第108話 氷越竜ラン・ジェイルVS災冥竜テラ・ディザス

 そもそも、この戦いの目的は何だろうか。


 いきなり卵が出てきたと思ったら、台座から不思議な魔力を『与えられ』て、殻が割れて幼い竜が出てきたと思ったら、大きく『させられ』て、暴れだす。


 随分と受け身な言葉だが、間違いない。


 災冥竜テラ・ディザスは、ランと同じく、外部から強制的に暴れるように命令されている。


「台座には何の力も残ってねえな。えーと……なるほど、めんどくさい仕込みをしやがって」


 キュウビの目がチカチカ光っている。


 何かの分析を行っているのは間違いなく、『何かを理解』した様子。


「キュウビさん。僕たちはどうすればいいんだ?」

「とりあえず抑え込むしかねえな。ドラゴンの体内に『仕込み』を入れてる」

「仕込み? どんな――」

「危ない!」


 キュウビの尻尾が光る。


 すると、その場にいた全員が転移して、十メートルほど横にそれた。


 次の瞬間、転移前の真下から、マグマが吹き出して天に昇って行った。


「噴火の災害が、あそこで発生ですか」

「ハッ! めんどくせえことしてくれやがって……」


 ベラルダが獰猛な笑みを浮かべた。


「抑え込むっつーか、体力を削らねえとどうにもなんねえだろ。だったら戦うまでだ。『巨人倉庫ギガント・アーセナル』!」


 パチンと指を鳴らす。

 すると、魔法陣が出現して、巨大な『拳』が出現した。


「なんじゃありゃ!?」


 サイラスが驚愕。


「ベラルダは『彫刻家』兼『傀儡子』だ。敵のサイズに合わせて『大きな手』を倉庫から取り出して戦う」

「なーるほどぉ?」

「ちょっとわかってなさそうだな」

「あの、マサミツさん。俺もよくわからん」

「あとで体験させてもらえ、それで難易度はよくわかる」

「分かりました。とりあえず、邪魔だけはしないように気をつけます」

「よろしい」


 マサミツは頷いた。

 そして、テラ・ディザスの方を見る。


「で、どうするか……」

「全員の靴に『空中足場』の付与を使う。三十分は持つし、切れかかってきたら体感でわかるから、それで戦ってくれ」


 キュウビの尻尾がまた光ると、全員の靴が光る。


「ふむ……なるほど」


 サイラスが階段を登るように空中に足を置くと、しっかり踏みしめた。


「確かに都合のいい足場として使えそうだ。行くぜ!」


 サイラスはナイフを二本構えると、そのまま空中を走り抜ける。


「あの人の戦闘センスってどうなってるんです?」

「サイラスさんはあんな感じの人ですよ。というわけで、行きますよ」

「あ、ああ」


 アティカスが呆然としたが、ユキメに言われて頷く。


 そして、ユキメが前に出て、アティカスも走ってテラ・ディザスに向かう。


「みんな、空中を走るのうまいなぁ」

「マサミツは初めてじゃねえのか?」

「初めてではないね。あの頃に『受け身』や『五点着地』の大切さを知ったよ」

「転びまくってんじゃねえか」

「そういうベラルダは?」

「アタシはかいちょーと空中鬼ごっこしてたぞ」

「みんな器用だねぇ」

「まあ、全然追いつけなくて、かいちょーは途中から片足だったけどな」

「けんけんに負けてたのか」

「後でシバくぞ」

「別に構わないが、とりあえずテラ・ディザスをまずどうにかしよう」


 マサミツは剣を構えなおすと、空中を走り抜ける。


 明らかに、ユキメやアティカスよりも早い。


 ……サイラスはもっと早いが。


「……はぁ、アタシも行くか」


 ベラルダは右手で拳を握る。

 すると、出している『巨人の手』も拳を握った。


 その状態で、地面を思いっきり蹴る。


 異常なほどの跳躍力で、体が跳ね上がった。


「さて、とりあえず、攻めるか!」


 サイラスが最初に、テラ・ディザスに肉薄。

 そのまま、ナイフで連撃を叩き込んだ。


 ガガガガガガガガガッ! と人間とは思えない音が炸裂するが、鱗は相当頑丈な様子。


「硬いが……じゃあこうするか」


 何かの付与魔法を使い、連撃ではなく叩きつける。


 バゴッと鈍器を叩きつけたような音が響いた。


「ギャオオオオオオオオオッ!」


 しっかりダメージが入っている。


「中身にダメージを与えてますね。なるほど、それなら私も」


 ユキメも接近し、ナイフを構えて、突く。


 ズガッ! と音が響いた。


「ギャアオオッ!」


 悲鳴を漏らしたが、直ぐに、マグマを口にため込んだ顔でユキメを見る。

 そのまま、口から噴火!


「それっ!」


 ユキメの前にアティカスが出てくると、剣で噴火を切り裂いた。


「器用ですね」

「なんかさっきからみんなそればっかりだな」

「当然だ。最近、会長がキュウビの力で圧倒してばかりだったから、僕らの見せ場なんてほとんどなかったからね」

「悲しい事言わないでください」


 追いついてきたマサミツの言葉にユキメがため息交じりに反応。


「さて……それっ!」


 マサミツは剣を振り下ろす。

 すると、魔力が斬撃の形になって、テラ・ディザスの体を切り裂いた。


「ギャアアアアアアアアッ! バオオオオッ!」


 叫ぶとともに、口から雲を吐き出すと、空中にとどまった。

 そこから、雷が降ってくる!


「ギュアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」


 ランが低温ブレスを放つと、雷も雲も凍らされて、バラバラに砕け散った。


「ランが単発火力なら一番っぽいな」

「負けてられっか!」


 テラ・ディザスの顔面に、ベラルダの『巨人の拳』が振り下ろされた。


 バギイイッ! と生物から聞こえてはいけない音が響く。


「ギイイイイッ! バオオオオオッ!」


 噴火ブレスがベラルダに向けて放たれた。


「忙しい奴だな」


 巨人の拳を傍に持ってきて、指を開く。

 そのまま、手のひらでしっかり受け止めた。


「うーん、なんか、思ったよりも戦えてるな。ただ、ランもそうだが、テラ・ディザスには『あのスキル』がある。それを使う前に何とかしたいところだが……」


 サイラスたちはキュウビが想定していたよりも戦えている。


 ランがいることもあって、既に戦力としてはほぼほぼ完成していると言って良い。

 各々がしっかり『ダメージを与えるエースポジション』として役割を果たすことができる実力を持っている。


 ただ、キュウビはまだ、知っていることがあり、それが顔を出したら、この戦況がひっくり返ることも考えられるようだ。


 どのように戦っていくか。

 そのためにどのように自分の力を振るっていくのか。


 各々の武器を振るい、テラ・ディザスを相手に戦う冒険者たちを見て、最善のルートを探るためにキュウビは分析している。


 もっとも、それは……。


「なるほど、あれが置き土産か。私がいない間に、こんなことになってるなんてね」


 戦いという概念そのものに手を出す存在が、この場に現れなければの話だ。

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