第6話:黒塚下層攻略RTA

「ってなわけで装備二つでいく下層攻略RTAはじめるぞー!」


 追尾型のスマホがちゃんと作動している事を確認しながらも、俺はそんなことを宣言して、鎖と刀を持って一気に走り始めた。


[でんでんででででん――かーん]

[オッスお願いしまーす!]

[何言ってんの!?]

[って、速すぎるだろ!]


 足を踏み入れた途端にこの階層に生息している鬼達が俺へと近づいてきた。

 鬼ならばと今は鎖を使わなくていいと判断し――一呼吸した後、迫ってきた三体の鬼の首を刎ね飛ばした。


[え?]

[まじで何が起こった?]

[スロー再生させてくれ]

[少なくとも上位クラスの鬼達が一呼吸で首刎ねられたんだけど]

[所作が綺麗すぎる]

[映画みてぇだ]


「えっと、こいつらの皮膚は硬いからな、無防備なうちに首を刎ねるのが最善だぞ?」

 

 こんな風に解説しながらの攻略は初めてで緊張してしまうが、今までの攻略のノウハウを元になんとか口に出す。

 加速するコメント全部に目を通すのは慣れないから少し集中するのが難しいけど、このダンジョンにはよく来てるからまだなんとかなっている。


「っし、今日の目標は下層のボス前まで攻略だ! 俺もボス部屋には行ったことないからな――未知に挑戦ってことになるまじで滾るだろ!」


 やっぱり配信のテンションは高い方が良いだろうし、声を張り上げて走り続ける。


[表情見えないけど、楽しそうだな]

[これ伝説なるぞ]

[黒塚攻略されるのか?]

[やばすぎる]

[熱すぎる!]

[こいつ本当に何者なんだ?]

[こうしてる途中にも鬼の群れが……瞬殺]


 四方八方から迫る鬼の群れ。

 その攻撃をかわして武器である金棒を両断してその流れで腕を落として、首を刎ねる。もう慣れてしまったその動き、俺としては普段通りのものなのだが……。


[三撃必殺ぅ!]

[なめらかすぎて断面から血が出てないんだけど]

[侍すぎる]

[こいつ戦国時代出身だろ]

[あれ、ワイバーンいなくね?]


「そんな皆に朗報だ……このダンジョンの下層はこれからが本番だぜ?」


 ちょっと調子が出てきて、なんとか喋れるようになってきた。

 しかもちょうど良いことに下層の中腹に差し掛かってくれたので……。


「早速の出迎え……数は三か、しかも……全部属性違いだ!」


[え、まじでいるじゃん]

[国外と国内の魔物の共存とか珍しい事例だぞ]

[というか、ライトニングとフレイムそれにコールドワイバーンって]

[全部A級の魔物なんだが?]

[普通に攻撃食らえば即死案件]

[ぼうぐ……どこ?]

[そもそも攻撃が届かないだろ]


 湧き出すコメント欄。

 こんなに盛り上がるのを見るのは初めてで……自然と気分が高揚する。

 ――空中から炎や各属性のブレスが飛んでくれるがそれを避け、俺は今まで使ってなかった鎖を構えて投擲する。先の尖った鎖の先が一匹のワイバーンに突き刺さり、俺はそのまま力比べ。

 一気にこっちに引き寄せて――俺も同時に走り出す。


[何する気だよ]

[エイムよすぎw]

[え、引き寄せるんじゃないの]

[待って待って! 跳躍した!?]


 すれ違いざまにワイバーンを両断し、そのまま肉片を足場にさらに速く跳躍する――そして、残る二匹の元に辿り着いた瞬間に回転しながら相手を肉塊に。

 落ちるドロップアイテムを回収しながら、空いた鎖に魔力を注ぎ込んで性質を変えてクッション代わりに着地する。


[侍? 忍者? どっち!?]

[動きがスタイリッシュすぎる]

[ゲームを超えるな]

[なんだ俺は今何を見たんだ?]

[何今の魔力操作!? どうやったらそうなるの!?]


「えっと、性質変化で鎖を柔らかくしたんだが……後は感覚で大体そんな感じ?」


[もっと説明よろ]

[そこは詳しく頼む]

[適当すぎる]

[まじでこいつ何かの怪異だろw]

[死ぬほどスタイリッシュに動く鬼面忍者侍]

[ばけもの]


「……でも感覚だし」


 なんか解説が求められてるが、俺の魔力の使い方なんて独学だ。

 専門学校で教えられてるものとかの方が効率良いだろうし、何より感覚で使ってるから説明できる気がしない。


「それよりさ、どうだ俺の攻略? こんなに見られてるの慣れないからちょと動きが悪いけど、問題ないか?」


[なんだろう配信内容とか言わないようで頭がバグる]

[言ってること初心者なのにあの動きなに?]

[まじでなんで今まで埋まってたんだよw]

[逆に気にせずいつもの動きやってください!]


「でも……それじゃあコメントが読めなくなるんだけど」


[命の心配してくれw]

[分かるけどさ]

[まじで本気見せてくれ]

[みたいです!]


 期待には応えたいけど、俺一人の本気などたかがしれてる。

 空と戦えば済む話しだけど、由衣の奴から釘刺されてるし――使うのもなぁ。


「私を使ってよ……そしたら本気出せるよね?」


「でも、俺縛るって言っちゃった……し?」


「どうしたの鳩が豆鉄砲を食ったような顔して」


 なんか自然な流れで話しかけてきた俺の相棒様。

 彼女は少し……いや、かなり不機嫌そうな顔で俺を睨んでおり完全に起こっているのが丸わかりだ。

 いや……そんな事よりも、なんで出てきちゃってるんですの?


「あの空さん、今日は休んでていいって伝えましたよね?」


「浮気してるから許せなくて」


「――許可取ったくない?」


「時間オーバー後でお話、それよりコメント見なくていいの?」


「こめ……んと?」


 そういえば配信中だったことに気づいて、とにかく急に現れた彼女のことを説明しないとという使命感に駆られる。だけど、そんな事を言う暇が無いほどに……コメントの量が増えていた。


[なにこの美少女!?]

[は、え――綺麗すぎんか?]

[その前に格好が際どすぎるぞ]

[何者なんですの!?]

[浮気ってこいつ戦ってるだけじゃね?]

[詳しく、まじで気になる]

[情報はよ!]

[名前とか色々教えて!]

[絵面……面白すぎる]

[鬼の面の男と際どい包帯美少女@紋様付き]

[癖の塊]

[事案]


 えっと、なんでこんなに盛り上がってるんだよ!?

 混乱する思考と配信、チャンネルの同接は加速度的に伸びていき……気づけば八万人を超える配信になっていた。


「――わ、わぁ」


「ふふ、既成事実げっと」

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