(はあ、まったく…セアったら…私の人生なのに走馬灯にすら貴方の
ライラの身に付けていたネックレスが光り始める。そして、銃を取り出す。
(何をする気だ?)
ライラの未来の行動が視えなかったルシファーは一気に距離を詰めて殺そうとする。
「セア…ちゃんと見ていてよ」
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