第101話 前提
冒険者協会本部にとって、70層に誰もがもぐれるようになるアイテムの存在は紛れもなく貴重である。
だからこそ、それは『宝』と呼ばれているわけだ。
使うにあたって、その期限が定められているが、何人まで使えるのかは定まっていない。
日数ではなく人数に指定すると、裏で隠れて使うやつがどのみち現れるので、『この時に返せ。返せなかったら厳罰だ』というルールで使っている。
言い換えると、傍から見ると『盗まれていた』となっていても、返す時に『諸事情で使わせただけです』と言えばいい。
どんな人間に、何人に使うのかを規定せず、『いつ返すのか』だけが記載されている以上、報告義務はない。
しっかり返せばいい。
返せばいいのだ。
「さて……ラトベルトの気持ちになって考えてみようか。端的に言うと、『宝』を手に表に顔を出す理由があるかどうかだね」
「ねえだろ」
「ばっさりだなサイラス」
狐組本社の会議室。
アグリ、キュウビ、サイラス、セラフィナ、マサミツが集まっていた。
ちなみに、ランはアグリのミニスカから見える眩しい太ももに寝転がっている。
「まあ、確かにありませんね。『宝』で与えるのは『身体強化』の技術そのものですし、金貨をコストに使うことができるアイテムですから、拠点に置くのが定石です」
「それ相応に金貨は必要になるが……ラトベルトだって、あるじほどじゃないにしても金貨は持ってるだろうし、これからかき集めることも可能だぜ」
「使いたい相手がいれば、安全なら持ち出してもいいが、ちょっとでも不安なら拠点に呼べばいい。そして……ラトベルトの拠点を探る方法が今は見つかっていない。ということか」
ウロボロスの現状から、『宝』がラトベルトによって盗まれたことが推測として出ている。
この現状を何とかするために集まったコミュニティのトップたちだが、選択肢は多くない。
「ぴぃ?」
「ん? どうしたランちゃん。バナナが食べたいのか?」
「ぴいいっ!」
「んー……ああ、なんでラトベルトによって盗まれたと判断できるのかと、ラトベルトに盗まれた状態なのがどうして悪いのかって話ね」
ランはラトベルトが気になるようだ。
シェルディのカードの使用によってランは『氷越竜ラン・ジェイル』として出現し、あれやこれやでアグリの家族となった。
ただ、その時のシェルディのカードは明らかに、ラトベルトによって作られた物。
そのカードを作成する上で、卵の状態だったとしても、ランはラトベルトと何かしら関係がある。
成長すれば氷属性のドラゴンとして圧倒的な戦闘力を発揮するのがランである。
言い換えれば、『卵の中』にいたとしても感知できることが多い。
その感知能力や朧げな記憶を頼りに、『ラトベルトってちょっとヤバくね?』となっているようだ。
「まあまず、状況証拠でラトベルトの可能性が高いんじゃないかっていうことになってたんだが、その上で、オーソンたちに聞いたら、ウロボロスには『鬼の隠れ家』っていうパーティーがあって、そのリーダーが、最近入ってきたラトベルトだっていうんだよ」
「ぴいぃ?」
「隠れる気があるかって? 俺様に言われても分からんよ」
「……キュウビって、ランが言っていることが分かるのか?」
「最近は分かりやすくなってきた」
まあ、ランとキュウビのコミュニケーションはともかくしてだ。
「で、このまま『宝』がラトベルトに渡ったままだと、アイツは70層まで潜れる奴を量産してヤバい軍団を作れるようになる。明らかに人間社会に対して大きな暗躍をしてる以上、このまま放置も出来ねえんだよ。だから、その軍団を作り出すのに必要な『宝』に関しては回収しておく必要があるのさ」
「ぴいぃ」
ランは頷いた。
「納得したみたいだな」
「ぴいいっ」
「バナナは食べたいって? しゃーねえなぁ」
キュウビはアイテムボックスからバナナを取り出すと、皮をむいてランに渡す。
「これでいいか?」
「ぴいっ♪」
はむはむ、とバナナを食べ始めた。
「……さて、前提が揃ったところで、とりあえず、呼び出せる種は限られてる。その一つは、やっぱりこれだね」
アグリはスーツのポケットから、宝石を取り出す。
それは紛れもなく、彼の父親であるエリオットが、王国の宝物庫に収めた、『宝』の『強化アイテム』だ。
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