第91話 ランとユキメ

 アンストでまったり過ごすアグリ。


 視線こそとても感じるが、狐組の面々はアグリの邪魔をしようとは考えない。


 アグリは戦闘力も事務能力も容姿もルックスも顔立ちも、何もかもが高いため、それを『邪魔する』ということは、本来のペースにアレコレ口出しするという意味でもある。


 ダンジョンに行けばラスボスさえも倒すアグリにとっての一秒の稼ぎは、想像もできない金額に達するのだ。


 そのため、『アグリには』余計な茶々を入れない。


 ……そう、アグリには。である。


「ランちゃん。この袋の中に入ってください」

「流石に入るわけないと思うぜ」

「ぴいいっ!」


 ちなみに、ランはアグリの胸に抱かれないと眠れない甘えん坊だが、起きているときは比較的、アグリから離れて行動することも多くなっている。


 もちろん『比較的』であり、それ相応に距離が遠くなると不安になる。


 ただ、いつまでもくっ付いていると、今度はラン自身がアグリにとって邪魔になってしまう。


 学習能力が非常に高いランは、アグリが仕事をすることの重要性をよく理解しており、それを邪魔するといろいろマズいと分かっているのだ。


 なかなか賢いが、言い換えると、働いている日中はアグリから離れている場合もある。


 そして、それを狙う変態もいるのだ。


「そんなことは言わずに、袋の中には姉様の写真が入っていますよ。寝間着から着替えるところがバッチリとね。興味はありませんか」

「ぴ、ぴぃ……」


 興味はあるに決まっている。


 だが、その袋を持っているのがユキメだというのが間違いなのだ。


 アグリの着替えシーンの写真。

 何と素晴らしい写真なのだろうか。


 とても見たい。ランだってとても見たい。


 だが、ユキメがヤバすぎる。


「ぴいいいいいっ!」


 というわけで、ランがとるべき手段は、逃げることだ。


「待ちなさい!」

「そりゃ待つわけねえわな。しかしまぁ……アンストの町は広いし、それを使って鬼ごっこでもやる気か?」


 凄い速度で飛び始めたラン。

 それを追いかけるユキメ。


 なお、ランは『上に逃げれば良くね?』とは思わない。


 空と言うのは隠れる場所が一切ないからだ。


 冒険者と言うのは様々な手段を持っていて当然なので、まだまだユキメが見せていない手札はいくらでもある。


 それを考慮すると、ランは上には逃げられない。


 広い広いアンストの中を、縦横無尽に飛び回り、変態から逃げるのだ!


「……まあ、あるじから離れて行動できるようになる訓練としてみれば、まだ良い方か」


 キュウビとしては、ランがアグリから離れて行動できる範囲が広がったほうがいい。


 変態から逃げるためとはいえ、その訓練として最適ではあるので、『とりあえずヨシ』という事にしたようだ。


「ぴいいいいいいいいいいいいいいいいいっ!」

「待てええええええええええええええええっ!」


 ……まあ、凄く、騒がしいという欠点はあるが。


 個人主義の人間ばかりで、各々が自分の領域という物を認識しているので、うるさいのはちょっとアレである。

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