第14話 光の痛み

雪が溶けて、少しだけ地が見える地面を歩くライラとノーヴァ。ここの海では珍しく太陽がギラギラと光輝いている。

「ここまで、光があるのは…随分とだな」

「そうね」

ノーヴァでもおかしいと言うが1000年以上も時があれば、こんなことが一度あっても不思議ではない。

少し歩くと、キラキラと輝く宝石の樹”ジュエリーバウム”が連なっている。赤や青、緑、黄、ピンク、紫…この宇宙全ての色があるような…そんな場所…

宝石の樹”ジュエリーバウム”は結晶が魔力を取り込み、成長していったことで魔力宝石になった。宝石の樹”ジュエリーバウム”はそれぞれの特性を活かした武器などが造られている。

「ここよ」

止まったライラが崖の上から下を指す。ノーヴァがヒョイと見下ろしてみると、急に頭痛がした。ふらつくノーヴァをライラが支える。大きな魔力がぶつかり合っているような、吐き気をもよおすような気分になる。

「ここはセアが人類最強の英雄と言われる由縁、悪魔大戦が起こった地…見て分かる通り、悪魔の魔力が残りすぎて誰も近寄らないわ」

顔色を悪くしながらノーヴァが聞く。

「これだけの残穢…相当なものだったんだろうな、1人か?」

「そうよ…悪魔大戦は各地で起こったけど、ここほど、そう強力な奴らじゃなかったわ…私がやらなきゃいけなかったのに」

ボソリと呟くライラにノーヴァは何も言わない。ここに来た理由は結界の中心の一つなら何かしら結界について分かるのではないか、という。ノーヴァ自身の権能はそっち方面ではないが、ある程度の結界については知識がある。結界を見ていたノーヴァとそれを見守っていたライラがピクッと反応する。

「誰も近寄らないとは言ったけど…あんなのは影響は受けないのよね」


檳榔子黒のチャイナ風ドレス、金のフリルがあり、蝶の詩集が小さくだが施されている。それと合わせたショールを羽織り、ハイヒールを穿いている。編み込みの錫色が風に靡く。

「私はあれか」

「守護者”ガルディ”だ、用心しろよ」

空から見下ろしているソロモンとルシファーの15cm、しかしながら遠くからでは視認できないような間を銃弾が掠め通る。

「ハハハッ!親子揃って物騒だ!」

声をあげて笑うソロモンとは対照にルシファーの紫[ゆかり]の瞳の光が失くなっていく。


ライラはノーヴァと分かれてルシファーと対立していた。

魔神族の頂点に位置する最高の存在、その1柱である玲瓏のルシファー

「食が進まんな」

「それはそうでしょ…あなたが最後に戦[く]ったのは明帝族最強だもの」

「…そうか…ならば―あいつの場所に葬[おく]ってやろう」

そう言うとルシファーは黄金に光り輝く杖を取り出す。ルシファーが力を込めると赤からオレンジに近いような光に変化していく。警戒しているライラが地面に膝をついて倒れる。末尾を地面に立てて完全に落ちないようにする。

(暑い…これって、)

「うぬは光を操る…その中で最もうぬの力を表したのが太陽、人間である貴様が勝てぬ相手だ」

太陽は表面温度だけでも6000℃はあると言う。そして、人間は42℃以上では10数時間で死に至ると言われているが、6000℃など即死だ。

「…仮にも最強の1人にそんなこと言うなんて…まったくなってないわ!」

口角をあげて立ち上がるライラを無表情でルシファーは見つめていると、姿を消した。微動だにせず、杖に込める能力を強くする。地面がどろどろと溶けてマグマと化した。ルシファーは杖を動かしてマグマを操る。そして、自身から半径500mにマグマを落として視界を良くする。ごぼごぼと音を立てているが、それしか聞こえない。ライラの息、鼓動、全く聞こえない。ルシファーは不審がりつつも、杖の力を弱めて気配を探ろうとする。

キィィン!!

突如として現れたライラはルシファーの背後を取り、ルシファーの背中を斜めに傷を負わせることができた。

「神の毒”サマエル”か」

「ご明察、私は2柱の天使の力を使えるわ」

「くだらん…その2柱の天使は元祖に敗れ魂が消滅しようとなるほどの貧弱、足手まといに過ぎん!」

「あら、それなら―貴方に最後の敗北をプレゼントしてあげるわ」

ルシファーとライラが対立している中、結界の解析を進めていたノーヴァに2つの影が忍び寄る。長い黒髪を後ろで一つに結び、赤の細い瞳。一等品の布を纏い、金の装飾品を身につける。褐色の肌が布の空いた面積から見え、筋肉がすごい。

次男”封”の元祖キフェ・フェイラ、元祖最強の結界術の遣い手である。

「ノーヴァ兄、そっちじゃなくてこっちに来ないか?」

ソロモンの誘いにノーヴァは無言を貫く。

「どんな状況にあろうとも汝等の物だ、ノーヴァ兄…無理強いはしたくない」

ノーヴァは手を顎に当てて、ふーむと考える。

「俺がいなくともクヴァレは回っていく、それにこんな方法じゃなくてもお前たちなら俺を仕留めきれるだろう?」

ノーヴァの言い分に二人からは怒りのオーラが見える。

「仕留める、だと?今までの我等の行動はすべてそう捉えていたのだな?」

「ん?いや…敵だろ?敵なら殺しておかないと大変なことになるしな…俺は弟妹と言えど夜の一族に害する奴らを殺してきた、お前たちもそういった状況だろ」

「………あんた…ほんとに……いや、それは後で叩き込めばいいか」

ノーヴァに言葉をかけようとするも、うまく言葉を結べずに結論に至るキフェは頭を抱えながら才を発動させる。続いて、ソロモンは魔力を解放する。元祖2人の圧に、その場の魔力の残穢は薄れていった。

(本気か、この子達を育てたのはラウルスだったか…となれば近接が得意だな)

「寧々」

輝く空間から山金造波文蛭巻大太刀を取り出す。チャキ、と音を立てて刃を二人に合わせる。

「かかってこい」

まるで泣きじゃくる赤ちゃんを、怒っている子供を宥めるような仕草。変わっていないと二人は思いつつ、長男に牙を向く。

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