第2話変人たちの教室

次の日、いつものように学校に向かう。

教室に着くと、陽奈がもう席に着いていた。

「おはよう。」


陽奈と話すのが日課になりつつある。


「おはよう! 見ろ! ゾンビを見かけたら、懸賞金100万だぞ。」


彼女がチラシを俺に突き出して見せつける。

見ると確かに書いてある。


「なに? 全滅したんじゃないのか?」


「薬で治りようがないほど、重症のゾンビを匿ってるって人がいるってことだよ!。」


なんだって? 危険過ぎるだろ?


「ああ、そんなバカな真似する奴がいるんだ?」

 

俺は呆れて頭を抑えた。

国に逆らってまでそんなことしたら破滅だ。


「バカとはなんだ! 私だって和人がなったら匿うぞ?」    


陽奈の言葉にちょっと目に込み上げるものがあった。

しかし、そんなことしたら彼女も危険だ。


「いや、辞めてくれ。さっさと止めさそう?」


「寂しいこと言うな、泣くぞ? でも匿うと匂い付きそうだな。やっぱりやるか。」


「考え変わるのはえーな! もう少し言い張ろう?」

匂いぐらいなんだよ、香水つければ…別の理由でやってくれせめて。


「大丈夫、薬があるから。ということで学校終わったらゾンビ狩りしよう。

100万頂こう。」


「はっ? なに言ってんだよ、あぶねーよ。

薬あるったって食い殺されるかもしれないだろ? 金必要なら、相談乗るぞ?」


「えーその考えこそ危険だぞ? よぉ〜く考察するんだ。探さないで朝になったらゾンビに喰われてました。」


続けて陽奈が言う。

「そうならない為先手必勝!」


「なにが先手必勝だよ? やるなら1人でやってくれ。」


でも、不安になってくるな。

夜が恐ろしくなるじゃないか、変なこと言うなよな。


「か弱い女の子に1人でやれだと? 駄目だ、着いてこい!」


命令しやがったぞ、こいつ。

だけど俺はあまり彼女に逆らえない。


陽奈の兄を倒してしまったからだ。ゾンビになった彼の命を奪った罪悪感で、俺は頷くしかなかった。


陽奈が男っぽい喋り方をするのも、兄の影響だろう。兄を失ってその悲しみを隠す為に強がるようになったんじゃないだろうか。


机にふと人影が見え、俺の目を暗くする。


横を振り向くと盗み聞きしてるバレバレ女子が、腰に手を当てて俺に声をかけてきた。



「その話詳しく聞かせて。私も着いて行くわ!」



「うわっまた変な奴がきた!

この子は朝霧莉子だ。いわゆるお嬢様ってやつで、清楚系ではあるが、神宮寺陽奈と同じくとても変わっている。


大人しいタイプだったら良かったんだが、何にでも首を突っ込みたがる。

みんなから煙たがれていて、友達は1人もいないって噂だ。


「変な奴とはどう言うことよ?」


充分変だぞ、この学校変なやつしか生き残れなかったからな。


この学校の生徒半分以上はゾンビにやられてしまった。


「変なやーつ!」

陽奈が彼女を指して笑って言った。


「ふん、自分も含まれてないって思ってるおバカさんね。」

クスッと莉子が鼻で笑う。


「なんですって?」


「まぁまぁ、2人とも落ち着けよ。俺の前で喧嘩すな。」


教室内の生徒は2人のやり取りを全くいに介さない。

それはゾンビと対面したことで、もはや多少のことでは気にも留めないのだ。


「ふぅ…そうだね。ありがとう、緩衝材!」


陽奈が、俺の肩をポンと叩いて不敵な笑みを浮かべる


「おい、人間扱いしろ!」

素材扱い、反対!


「ふふふ、人間扱いされたければ私の味方になるのだ。」

陽奈自身を指差して邪悪さを身に纏い囁く。

幻覚で悪魔の尻尾が見える。


「悪役が吐くセリフ〜!」

 

いや悪党だったなこいつは。


「ねぇ、私の相手もしてくれなきゃやだー。」

莉子がやきもち妬いてるのか、甘えながら言う。


「面倒くさいやつは相手にしないってさ。」


ニヤッと手を振って陽奈が彼女を小馬鹿にした。


「貴方には聞いてないけど? ってか貴方性格悪いって言われるでしょ?」


これには頷く。彼女の自己中には、俺も疲れが溜まる。

でも、俺は変わった子としか関わらないっていう。

自分も変わってると自覚せざるを得ない。


「言われるけど、なんで知ってんの? ストーカーかよ?」


俺は思わず失笑した。

ただ、陽奈は性格悪いって言うのは貶してるのではなく、良い意味で接しやすくてほっとけないのだ。


「ふん、そんぐらい分かる。性格穏やかな私と全然違うから。」


女子生徒2人がクスクスと笑う声が聞こえた。

俺もその仲間に入れてくれ。


「いや、同じだと思うぞ? 餃子と焼売ぐらいの違いでしかない。」


「和人君、なにそれ? どんな比喩よ?」


「分かりづらい? ならマグロとハマチぐらい違う。」



腕を組んで深刻そうに言った俺は、何を言ってるのだろうと、ふと視界を逸らす。




夏の教室の窓から見える入道雲が陽奈の黒髪にまるで絵画の様に一つの絵になるほど、透きって見えた。


彼女の目が俺の視線に気がつき、驚いたような、それでいて優しく心に触れるような目線で俺を見つめ返す。





「つまり、似たもの同士って言いたいの? 全然違うわよ。天と地獄ぐらい違う。」


「じゃあ地獄にバイバイ。私和人と話あるからまたね。」

陽奈がハエを追い払うかのように手を振る。


「いえ貴方が地獄行くの。鬼に生まれ変わったら? お似合いよ?」

莉子が地面を指さして言う。


「2人で仲良くゾンビ退治しといで、俺帰るわ。」


「駄目っ。」


息がぴったりではないか! 同時におんなじこと言ったぞ。


「悪かったわ、3人で協力しましょう。っって言いなさいよ?」


莉子が謝りながら、強要するというわけわからん行動をする。


「はぁ? 一言余計じゃ!」


耳に手を当てて挑発する陽奈。


「む〜和人君、この女なんとかして〜。」


お前もだろ! どっちもどっちだ。


「自分でなんとかしなさい! 俺に振るなって。」


「んー、分かった。話を戻しましょう。ゾンビを見つけるの手伝うわ。」


「良いけど、見つけたら取り分は、私6、和人3で朝霧さんが1。これでどう?」


「せっこー! なんで貴方が6も取るのよ?」

ムンクの叫びのように莉子が吠える。


「私貧乏、彼子金持ち、あなた成金yeh!」

陽奈がラップ口調でウインクする。


莉子が何か言いたそうに口を魚のようにパクパクと動かす。


俺は教室の天井を見つめ、この場から少し逃避を開始した。

あのギザギザした模様は、トラバーチン模様と言うらしい。


「おーい戻ってこい! さっさと行くぞ!」

陽奈が目の前で手を振り、すぐさま俺の手を掴んだ。

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