第4話和人と陽奈の過去

「スマホの私が作ったAIアプリ! これで周辺の体温を測ってゾンビを探せるの。」

莉子が嬉しそうに微笑み説明した。


「凄いなそんなもん作れるなんて。」

俺は目を見開き心から感心した。

彼女には、ゾンビパンデミックの時に色々助けられた。


だから、そこまで驚きはなかった。

それが不満だったのだろうか?

眉間に皺を寄せて、それだけ? 

と問い詰めてきた。


「でしょ、もっと褒めて? 莉子は天才だなー奥さんにしたいなーって。」

始まった! 


「あーと、うん。」


「引かれてるぅー。私…頑張ったんだよ?」


「ガチメンヘラじゃん。和人あんまり関わらないでおこうか?」


「神宮寺さん、口悪いね。そのうち天罰当たるよ? 私…可哀想になる貴方が。良い子なのに誤解されるよ? 辞めよう? ね?」

莉子が必死に諭すように言う。


「こえーよ! 私自分の性格変える気ないから。

嫌なら縁切って良いし。」

その必死さが陽奈は嫌悪感を抱いたように後退りする。


「和人君も陽奈ちゃんにちゃんと言った方がいいよ。私が言っても馬耳東風みたい。」


莉子が話しを振ってきたので、それに返答した。


「きっと社会人になったら自然に治るさ。俺は陽奈の気持ちを優先したいし、莉子の言うことも間違ってないと思う。」


社会人でもこのままだと、通用しないからと考えた。

でも案外社長向きかもしれないとも思った。


「もう、優等生ねー。」

莉子が味方をして欲しかったのだろうなと、その言葉に込められていた。


俺は陽奈の様子を伺った。また煽ってくるんじゃないかと警戒したからだ。

すると一瞬不気味な笑みを浮かべた。


「…つまりメンヘラじゃないから口悪いと思ったんだ? なら和人との距離感考えた方がよろしいんじゃなーい?」

陽奈が凄い切り返してきやがった。


「そうかもしれないけど、それでもちょっと言い過ぎじゃない?」


「はん、そう言う朝霧さんも和人に優等生って小馬鹿にするようなこと言ったじゃねーか! 二枚舌やろーが! くたばれ。」


さっきまでめっちゃ仲良かったのに、一瞬で険悪なった。女心と秋の空だな。


「ほら、それが言い過ぎ。くたばれは余計だよ?

ずっと傍観者風にしてる和人君にイラッと来ちゃうんだもん。仕方なくない?」


「確かにこいつどっちつかずだ。この卑劣め!」

今度はこっちにきたー!


「はい、俺が悪かった、謝るよ。気分転換に

ここはゾンビを見つけてお金貰って美味しい物でも食べましょう。」


俺は二人を宥めて、陽奈の家に向かった。まるで消防士になって鎮火作業した気分だ。 


けど、心は落ち着かないな。争いは同じレベルでしか発生しないとか言うけれど、まぁこれは誇張だと思う。


実際のところ発生し易いって感じだろう。


二人がまたいつやり合うか、ゾンビよりも今はその方が怖かった。


お邪魔します。

俺は彼女の家に上がった。


「和人ごめんな。」

陽奈が耳元で囁いた。


「急に謝るなよ、なんだよ?」


俺の問いに彼女は答えず、少し深刻そうな表情を浮かべていた。


陽奈との過去を俺はふと思い返す。





この学校にもゾンビが出たらしい。


その噂を信じて何処かに引きこもっていれば良かった。

そうすれば陽奈の兄も無事だったかもしれない。


ゾンビに噛まれた明を肩に腕を乗せて、学校を降りようとした時、明がゾンビになってしまった。

噛まれそうになった俺を陽奈が、明を突き飛ばし助けてくれた。


その後彼女が噛まれそうになりやむなく俺は、彼にとどめをさした。


「俺は、明を殺してしまった。」


「和人が殺したんじゃない! ゾンビがお兄ちゃんをやったの。私を庇ってしてくれたんだからさ、そんなこと思わなくて良いの。」


そっと陽奈が俺を抱きしめてくれた。俺は彼女の胸の中でひたすら泣いていた。


彼女が優しく頭を何度も慰めるように撫でた。

温もりが伝わり、責めずに穏やかな彼女に心が救われた。

陽奈は中学時代、みんなから聖女様ってあだ名を付けられていた。


俺もこの時、本物の聖女だと彼女を守ってやると固く誓った。


それが何故こんな子に? あの時の優しく健気な彼女は何処に?



