第98話 オーソンたちとユキメ
ウロボロスのエースパーティーがアンストに電撃移籍。
これには多くの関係者がびっくりした。
エースパーティーが70層に到達し、『ああ、ウロボロスはここから盛り返していくんだな』と思っていた矢先、その五人組が脱退し、アンサンブル・ストリートに、狐組に入ることになったのだ。
ちなみに、何かあった時に物事の表面しか見えない人間と言うのは一定数いて、その一定数の中で声がデカい奴が『噂』を作る物。
その中で『四源嬢アグリのハニートラップで釣られたんだ!』みたいなことを言う奴は多かったが、あながち間違っていない。
ウロボロスの方も莫大な違約金を要求したが、そんなものでアグリが揺らぐはずもなく、現金ニコニコ一括払いである。
ウロボロスに対して記者会見が開かれて、そこになんと五人組が緊急で現れて、『見つけたんです。俺たちの、魂の場所を!』と、ものすごくキラキラした目で言われたらどうしようもない。
写真を見たらどれも五人の目が逝ってるので、相当強烈な『何か』があったのだろう。という事は推測できるからだ。
アグリがキャバ嬢になるかも、という話を外部に漏らすことはない。それは下手に漏らすと戦争が起こるため黙秘権を徹底行使し、ただ、『俺達はこれから、アンストでやっていきます!』ということが伝えられた。
まあ、新社長ビニオと、ウロボロスの担当課であるオーバスからすればとても困るわけだが、とりあえず金貨は入ってきたので、これで何とかするしかない。
幸い、『宝』の使用権限はまだ期間が残っている。
次のエースは誰になるのか。そんな話でウロボロスがぐっちゃぐちゃになっており……。
「元ウロボロスのエースパーティー『ビヨンド』です! よろしくお願いします!」
「「「「よろしくお願いします!」」」」
「……元気なのは良いですが、このコミュニティは個人主義が強めなので、あまり騒がないように」
「わかりました!」
リーダーのオーソンをはじめとして、合計五人が、アンサンブル・ストリートに加わった。
入ってきて早々、元気な彼らだが、そもそもこのコミュニティは『狐組の中で個人主義やパーティー単位での活動を優先したい』と考えている者が入る場所であり、言い換えれば『コミュニティの中で自分の領域を強く意識している』と言える。
元気なのは冒険者をやっていくなかで重要なのでまあいいとして、あまり騒がしいのはお勧めしない。
とユキメが注意すると、オーソンからめっちゃ元気な声で返事が返ってきた。
話を聞いているとは思えないが、狐組はしっかりと話を聞いているのか怪しくなるメンバーもチラホラいるので、そこは強く言及しない。
ただ……。
「一応聞いておきますが、何故、このコミュニティに?」
「いずれ開かれる。キャバ嬢になった会長にちやほやしてほしいからです!」
「姉様がキャバ嬢に……事実ですか?」
「最近、キュウビさんがキャバクラに入っているそうですが、それはいずれ会長がキャバ嬢になった時の為のリサーチだと言っていました」
「なるほど、完璧に理解しました」
話自体は頭がおかしいことを除けば非常にシンプルなので理解は容易い。
ただ、確認しているのがユキメだったのが『アレ』というか、しかし確認しようと思える人間がユキメしかいなかったのが『アレ』というか、なんだか救いようのない話だ。
「問題は、一体どのような基準で、そのキャバクラを優先的に使えるようになるかですね」
「そのあたりはまだ確定していないそうです。ただ、狐組の中で真面目に働いていれば、優先的に入れるそうです。個室で二人きりにもなれるそうです!」
「真面目に……ですか。なら私は問題ありませんね」
……まあ、アグリと言うか、最近はランが絡むと非常に頭がおバカさんになるユキメであるが、基本的にはクール系巨乳美少女であり冒険者として実力も高く、まじめに働いているかどうかと言われれば否定する根拠はない。
ただ、このどうしようもないモヤモヤは一体何なのだろう。
「ああそれから、一つ助言しておくと、この手の話になった時に、他人の妨害をすることはお勧めしません。キュウビさんのリサーチ力は本当に高く、特に自分たちの縄張りであり狐組のことであれば、大抵バレます」
「大丈夫です! 俺たちは『宝』の影響で70層に行けます。これは狐組の中でも上位のはず!」
「『実績』ではなく『姿勢』の問題ですよ」
「わ、わかりました」
実績ではなく姿勢。
言われれば確かにその通りだと思うが、ランが聞けば『どの口が言うねん』といった顔をすることだろう。
「とはいえ、基本的に難しく考える必要はありません。このグループにおいて、姉様は絶対です。その命令は正しいという事も、私たちが心から信仰しているという事も」
「はい! 間違いありません!」
「よろしい。あなたたちには狐組で生きていくうえで素質がありますね」
誉め言葉と受け取ったら問題がでそうだが、どうすればいいのだろう。
「これからも精進するように、そうすればきっと、見えてくる世界がありますよ」
「……あ、あの、ユキメさんは例えば、どのような……」
今となっては非常にどうでもいいことだが、ユキメは一時期、ウロボロスの職員として働いていた時期がある。
当然、アティカスが率いていたエースパーティーとは面識があるため、オーソンも旧知の仲だ。
今となっては、非常にどうでもいいことだが。
「上半身裸の姉様と一緒にベッドで寝たことがあります」
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」
うるさい。
「というわけで、私はこれで。いいですか? あくまでも真面目に、真摯に、冒険者として取り組むことです。では」
クール系としての表情を崩さず、ユキメは歩いていった。
……救いようのない事を言えば。
ここに居る全員が、自分が異常であることを自覚している。ということになるだろう。
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