第12話 復活の痛み

「……長」

静止したイニティウムが何を言ったのか、うつむいているから表情も読み取れない。

「イニティウム、俺達が止めなければならない…あの子達をよく知っている俺達が…」

「分かってますよ」

イニティウムはぐっと拳に力をいれると、周りに付着していた血が生きているかのように動きだして、イニティウムの持っているガラス管の中に入っていく。くいっ、と人差し指を動かすと華蛇の怪我が治った。

(権能…なのか?それにしては治癒の力を感じねぇーな)

近くにいるバイラールが分析していると、イニティウムがノーヴァをじっ、と見る。ノーヴァも見つめ返す。しばしの沈黙が生まれた。それを破ったのはイニティウムのスマホの着信音。ポケットから取り出して相手の名前を見る。

「また…会いましょう」

ワントーン低い声でそう言って、イニティウムは去っていった。ヒョイ、とバイラールが木から顔を出す。

「あの〜…ノーヴァさん?あいつに姐さんは禁句っすよ~」

おそるおそるバイラールが忠告をいれてきた。

「?知ってるぞ?」

キョトンと先ほどのマジな顔から優しい表情になる。聞いたバイラールはうん?( -_・)?と聞き間違えを疑う。

「イニティウムが執着するのなんて滅多にないからな!脅しって感じだ!」

ニッコリと、満面の笑みで理由を述べるノーヴァにバイラールは頭を抱える。ノーヴァは倒れている吸血鬼を観察する。

ノーヴァは、イニティウムの腕を掴んだ時のことを思い出す。

(あの時、イニティウムからは焦りも感じ取れた…それも蝶や実経だけじゃなく、三傑の姿)

「バイラール、セアはどんな人なんだ?」

「んー…姐さんは、え~っと…」

バイラールの在りしの記憶、


『バイラール、あそこの悪魔始末しといて』

『精霊の海まで送れ…あ?空間能力?今から闘いにいくのに無駄な労力使いたくない』

『風呂借りる』


偉大な人のはずなのに、バイラールの記憶の中では無茶振りを押し付ける、という印象が強すぎて何て言えばいいのだろう

「………強かったぜ!」

捻りにひねり出した言葉。これ以上はなんもでん。

(あー!ダメだこりゃ…それじゃないって顔だ!でも、ごめんな!これ以上言うと殺されんぞ!姐さんに!)

ノーヴァの満足していない顔にバイラールはどうにかして話題をそらそうとする。

「華蛇とミューズ見に行こうぜ」

ノーヴァの背中を力ずくで押して、邸へと二人は向かった。


(素晴らしいわ!御姉様が、あれだけ…お怒りになるなんて!)

クヴァレの城に戻ってきたラミアは、左腕を血みどろの右腕に添えながら歩く。

「おや、まあ…随分なご挨拶だね」

「五月蝿いわ、最高よ!無頓着があれほど感情を出すなんて…ああ!早く会いたいわ」

興奮状態のラミアは話が通じない。アグネスがラミアの右腕を治す。

「それよりも、仕事は出来たんだよね?」

「とっくのとうに終わってるわ…仕事さえすれば後は自由なんでしょ?」

「…傷だらけ、困るわ」

「仕事をしているならいいさ…そろそろ、こちらも進めようか、神の復活を」


「異常がない?」

邸に戻って、島の確認をした二人からは驚きのことを聞いた。

「ああ、異変どころか…あたしの華も元気だった」

(あれが?なにもしていない?…明らかにおかしい)

バイラールが考えていると、ノーヴァはフッと笑う。

「いいじゃないか…こうして兄弟で茶が飲めるんだ」

ノーヴァはミューズの淹れた茶を堪能する。バイラールもつられて笑みをこぼす。

「お兄ちゃん、次はどこに行くの?」

ミューズの質問にノーヴァは縁を指でなぞりながら考える。ここでのミッションは片付いているので次に行きたいが、どこに行けばいいのだろうか。

「そろそろライラに会ったほうがいいんじゃねーの?」

「元祖じゃないからなぁ…あんまり危険なことに巻き込みたくないんだよな」

「でも、あんたの娘のことあたしでも知ってるよ…人類最強の狙撃手[スナイパー]、有名だよね」

華蛇の言葉にミューズも無言で何度も頷く。それを見たノーヴァは決心する。

「それじゃ、1000年振りの親子の再開といこうか」

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