第96話 アグリとアティカス、65層
どれほど議論を尽くそうと、決定的な材料がそろわない限りは『候補』である。
そして、個人的に重要であったとしても、それが緊急ではない場合、先に必要なことをするべきなのは明白だ。
協会本部の『宝』を強化する『宝石』に関して、どのような経緯で宝物庫に入ることになったのか。
情報を集めていくと『怪しさ』しか出てこないが、だからと言ってその怪しさが自身に牙を向くような予感はない。
ならば、結局は『後回し』にするしかないのである。
「ウロボロスのエースパーティーが俺と因縁があるっていうのは確かだけど、俺と行動してて良いのか?」
「良いんだよ」
「そうだそうだ」
「ぴぃ」
転移街の65層。
アグリが彼に作ったライセンスに込めた『集中力強化』や、それ相応の装備を身に付けた状態のアティカスの適正階層である。
一般的にSランク冒険者の適正階層は51から60とされているため、アティカスの65と言うのは紛れもない強者の数字である。
各コミュニティのトップ層と比べると、サイラスが68でマサミツが75であり、それよりは少し落ちる。
だが、その戦闘力は紛れもなく、『頼りにされる側』の冒険者だ。
……が、今は、アグリが付き添いでダンジョンに入っている。
ダンジョンの最奥にいるラスボスを倒すことすら可能な圧倒的な戦闘力の持ち主であり、65層で活躍する自身の付き添いなどしていて大丈夫なのか。と言う思いはあるが……。
「狐組はあるじから金貨がバンバン降りてくるからな。それを稼ぐ時間は確保できるのかってことだろ?」
「そういうこと」
「大丈夫大丈夫。あるじの資金力は国家予算くらいあるから、実は今から病気で十年くらい寝込んでも問題ないレベルだぜ」
「何がどうなるとそうなるんだ?」
「90層以降でしか使えないけど、『得られる金貨の量が多くなるアクセサリー』があるんだよ。しかも効果が重複する」
「……なぁるほどぉ?」
アティカスは変な表情になった。
モンスターを倒すと硬貨が出てくるこの世界において、戦闘の実力者は資産家でもある。
そしてダンジョンは、深い階層に行けば行くほど、人間社会を前提としない難易度と報酬が待っている。
ダンジョンの90層以降となれば、それはもう、『王』といって過言ではない財貨を持っていることだろう。
そしてそれを、『効果が重複する獲得金貨増加アイテム』によってブーストしているのだ。
一体どういうレベルの話をしているのだろうと思う。
「ぴぃ?」
「まあ要するにだ。あるじの資金力に関しては問題にならない。アティカスも金のことなら心配すんなよ」
「ああ、うん」
アティカスとしては、おそらく『心配』というよりは単なる『疑問』だっただろう。
仮にアグリが資金をギリギリでやりくりしているとしても、アティカスについて行動するとなった場合、必要な時間を確保するための調整はしっかりしているはず。
そう言う意味で、『心配』はしていなかった。
……いや、金だけにとどまらない。
戦闘力も容姿も、紛れもなく最高峰なのがアグリであり、そしてその戦闘力と容姿がどれほどの価値を持っているのかを理解している。
そんな存在に対して、『心配』など、時間の無駄だ。
だからこそ、単なる疑問だったのだが、まさかそんな『とんでもないレベル』のことを言われるとは想像もしていなかった。
「……アグリさんにとって、お金って、一体……」
「お金はお金だよ」
圧倒的……いや、絶対的な量の金貨を持つアグリ。
そして、それほどの強者であるという事を、狐組の面々は理解している。
ただ普通ならば、これほど絶対的な存在が相手ならば、気後れするし、機嫌を損ねないようにふるまうだろう。
しかし、狐組はそうはならない。
何故なら、『変態』だから。
性癖の議論を超越した彼らにとって、お金は『その程度の話』でしかないから。
別にキュウビはそれを狙ってアグリの外見を弄りまくったのではなく、あくまでも『
成り立っているのだから……何なのだろう、あえて言えば『救いようがない』と言えるか。
「なんだろう、そんな莫大な金を持つ人がトップだと、普通なら気後れするけど、なんか損得じゃなくて性癖の話に無理やりすり替えてるような……」
「まあ、だから、あるじに対して遠慮しない部分っていうのが、それぞれに出来る。だからこそ纏まる部分もあるってことだ」
「ぴぃ……ぴいぃ!」
頭の上で元気そうなランも、同意したように頷いた。
ちなみに、ランやミミちゃんを含め、モンスターに関しても狐組には一部存在する。
魔物使いだったりするわけだが、そう言う存在も、もれなくアグリの信者である。
美しく、強い、そしてたまにエロい恰好をしてくれる。
動物目線で、これほど興奮できる存在はいない。
……まあ、だからと言って無理矢理に襲い掛かった場合、明日はないのでそこは理性的だが。
確かに美しい、そして強い。たまにサービスもしてくれる。
だが、その度合いがヤバすぎて、『線引きしなければならないところ』がはっきりしているのだ。
ちなみにこれを本能的に共有しているのが狐組と言う変態組織である。
まあ、あまりこういうことを言っていると、ミニスカスーツのアグリの太ももに挟まって愉悦に浸るランが処刑されかねないので、そろそろ終わりにしよう。
「……ん? おいおい、アティカスじゃねえか」
「えっ、あ、お前らは……」
曲がり角で、五人組と遭遇するアグリたち。
「ウロボロスを出てから、随分いい思いをしてるそうじゃねえか。ちょっと面貸せよ」
ウロボロスのエースパーティーが、姿を現した。
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