第100話 あいつ等……宝を盗まれた?
「……違約金はしっかり払ったから、次のエースパーティーを作り出せるはずなんだけど、実績が低迷してるね」
「アイツら、いきなりオーソンたちが抜けるからって、法的に認められる以上の額を請求してきたもんなぁ。まあそれも込みで払ったんだけどな。あとでめんどくせえし」
冒険者と言うのは、なんといっても、『分かりやすい』と考えていい。
換金するための場所や、手に入れたアイテムを市場に流すために預けられる場所は限られており、当然、他に知られないために個室になっている場合がほとんどなので、具体的にはわからないはず。
なのだが、『冒険者界隈』を主戦場とする記者から見ると、冒険者がどれほど気を付けていても、運搬業者の表情を見るだけで『今日は多いな』とか『今日はヘマしたな』とか、そう言うことが分かるのだ。
古今東西、人間の表情と言うのは真実を映す鏡のようなものである。
まあ細かいことは良いとして、『確定』ではなく『推測』も含まれるが、新聞を読めばギルドやコミュニティの稼ぎは大体わかる。
そして、『ウロボロス……ヤバくね?』という話になっているのだ。
「……宝、どうなったんだろうね」
「転移街のシステムははっきりしてるぜ。これからウロボロスを盛り上げていくなら、素早く決めて送り込むのが普通だ。それをやらないってことは……」
「『宝』は……盗まれたのかな」
「可能性は高そうなんだよなぁ」
転移街の構造ははっきりしており、散々、シェルディが配ってきたカードに抜かれた現状を考えると、誰がどうお見てもウロボロスは悲惨だ。
オーソンたちの活躍もあり、多少は盛り返した部分はあるだろう。
あまり冒険者事情に詳しくない新人で、有能な者はウロボロスに入ることもある。
狐組は人事権が超特殊な上に、入ることは難しいのだ。
アグリ関係で、事前に何かが起こらないと、狐組に入れないというパターンは多い。
それゆえに、入った冒険者が、宝とか関係なく活躍して、結果としてウロボロスが躍進するというパターンもなくはない。
だが、いずれにせよ、そう言った冒険者は第一層から挑むのだ。
70層までいけるバケモノだったとしても、たどり着くまでに時間がかかるし、そんな低い可能性に駆けなくても、『宝』があるのだから、それを使えば良いという話だ。
それを使えるという圧倒的なアドバンテージを活かさないという選択肢はない。
狐組の基準で見ても、70層に挑める実力があるというのは、紛れもなく強い。
と言う前提がありつつ、『うまくいっていない』ということは……。
「盗まれた可能性は非常に高い。しかし……こんなオーソンが抜けてすぐにこんな話が出てくるとは……手が早いね」
「オーソンが抜けて狐組に入ることを予測するのは困難なはずだぜ。ただ、オーソンたちに何かあれば、『次』が選ばれるのは目に見えていた。ダンジョンってのは『何が起こっても不思議じゃない』っていうのがいつも隣にあるからな」
「ということは……もしかしたら、オーソンたちはあのままウロボロスに居たら、何かに巻き込まれていた可能性はあるね」
「実際、あるじのハニトラに引っかかったしな。巻き込まれたと言って過言じゃねえだろ」
「餌が俺だとしても、釣ったのはキュウビでしょ」
「間違いねえな」
オーソンの運命もなかなか不憫である。
「……さて、こっからどうするかだな。いずれにせよ、『宝』が盗まれた状態は都合が悪いことが起こりかねないからなぁ」
「俺たちの方でなんとか見つけられればいいけどね」
「……ちなみに、あるじは誰が盗んだと思ってるんだ?」
「多分ラトベルトあたりじゃないかな。シェルディが研究を進めた結果、『擬態』に関する技術は高まってるんだから、普通に真正面から乗り込んでもバレないでしょ」
「真正面からって……ウロボロスも舐められてんなぁ」
キュウビはため息をついた。
結局、組織と言うのは『人』である。
立場には報酬がつきものであり、その立場に誰を座らせるのかを決められるのが『人事権』であり、そう言う意味で、『最強の権利』は『人事権である』とアグリは思う。
しかしその反面、『外から入ってくるヤバい奴を見極める必要』もある。
「……人事部に無能を座らせたか。そういうことをするから簡単に崩壊するっていうのが、まだわかってなかったみたいだね」
救いようのない組織であることは、狐組もウロボロスも変わらない。
若干行く末が心配になりはするが……いずれにせよ、宝のことを考えなければならない。
ラトベルト辺りをどう釣り上げるのか、面倒なことこの上ないと思うアグリであった。
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