第97話 何がしたいんだお前らは……。
ウロボロスのエースパーティーとの遭遇。
……本来なら確率は低い。
エースパーティーが70層を主戦場にしていることは新聞ですでに公表されている。
そして、ダンジョンと言うのはそれぞれの層がかなり広い。
王都は人が多く、『転移システム』が存在する『転移街』はとても便利で、冒険者も集まりやすいが、それでも『渋滞』の噂を聞いたことがないほどだ。
それほどの広さがありつつ、転移するための『柱』は、全ての階層に複数用意されている。
そのため、70層が主戦場ならば、訪れるのは70層だけのはずだ。
アティカスが65層で活動していることは、アティカスがエリオットを真似て手に入れたアイテムを公表しているため、調べればわかる。
そうして調べて、転移の柱の傍で待ち伏せないと、まず『遭遇』はしない。
「アティカス。サブリーダーだった俺のことは覚えてるよなぁ」
「オーソン……」
「あれから俺がリーダーになったのさ。そして、今の俺は『宝』によって、70層を攻略できる。そう、お前よりも強くなったんだよ。65層まで行けるようになって、デカい顔しやがって」
金髪を切りそろえた中肉中背の青年。オーソン。
腰には剣を装備しており、それが彼の主武装なのだろう。
アティカスと同じカテゴリなので、二大前衛という形でエースパーティーを引っ張っていたと思われる。
そしてパーティーのリーダーになったが……シェルディのカードで一旦息を吹き返したが、その後は悲惨だろう。
だが、抜かれた才能そのものが、『宝』によって補充……を越えて強化されたことで、70層に挑める力を手にしている。
「それで、なんで待ち構えてたの?」
「あ、え……し、四源嬢!?」
「すげえな。あるじの存在に気が付かないくらいアティカスのことを目の敵にしてんのかよ」
「ぴ、ぴぃ……」
オーソンはアグリに声をかけられて初めて、彼の存在を認識したようだ。
どれほどアティカスのことを意識しているのだろうか。
これにはキュウビもランもドン引きである。
「質問に戻ろう。なんでこんなところに? 70層で活動してるなら、別にこんなところに来る必要はないはずだよ。転移街は、全ての階層に転移の柱があるからね」
「き、決まってんだろうが、アティカスを、ウロボロスに呼び戻すためだよ!」
「おや? てっきり嫌味を言いに来ただけだと思ってたけどね」
「俺様もそう思ってたぜ」
「ぴぃ?」
ランは首を傾げた後、アグリの頭からパタパタ飛んで、アグリが肩からかけている鞄の中からアイスキャンディを取り出して食べている。
……どうやらオーソンたちに興味がないらしい。
「はっはっは! 丁度、俺達についてこれる程度の雑用係が欲しかったところなのさ。70層まで挑めるのは良いが、戦うだけに集中できる方が良い。そこで、ウロボロスから追い出されたアティカスに声をかけようって話になったのさ」
「そういうことだ。このウルリックが入るパーティーで、煩わしい問題など一々考えていられないからね」
そういって、メガネのブリッジを上げる少年。
杖を持っており、見たところは魔法使いのようだ。
「……ふああ、ん? ウルリックって、聞いたことがあるぜ」
キュウビは興味がなさ過ぎてあくびしていたが、名前を聞いて思い出したようだ。
「ほう、そうだろうそうだろう。この僕が……」
「ワンマン脳筋魔法使い。だったかな。火力は十分だが、モンスターを前に自力で使って当てるだけの技量が足りず、しかも火力だけは大きめだからデカい顔してて自我が強く、オマケに活躍したがりな性格。性格に難がありすぎるし、しっかり魔法で狙えないから『戦術』に組み込むのにも苦労するって聞いたことがある」
クソガキじゃん。
「んなっ、あ、そ、そんなことはない! 誰だ! そんなことを言ってたのは!」
「んー。俺様は『
「最悪じゃん」
「まあ、『宝』を使えば、誰もが同じ火力だから、今のパーティーだと仲間にデカい顔は出来ねえだろ。後で抜けて、美少女でも誘うための踏み台にでもするつもりか?」
「な、何を勝手に……」
ウルリックはしどろもどろになっているが……。
「間違いだってなら俺様だって謝るけど本当っぽいし、ていうかキャバクラで酒の勢いで話してたって聞いたぜ」
「キュウビはなんでキャバクラの話を知ってるの?」
「どっかのタイミングであるじを働かせる時のリサーチだ」
「ぴいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいっ!」
「え、アグリさんがキャバクラに!?」
「アティカス。お前、自分に因縁をつけてくる奴が目の前にいるのに、あるじの話とはいえ、横にそれるのはどうなの?」
アグリがキャバクラで働く。
このフレーズを聞いて、ランは大興奮。アティカスは歓喜が込められた驚愕である。
「し、四源嬢アグリが、キャバクラ……」
「オーソン。お前もか……」
「ちなみに、キャバクラはアンストの地下で新しく作るから、部外者お断りだぜ」
「……」
リーダーのオーソンは仲間を見る。
仲間たちは、頷いた。
オーソンもうなずいた。
オーソンは凄い勢いで頭を下げた。
「俺達! アンサンブル・ストリートに入ります! ウロボロスへの違約金。お願いします!」
「欲望に忠実すぎるね……」
「今のあるじのミニスカスーツよりもエロい格好になるからな!」
「ぴいいいいっ! ぴいいいいっ!」
「……」
大興奮のランを尻目に、アティカスの頬がかなり引きつっている。
「とりあえずお前たち。合格だ!」
「ぼ、僕は……」
「調子に乗ったら出禁だからな」
「乗りません!」
「ならよし!」
キュウビが人事部なのだろうか。やめた方が良いと思うが。
「あ、あの、こんなのでいいの?」
「良いんだよ。ていうか、こういう流れを受け入れてしまったからこそ、狐組っていうのは裏でこれほどの規模になってたのさ」
「緩いな……」
「結束は強固だぜ」
「……はぁ」
アティカスは疲れた。
心の底から、魂の底から、なんなら遺伝子に刻まれて孫まで続くくらい疲れた。
要するに、アグリが『絶対』なのだ。
……ちなみに、オーソンはアグリを認識してから、顔と足に視線がめちゃくちゃ移動しまくっているので、もうもはや手遅れである。
「ぴい」
「ん?」
ミニスカから見える太ももに、ランが張り付いた。
そして主張している。
「ああ……」
ぎゅっと、むぎゅっと、足を閉じて太ももでランを挟み込む。
「ぴいいいいいいいいいいいいいいいいいいっ!」
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」
見ているオーソンは大興奮。
「思ったより簡単に釣れたな」
「これ多分、オーバスや新社長がヤバい人物の可能性もあるね」
「上司がひどい人間だった場合、あるじで釣りやすいのは昔からだが……まあ、いいか」
そもそもウロボロスという組織自体は、アグリやシェルディといった超常的な存在がアレコレ引っ掻き回したために、とんでもないことになっているという状態だ。
オーソンたちは現場の人間で、しっかり戦ってきた立場であり、アレコレ引っ掻き回すアグリたちをどうにもできない。
そう言う意味で、『オーソンたちは』被害者である。
ウルリックに関しては、『こういうタイプ』は非常にアグリを使うと制御しやすいので、キュウビとしては抱えておきたいのだ。
噂の限りでは、火力は本物なので。
「それにしても、安くはない金貨で『宝』を使った五人が脱退か。どうなるのやら」
アグリはため息をついた。
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