第8話:VS黒塚大天狗
……天狗。
それは日本に古来からいたされる妖怪もしくは神の如き生物。
一般的な印象としては山伏の服装で赤ら顔で鼻が高く、翼があり空中を飛翔するとされる大化生。別の国の言い伝えでは、凶兆を伝える流星そのものとすら言われており、わかりやすく言えば規格外の化け物だ。
[――天狗!?]
[京都の鞍馬のダンジョンの下層で報告あるけど、あれも攻略されてないし]
[新発見じゃん!?]
[既に伝説の配信なんですが……]
[この配信、面白すぎる]
[ダンジョン発見以来の二度目の天狗]
[しかも下層だろ!?]
[大発見すぎる]
横目でコメントと同接数を見れば、そこでは爆速でコメントが流れている上に十万という数字が表示されていた。確実に湧いている配信、疑いの目は合ったけど……天狗というビックネームに視聴者は戸惑いが隠せないらしい。
「――相手にとって不足なし」
「――
相手が笑いながらも団扇を扇げばそれだけで突風が――いや、これは違う。
本能から危険だと悟った俺は、瞬時に避けたのだが俺がいた場所がぱっくりと裂けており、まるで超鋭利な刃物で両断したかのような跡が残った。
[ダンジョンの地面が斬れた!?]
[破壊不可能の筈だろ!]
[というか何が起こった!?]
[風が吹いたと思ったら、床が斬れた?]
[――危なすぎるだろ!]
コメントの内容は心配が殆ど。
ダンジョンの材質は今だ解明されていないが、どれもが破壊不能という特性を持っており――それを成した天狗の攻撃がいかに強力かを物語り、こいつには勝てないという声が上がる。中には割と有名な配信者の名前すらあり――。
「いや、大丈夫だ。あそこまで大口叩いて逃げるのはかっこ悪いし――何より強敵上等、わくわくしてるんだよ俺!」
俺の視線の先、そこには同接十六万という文字が表示されている。
なんでだろうか、楽しいのだ。過去に攻略したダンジョンで日常だったこのレベルの強敵。久しぶりのその感覚に口角が上がらないわけが無い。
[やばい、こいつあまりにも冒険者だ]
[本気で戦う気なのか?]
[冗談……言っているふうじゃねーな]
[――楽しくなってきた]
[いくらなんでもソロは危険すぎるだろ]
[京都の天狗も四人推奨だぞ!?]
[なんかこいつならやってくれる感が……]
[切り抜きから来たけど、なんだこれ――まじで天狗じゃん!]
[伸びが止まらねぇよ]
[何が起こってるんだよ……風が吹いて地面抉れて]
[なんで生きてるんだこいつぅ!?]
勘のみで四方八方から来る風の刃を避け続ける。
一瞬でも受ければダンジョンの恩恵を受けた俺でさえ切り裂くだろうその凶撃、ミスは許されず気を抜くなんてもってのほか。
「――ッ次は植物か!」
風のが止んだと思ったのも束の間、何やら天狗がもう片方に持っていた錫杖を鳴らしたその瞬間――地面に生えていた植物が根を伸ばして俺へと迫ってきたのだ。
瞬時に対策するように刀で切り裂き前に進むが、これだけで終わる事なんて無かった。また風が吹き始めたのだ。
不可視の刃に迫る根の槍。
それは俺の逃げ場をどんどんなくして、命を確実に削ろうとしてくる。
――斬って進んで、そして何度も放たれた事で感じ慣れた刃を受け流す。相手の狙う癖をある程度理解し、この魔法の法則をなんとなく覚えたからの芸当だ。
「っし、受け流し成功!」
[なんで生きてられるんだよ]
[逆にどうなってんの? ……これ]
[弾いた音が聞こえたけど……]
[え、なに不可視のあれ防いだの?]
[意味分かんねぇw]
そのまま続けるように魔力を足に流して一気に跳躍。
そして俺は宙にいた天狗を袈裟斬りにして――確実な傷を与えた。
「――痛」
……天狗の顔つきが変わる。
さっきまで大笑いしながら俺に攻撃を仕掛けていたのだが、表情を改めて俺を敵だと認めたようだ――そして、
「呵――呵呵呵呵呵呵呵、渇!」
先程以上に声を張り上げて、そいつは笑った。
その大笑いは衝撃となり、俺の体を威圧する――そして俺を認めてくれたのか、地面まで降りてきて――。
「来ィ!」
来いとそう言った。
――その言葉、乗らないわけにも行かず。
[ボスが人間を認めたのか?]
[なんだ、これ……熱すぎる]
[鬼面野郎が一気に走ったぞ!]
[錫杖で迎え撃った!?]
[早すぎて見えねぇよ!]
[なんでこの攻防成立してるんだよ!?]
しかも相手は本気だ。
時折錫杖を鳴らして植物の攻撃を織り交ぜてくる。
天狗の棒術に近いだろう、錫杖の攻撃に鋭い根の槍……あまりにもきついこの状況で、俺は昔の地獄を思い出す。あの時の日常が想起され、より動きが洗練される。
「――はは、楽しいな天狗ぅ!」
「――同――楽ぅ!」
――刀と杖をぶつけ合う。
その攻防は激しく、数倍以上の身体能力を持つこいつの攻撃はかなり重い。
だけど――受けられないことはない。
「――うぉぉぉぉぉ!」
……加速する。
思考を回し、本能で動く。
動きを早め最善を見極め――何度も何度も前に動く。
全ての攻撃を捌くことは出来ず、かすり傷が出来て血濡れていくが、その痛みは――最早感じない。
[極限の攻防だ!]
[これ疑ってた奴顔真っ赤だろ]
[人間の達人同士の戦いみたいだ]
[あまりにも凄すぎる]
[まて、天狗がもう一度飛ぶぞ!?]
空中に浮かぶスマホの一瞬だけ見えたコメントの通り、相手が浮いて俺から距離を取った……何か来るとそう思って身構えれば、相手の背中に風の槍が浮かんでいる。
「ハッ上等!」
[絶対やばいって!]
[あれがさっきの正体か!?]
[それの圧縮版!?]
[避けろお面野郎!]
[あれ、なんか鞘が現れたぞ?]
[刀しまった?]
[……諦めた?]
[まさか……この状況で居合い!?]
こいつの技量は高い、それの投擲術など殆ど不可避と言っていい。
――――ならば。
迫る狂槍、それは一瞬で俺の前に到達する。
[斬った!?]
[!?!?!?!?]
[はぁぁぁ!?]
[神業すぎるだろ]
[起こりさえ見えなかったぞ!?]
「もう、見切った」
相手は風の槍を幾つも放ってる。
だけど、それはもう俺には届かない。こいつの狙いは正確だ。確実に俺を殺そうと技を放ってくる。だから、それを逆手に取って――狙う場所を読めば良い。
一気に距離を詰める。
……そして、黒炎を刀に纏わせて、
「
天狗の体を両断した。
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