回復魔術師は24時間年中無休

宇宙外のメガネ

回復魔術師は24時間年中無休

 回復魔術師——それは冒険者パーティに一人は欲しい花形の職業であった。

 しかしそれは昔の話。

 今では人気……ではあったが、子供たちが夢見るような職業ではなくなっていた。


 その理由とは——だったからだ。


 回復魔術師は他の職業である戦士や攻撃魔術師などと比べて万能だった。

 怪我の治療はもちろんのこと。疲労の回復や、死者の蘇生までなんでもできた。

 だからこそ重宝された。主に現場仕事ではあったが……。


「いやだああああああ!もう休ませてくれええええ!!!」


 あまりの激務に耐えかねたのか、炭鉱から一人の回復魔術師が逃げ出そうとしていた。

 残念な事にそれは彼を追ってきた大勢の従業員によって連れ戻されて行く。


「ダメに決まってんだろ!?」

「おまえがいないと俺たちは満足に働けないんだよ!」

「恨むんなら自分の才能を恨みな!!」

「いやだああああああああああ!!!!!!」


 こういった光景を幼いころから見てきた少女——リサは絶対に回復魔術師になるまいと心に決めていた。


 そして時は流れ、リサは十歳になり職業適性診断が行われた。


「えーっと……おめでとうございます!リサさんの適性は回復魔術師ですね!」

「え?も、もう一回お願いします」

「回復魔術師ですね!」


 あまりの衝撃で聞き間違えかと思うくらいに自分の診断結果が信じられなかった。

 診断してくれたお姉さんが再度口にした診断結果は一字一句同じで、リサを絶望へと叩き落した。

 リサは油断していた。

 両親の職業は父親が戦士で母が攻撃魔術師だったからだ。

 そのためリサもそのどちらかの職業になるだろうと思っていたのだ。


 職業適性は両親の適性と同じものになるのが一般的だ。

 しかし中には両親とは全く違う適性になる事が極まれにあった。

 その極まれに起きる事がまさか自分自身に起きるなんて彼女は思ってもいなかった。


「リサさんは回復魔術師ですので、あらゆる業界へ行けますよ!」

「う……嘘だぁーーーーーーッ!」


 あらゆる業界へ行ける。その言葉は聞こえがいいが、実際は24時間年中無休で働けるからどの業界でも歓迎されるのだ。


 ——この世の中には労働者が働ける時間が明確に決まっている。

 だがそれは回復魔術師以外にのみ適用された。なぜなら回復魔術師は自分自身にも回復魔術を——主に疲労回復の魔術を使えたからだ。

 これにより彼ら回復魔術師たちは年中無休。そして不眠不休で働くことができるという事になっている。

 しかし冒険者のグループに所属するとこの決まりはあって無いようなものだった。

 そのため、回復魔術師たちは誰もが冒険者のグループに加入したいから、倍率はとんでもなく高い。


 リサは診断を受けた後、村にある回復魔術師組合で身分登録をした。

 その時の彼女は心ここにあらずといった感じで、虚ろな目をして書類を書いていた。

 そして働く場所は一応自由に決められるが、記載されている期間は絶対に働かないといけない決まりになっているため、適当に決めると後が大変だ。

 しかも回復魔術師は、希望する仕事が無くてもどこかには所属しないといけない決まりがあるため、休むことは許されていないのだ。

 その事を彼女は分かっていたため慎重に決める事にしていた。

 彼女の第一希望は冒険者のグループに加入する事だが、残念ながらこの村にはそのような募集は無かった。

 流石に冒険者たちが拠点にしているのはもっと大きな街なので、加入したかったらそういった所に行く必要があった。


「じゃあ……とりあえずここにします」

「隣町の大病院ですね!明日からの住み込みです!」


 考えた結果、病院に行くことにした。

 決め手となったのは、病院は比較的夜は休める事が多いから。

 それと他に募集していたのが炭鉱夫や農作業などの体力を使うものばかりだったからだ。

 病院なら回復魔術が活躍するし、魔術の修行にもピッタリだった。


(回復魔術のランクを上げて、絶対に冒険者になってやる!)




 ————リサがそう決意してから数年後。


「急患!しかも五人!その内三人は重傷!」

「重症って手足無いじゃんか……急いでリサ呼んできて!」


 彼女は十六歳になるまでずっと同じ病院で働き続けていた。

 もちろん24時間年中無休で。

 そして暇な時間はすべて回復魔術の修行をしていたが、これはなるべく治療時間を短縮し、自由な時間をつくるためである。

 そのおかげもあってか、回復魔術の腕前も格段に上がっており、この病院で一番になっていた。

 手足の欠損なんてわずかな時間で治してしまうし、蘇生魔術も扱えるようになっていたりと、同年代の中ではトップクラスの回復魔術師へと成長していた。

 だが悲しい事に、上達すればするほど仕事量が増えていくのが回復魔術師。

 彼女の仕事は病院内だけではなく、自由な時間が増えれば増えるほど他の仕事が舞い込むようになっていった。


 そしてリサは決意した。回復魔術師辞めよう、と。

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