転生剣士は九尾の狐と躍進中 ~大手ギルドを隠れ蓑に『集中力強化』を鍛えていた少年。不要だと匿名部署を解体されたので、表舞台に出ます。集中力が切れた地獄の職場よ。どうなっても知らんからな~
第99話【ウロボロスSIDE】 まさに、泣きっ面を踏んだり蹴ったり
第99話【ウロボロスSIDE】 まさに、泣きっ面を踏んだり蹴ったり
「あ、ありえない。あの五人がウロボロスから抜けるなど……」
「い、違約金は支払われました。『宝』を使うことはできます。しかし、確実に遅れが出ます」
ウロボロスの社長室。
新社長のビニオと、支援部担当課であるオーバスは、完全に目論見が外れた。
「お、遅れとはなんだ?」
「今からほかの冒険者に『宝』を使ったとしても、『今すぐ』に70層で潜れるわけではありません。そして間違いなく、ダンジョンと言うのは各フロアが広い。70層まで到達するまでに、確実に時間がかかります」
「ぐ、ぬぅ……」
70層に到達して戦うことで、『ウロボロスというコミュニティの実績は盛り返している』と言える。
そして、ウロボロスの冒険者全員にカードが配られてAランク冒険者相当の実力が手に入った時、『渋滞』の噂が一切流れないほど、ダンジョンの中は広い。
確実に、普段から、ちょっとずつ前に進まなければならない。
だが、現在のウロボロスの冒険者の多くは、カードによって才能を抜かれたままで終わっており、前に進むための実力が足りない。
よって、『エースパーティー以外に、70層に到達しているパーティーが居ない』のだ。
もしも、オーソンたちが手に入れていた金貨を、ビニオたちの報酬ではなく、さらに『宝』を使うためのコストにしていれば、他にも70層に到達していたパーティーはあったかもしれない。
だが、いないものはいない。
転移街と言うダンジョンは、確かに『転移の柱』が一定間隔で安全エリアに存在し、ソロで挑む冒険者にとっても強い階層に挑みやすい構造だ。
しかしそれは、『冒険者個人の事情』に対して都合が良いのであって、『大人の事情』とはかみ合わない。
「くそ、オーソンたちが手に入れた金貨で他の冒険者たちも70まで突っ込むべきだったか……いや、それでは私の報酬が減ってしまう。ぐぬぅ……」
唸るオーバスだが、そもそも論、商会が職員を抱えるのと、冒険者コミュニティが冒険者を抱えるのには、明確な違いがある。
冒険者は何処までいこうと、基本的に『制限時間』がない。
自分のペースで潜り、金貨を稼ぎ、その金貨で装備を整えたり、娯楽に使ったり良い宿に泊まったりする。
そして……『コミュニティ』というのは、そんな冒険者を支える組織であるはずだ。
商会が専属で冒険者を雇うのならば、その冒険者の行動は商会に合わせるべき。
しかし、『冒険者コミュニティ』に属するのならば、多少は組織の方針に従うとしても、基本的には冒険者側の主体性が尊重されるべき。
そういう『理念』の問題である。
しかし、冒険者たちを管理する『大人』たちが、冒険者たちが稼いできた金貨を手に、いろいろな商会と繋がることで、いろんな『大人の事情』が出てくる。
それらはどれも『時間制限』を伴うものだ。
つながりを作るのが悪いのでない。その繋がりが、冒険者主体となっているかどうか。抱えている冒険者たちが、自分らしく、自分のペースで挑めるかどうか。
コミュニティの役員には役員なりの、弁えなければならないことがある。
「チッ、だが、迷っている時間もない。とりあえず、オーソンの次の冒険者を……」
「それなら、我々が務めましょう」
「何?」
社長室に入ってきたのは、金髪の青年。
「ウロボロスで第二位のパーティー、『鬼の隠れ家』のリーダーを務めるラトベルトと言います」
明らかに『宝』だけ奪ってトンズラする気満々の男が、社長室にやってきた。
ラトベルトは彼らに、自分たちのここ最近の実績の資料を見せる。
彼の名前を聞いたうえで判断するならば、それが本物だとはとても思えない、『魅力的な数字』が。
そう、『今いる転移の柱から、次の転移の柱に行くまでの速度が、他のパーティーよりも出ている』という、そんな数字が記載されている。
そして、彼らは『十分』だと判断した。
してしまった。と言い換えるべきか。
こうなってしまっては当然のことだが……その日、ウロボロスの拠点から、『宝』が消えた。
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