第11話 罪滅ぼしの痛み

「華蛇、貴方には死んでもらいます」

イニティウムの発言に華蛇はうつむきながら目を細め、ミューズは驚きのあまりハープを持っている手に力が入らない。

「今、ラミアと華蛇の魂は連動しています。それならラミアではなく、華蛇を殺せばラミアも死ぬ…そういうことですよね?」

イニティウムの推理は合っている。だが、仮にも姉妹、しかも華蛇とミューズを育てたのはイニティウム。どうやったら、簡単に殺すという決断に至るのか…

「まあ、自死なんてできないでしょうね…一息に私が殺りますので」

イニティウムは血で作った槍を手に持って華蛇に歩み寄る。

「待って!お姉ちゃん!そんな簡単に、」

「こいつを仕留めることが優先事項…」

ミューズが必死に止めるなか、イニティウムは槍を華蛇の首の上に刃を運ぶ。

(まずいわね…魂の連動を解くにしてもあと3分は時間を要する、御姉様は本気なのよね)

ラミアが冷や汗をかいているのも、ミューズが止めるのも無視してイニティウムが槍を下ろす。

瞬間

パシッ、とイニティウムの腕を掴み、イニティウムの動きを止めた。イニティウムは、はあー、と深い溜め息をこぼして睨みつける。

「なんの真似ですか?ノーヴァ」

睨みつけてはいるものの怒りを感じることはない。ノーヴァは手に力をいれて、ラミアを見ずに話す。

「契約だ、華蛇との連動を解け…見逃してやる」

「あら嬉しい…それじゃあね」

ノーヴァが契約を持ちかけると即了承して、ラミアは逃げていった。イニティウムはノーヴァの手を振り払い、舌打ちをする。

「とうとう落ちぶれましたか」

「いや…それを決めるのは」

「ええ、そうですね」

イニティウムの持っていた槍が騎槍に変化していく。ノーヴァは山金造波文蛭巻大太刀を取り出す。

「「兄弟喧嘩だ」」


昔、まだ兄弟が揃っていなかった頃、年長組が珍しく言い争っていた。それはいつしか決闘にまで発展していった。

本当に大変だったことを覚えている。いつも仲の悪い兄や姉、妹、弟もこの時だけは協力して仲介に入っていた。

そこから決まりができて、決闘ではなく、喧嘩という名目、そして、武器のみ


あの日から見たことがない喧嘩、それが今、起こるという現場を見て、ミューズは動揺を隠せないでいる。

堕神を倒して走ってきたバイラールが華蛇をお姫様抱っこして安全な場所まで移動させて、ミューズにもこっちに来いと指示する。

ガチン!

刃同士が当たる音、そして軋む音。ノーヴァはいなして、素早くイニティウムの後ろを取る。しかし、石突でノーヴァの腹を突く。それと同時に石突が壊れた。

(頑丈ですね)

(…少し変わったな)

「なぜ逃がしたんですか?」

「華蛇が死ぬところだった、それに仕留める場などいつかの機会がある」

「そう言って…そう言って…死んだのはどこの誰ですか?私達があの時根絶やしにできなかったから、今も争いが絶えず行われているんです!」

「だから、俺が動いているんだ!」

ノーヴァが正面から振りかぶる。イニティウムは柄で受け止める。ぎちぎち、と音を立てていて、イニティウムの方はいつ壊れてもおかしくない。

「この理想主義!現実を見ろ…それでなくても他の解決策はあるでしょう」

「…お前の長も理想主義だ」

(あっ、やべ)

ノーヴァの言葉を聞いたイニティウムはピタリと止まる。バイラールは終わった、と思いながら被害が来ないように移動した。

「この結界は、セアの理想が実現したものだ…だがいく先々で否定した、お前も例外ではなく…お前の今の行動は罪滅ぼしだ!」

ノーヴァが真剣な顔をして言うと、イニティウムの力が強くなって押し返されそうだ。

「そうよ」

ガキン、と音が鳴って攻防の体勢が崩された。

(分かってる…初めて聞いたとき無理だと思った、いくら長といえど…旅に出たら諦めてくださると、そう思っていたのに…)

「あの方はそれを成し得て死にました、いくら実現しても身を滅ぼすだけ…だから私は理想なんて嫌いです」

「だから確実な方法を取り、理想も取る…それでいいのか!?」

話をしていても喧嘩の手を止めない。

「有望な人材が居なくなるよりはマシです」

「…やはり、お前は違うな…有望な人材という未来を見ているんじゃなく、要望な人材が居なくなるという過去に執着している」

ノーヴァが土を投げて目眩ましをする。よろけた一瞬で刀に力を込めてイニティウムの槍を壊す。

「過去[過ぎ]ではなく、未来[次]を求めろ」

その言葉を聞いてイニティウムは昔のことを思い出す。


白に近いようなシルバーの髪が夕日の光を反射している。長が岩の上に座って怪我した足を洗っている時に、

『馬鹿らしい?』

珍しく仕事以外で長の方から声をかけられた。その時はなにも言えなかった。差し出したタオルで足を綺麗にする。

『確かに理想で身を滅ぼす…だが、その理想とやらが現実の先、未来を創る…』

『私は現実を見ていたいです』

それを聞いた長はフフッ、と笑う。

『目の前の理想は否定してもいい、摘み取る

な…理想[馬鹿]によって未来[常識]が創られる』


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る