帰宅

「ただいま。」

約2ヶ月ぶりに帰宅した私の声が、暗くて静かな部屋に寂しくこだまする。

一人暮らしなのでもちろん声は返ってこないが、もう慣れているのでなんとも思わない。


電気を点けて、思わずため息が漏れた。

もう何年も使い続けて塗装が剥がれているプラスチックのテーブル、しっかり仕舞っていない椅子、黄緑色のカーテン、出しっぱなしの衣類。

ああ、帰ってきた、と思った。自分の家に。

いつの間にか、私は実家で心からくつろげなくなっていたことに気づいた。母のことがあったからというのが1番の理由だと思うが。

ここは母の死も父も関係ない、つかの間の避難所だ。そう思うと肩の荷が下りて、ようやく本当にくつろげそうな気がした。

手を洗うのも億劫で、そのままカーペットにごろんと寝転がる。背中に触れているカーペットが信じられないくらい柔らかく感じて、不意に体から力が抜け、眠気が襲ってきた。


―――床に吸い込まれてるみたい。


そんなふうに思って、笑った。

そのまま私は、閉じた瞼の裏に照明のほのかな明るさを感じながら、深い眠りに落ちていった。

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