11話 同じ内容でも
ローゼとディアナだけしかいない集会所は先ほどまでの騒がしさが嘘のように静かだ。
その中でまるで
「せ、聖剣って、あの魔物と戦うための聖剣?」
「そう。その聖剣みたいよ」
「あんた魔物と戦うの?」
「どうなのかしらね」
手を広げて「さあ?」という仕草をしてみると、ディアナは思わずといった様子で吹き出した。一緒に笑った後、ローゼは小さくため息をつく。
「大神官様はあたしに主になって欲しくないみたいだったけどね」
「そうなの?」
言いながらディアナが椅子に座って手招きをしたので、ローゼも隣に腰かける。
「うーん。多分、そうなんだと思う」
かいつまんだ内容をディアナに話すうち、ローゼも冷静になって状況を振り返ることができた。
考えてみればアレン大神官は魔物や戦うことの恐ろしさや聖剣の不明さばかりを説き、だから聖剣の主になってはいけないと強く勧めていたが、ローゼがどうしたいのかは一度も聞いてこなかった。
「あれは、あたしの考えを誘導したかったんじゃないかな……」
冷静さを失わせ、考える暇を与えず。村生まれの小娘が恐ろしさに負けそうになったところで優しい顔をし、「断ってもいい」と
「さすがは大神官様なんて呼ばれる人なだけあるわ。結構な説得力があって、思わず『やりません』って言いそうになったくらいよ」
あとは大人数の前で話をする重圧も大変なものだった。あれも絶対に作戦だった、と思いながらため息を吐くと、ディアナがローゼの顔を覗き込んでくる。
「言いそうになった……ってことは、あんた、断ってないの? もしかして受けるつもり?」
「そこが問題なのよね」
ローゼは書庫にあった『戦闘記録』も読んだことがある。これは神話ではなくてただの事務的な内容だったが、淡々とした状況描写は神話よりもずっと現実的で生々しく、神殿側の人たちの怪我や損失状況が目に見えるような気がして体が震えたものだ。
それを今度は自分もやる。無茶だとしか思えないし、自分が聖剣を持つことに関してもまったく実感が湧かない。
ただ、どういう流れでこんなことになっているのかの詳細は知りたいところだが、大神官に聞いてもきっと教えてくれないだろう。そしてもちろんアーヴィンにも会わせてくれないはずだ。彼をあの場に
もともと大神官はアーヴィンに口止めをしていた。今にして思えばこれだって、ローゼに心の準備をさせず衝撃を与えるためだったのだ。
(そう考えると、アレン大神官って本当にヤなやつ!)
分からないのはアーヴィンが大神官に加担していた理由だ。もしかしたらアーヴィンも本当はローゼに断らせたいのだろうか。そう考えるとローゼの気持ちは揺れる。
これも実際に理由を聞いてみたいところだが、会わせてもらえない今はアーヴィンの考えに思いを馳せても仕方がない。まずは自分自身の気持ちを確かめることから始めるべきだ。
「とにかく、もうちょっと考えてみる。……あと、今更だけどこの話は大っぴらにしない方がいいと思うから、ディアナも知らんふりしててよね」
「分かったけど……でもね。正直に言うなら、私は断ってほしい。あんたに、そんな危ないことして欲しくない」
ディアナの表情は真剣そのものだった。
誰も彼もがローゼに聖剣を持たせたくないらしい。ただしアレン大神官とは違って、ディアナが反対する理由は心から心配してくれているためだ。
「ありがとう」
ローゼが言うと、ディアナはふいと横を向く。
「別に、ローゼのために言ってるんじゃないわよ。あんたに何かあったら、ええと、あんたの弟が泣くんじゃないかって心配だから!」
「弟? マルクとテオが?」
「そうよっ、テオが、よ!」
ローゼには弟がふたりいる。マルクは上の弟で十六歳、下の弟テオは十四歳だ。
「なんでテオの名前だけ改めて言うの?」
「それは……その……」
恋愛にはさほど興味のないローゼだが、毎回『乙女の会』に参加していれば分かる。今のディアナのように頬をそめながら、恥ずかしそうな、むずがゆそうな、表情の少女たちは嫌というほど見てきた。
「……もしかしてディアナ、テオのことが好きだったりする?」
「うぐ……そ、そうよっ、気になってるわよ!」
「えー初耳。ディアナとテオじゃ五歳違うけど」
「別にいいじゃない! あの子可愛いものっ。ああ、私、なんでローゼにこんなこと言ってるのかしら!」
「自分で勝手に言いだしたんでしょ」
そう言って笑うと、ディアナはますます赤くなった。
本当はローゼを励ますつもりもあって言ったのだろう。あの大神官に会ったあとのローゼにとって、ディアナの心遣いはとても嬉しいものだった。
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