「どうした? 神に救いを求める信者みたいな格好して。」

陽奈の声で現実に引き戻された。


「聖女様って言われた昔の陽奈を思い出してたんだよ。」


「ああ、聖女様って言い方変えれば八方美人ってやつだろ? 周りに媚び売って誰からも嫌われたくないって怯えてる。」


昔の自分をばっさり切りすぎだろ!


「誰からも信用されない女。それに比べて今は私、だいぶ成長したろ?」


いや〜だいぶ劣化してますけど! 俺は心で叫んだ。


だけどすぐさまその考えを否定した。今の彼女の性格を全部否定したようで、俺は最低だなと目頭が熱くなった。


陽奈が性格変わったのは、八方美人という言葉に集約されている。


ゾンビパンデミックの中で、八方美人的な性格はグループの意見の不一致及び、迅速な行動の妨げになる。


その人のどっちつかずの行動で結果的に危険な状況になった。

その人を見ていて、彼女も性格が変わったのかもしれない。


そうか! だから俺の陽奈と莉子どちらにもつかない俺を卑劣って言ったんだ。


陽奈はただ単に侮辱してるんじゃなくて、しっかり考えて言ってるんじゃないのかと、彼女を見る目が変わった。


「和人君ボーッとして泣きそうだけど、どうしたの?」

莉子が不安そうに声を掛けてきた。

なんでもないと答えて、リビングに向かった。


部屋に入ると、驚嘆した。

凄い機材だらけだ。


「どうやってこの機材を? 貧乏とか言ってたけど?」

実は金持ちだったのかと彼女に問いただした。


「ゾンビにやられた人たちの肩身だよ。大事に使わせて貰ってる。」

ビデオカメラを軽く叩いて陽奈が得意げに言う。


「窃盗じゃねーか!」

俺は思わず叫んだ。


「なんだ、喧嘩売ってるのか? 誰にも使われず錆びていくのは可哀想だろ? 

持ち主がいないから私の物だろ?」


それは確かにそうなんだけど、釈然としなかった。


「いやいや、でも買った訳じゃないよね?」


「ならこれ全部捨てろと?」

彼女が機材を指すように手を振った。


「そうは言ってないけど、でもモラルっていうかさ、尊厳みたいなもの捨てたら良くないと思うし。」


彼女を正しい道に戻さなくては。みんなが陽奈みたいになったらこの世の終わりだ。


「なら、提案がある。この機材全部何処かに寄付する。そして、和人が代わりに私に買ってくれ。これで解決だ。」

極論だろ、それは。

どうしてそんなことを言ったのか、推察したけれど、答えは出なかった。


「いや全然解決じゃないし無理だし。」


「ならもう何も言うな。モラルを維持するのも金がかかるんだ。​​​​​​​​​​​​​​​​」

呆れるように彼女が反論した。


「いや、言わせてもらう!

陽奈にこういうことして欲しくない!

寄付ったってさ、盗品だろ結局は。」

俺は一歩も引かない。

それは、兄代わりをしたいと考えているのかも。



「なんだよさっきから、親でもなんでもないだろ?

窃盗って私を犯罪者みたいに言いやがって。」

なんでもないと言われたことに胸が締め付けられた。この感情はなんだろう?

少し寂しさを覚えた。


「ふぅ、なら説明するから。例えば地震で家族全員が亡くなったとして、その機材勝手に持ってたら、駄目だろ?」


「それはそうだろう。」

陽奈が腕を組んで頷いた。


「だろ?

陽奈のしてることはつまりそういうことだ。

いくら持ち主不明だからって、勝手に持ってちゃ駄目だろ? せめて自治体から貰うなり、しっかり手順踏もうよ。」


「ふむ、一理あるな。まぁもう手遅れだ、持ってきてしまったからな。」

少し納得してくれたようだ。莉子が割って入るように話しをする。


「私は神宮寺さんだけがやってるとは思わないわ。友達がやってるかも? だから非難はしないわ。」

莉子が仕方ないという素振りをみせた。


「莉子って友達いたんだな?」

俺は以外に思い失礼だけど口に出してしまった。

「いないわよ、これから作るわ。」

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