違和感

澄み渡った青空、頬を撫でる心地よい風。

珍しく、冬日和であった。 


私は今、友人との待ち合わせ場所に向かっている。駅前のレストランで、ちょっとしたおしゃべりでもしようと私が誘ったのだ。

友人はすぐに快諾してくれ、「じゃあ早いほうがいい、今行こう」ということになり、行くことになった。


歩きながら、ふと「あまり気を遣われないといいな」と思った。何に関してかは言うまでもない。私は友人との他愛もない会話を望んではいても、母を亡くした自分を慰めてほしいとは全く思わない。そういう意図で連絡したのではないのだ。でも、もし気を遣われたとしても、それはしょうがないとも思う。に考えて、身内を亡くして間もない人間から連絡が来たら、それについての話をしなければいけないと思ってしまう。一瞬でもいいから一緒に悲しみを共有したいのだ、と推測するだろう。でも、私にはなぜか、そのの感覚がいまいちピンとこなかった。私は母の話をするために友人に連絡したのではなく、学生時代のようにただくだらない話をしたいだけなのだ。

でも、私にはなんとなく分かる。

人によっては、いやむしろ大多数の人は、私のこの気持ちを理解できないのかもしれない、と。

実は、今待ち合わせをしている友人の他に、もう一人の友人にも連絡をしていた。

3人で軽く話さない?と誘ったのだが、断られてしまった。その時に言われた言葉が、私の胸にずっと引っかかっている。

 

「良いの?こんな時に。もう悲しくないの?」


それが決して私を非難する意図で発した言葉でないことはわかっている。でも、友人は確実に私に違和感を持ったのだろう。母親を亡くして2ヶ月しか経っていないのに、くだらない話がしたいだなんて、悲しんでないのかと思われたのかもしれない。

悲しいに決まっているじゃないか、と心のなかで叫んだ。でも私の中で、母を亡くした悲しみと、友人たちととりとめもない話をしたいという欲求は、同時に存在していた。それは理解されにくいことなんだと、わかってはいたが、付き合いの長い友人にそう思われたということがかなりショックだった。その友人は思ったことをズバズバ言う潔い性格で、そういうところも私は好きだったが、今の自分にはこたえた。


結局、友人は用事があると言って私の誘いを断った。


友人には、私がどう見えていただろうか。得体のしれない気持ち悪いものに見えただろうか。


「はぁ…。」

思わず溜息が出た。告別式ぶりに友人と会うのを、今の今まで楽しみにしていたはずなのに。嫌なことは思い出さないようにしようと自分に言い聞かせても、ふとした瞬間に、言われた言葉が脳内に響いてネガティブな考えが止まらなくなってしまう。


最近は、なんだか体に力が入らないし、ちゃんと寝ているはずなのにだるさが抜けない。常に心にもやがかかっているような気がする。



心做しか重くなったような体を引きずるようにして歩いていると、目的地のレストランが見えてきた。

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