第79話【レミントンSIDE】 格の差
権力の恐ろしさの中には『暴力』を動かせるという事も含まれる。
ただし、人間社会において、権力は相対的、暴力は絶対的だ。
権力の大きさに関係なく、首筋にナイフを当てられたら終わりであり、『相対的』な強さで動かせる程度の『絶対的』な強さには、限界がある。
そう言う意味で、協会本部が抱えている『宝』の存在は大きい。
圧倒的な『身体強化』の技術を与える魔道具であり、本部役員目線では低コストと言える金貨を使うだけで、かなりの実力者を作り出すことができる。
相手が剣を一回振る間に、自分は剣を五回も六回も振れるような、そんな実力だ。
確かに強い。
しかし、それで十分と思ってしまうと、途端に弱くなる。
「つ、次々に捕まっているだと……」
レミントンは部下からの報告を聞いて驚愕していた。
「は、はい。私も現場を見ましたが、赤い球体を地面にたたきつけたかと思えば、赤い雷が発生。それによって、兵士たちは動けなくなっています」
「ば、馬鹿な! 『身体強化』は強いものを与えて、鎧は多種多様な魔法を無力化することができるはず。そんな安っぽいアイテムで……」
「ですが、事実です。雷は鎧を貫通して、麻痺状態にする。それを防げず、全員が捕縛されました」
「優秀な冒険者は、モンスターが使う雷系のスキルを剣で斬り落とせると聞いたことがある。冒険者と言うのは『身体強化』で戦うものなのだろう? それを与えたら、雷くらい防げるものではないのか!?」
「私もそう思っていましたが、実際に敵わないのです。これが事実です」
「ぐ、ぬぅ……」
協会の『宝』だが、アグリの推測では、この宝はダンジョンで言えば90層に到達するアイテムであり、何らかの要因で『転送事故』が発生して表層で拾われた。というものになる。
90層のアイテムということもあり、使えば圧倒的な出力を持っている。
実際、アグリが防犯グッズとして渡した『麻痺玉』がなければ、襲われたポプラたちも危なかっただろう。
だが、こればかりは相手が悪い。
ラスボスを倒してようやく『加工する』ことが可能になる素材アイテムも、世の中にはごまんとある。
転移街の奥底で手に入れたアイテムを加工し、アグリは『防犯グッズ』として麻痺玉を配ったのだ。
この『麻痺玉』の最大の恐ろしさは、『使用における抵抗感の排除』だろう。
傷をつけることもない。毒を盛ることもない。
ただ、痺れさせて動けなくさせる。というだけ。
それだけであり、それだけであるからこそ、使う側も抵抗感がない。
アグリは強者であり、選べる手段はたくさんあるが、その中でもかなり『最適』と言って良い手段だ。
そんなものを持たされた相手に挑むとなれば、事前に『そういう物が支給されている』という情報が必要である。
もっとも、アグリが麻痺玉を防がれることを想定しているのかいないのか。襲い掛かったやつが全員捕まったため、『アグリの想定』すらも分からなかったというのが、正直に言って最悪だ。
「……ぐっ、ぬぅ……今回、私が動かせる兵士をほとんど動かしている。それらが全て捕まれば、私の権威も落ちる。くそぉ……」
上級役員からみて、兵士をほとんど動かしている。
それは確かに凄いことであり、作戦が杜撰ではあるが、コストをかけていることは間違いない……なんだか余計にタチが悪い気がするのは気のせいではないだろう。
とにかく、コストをかけるということは、それ相応に本気で取り組んでいるという事だ。
「むう……四源嬢アグリ。こんな美しい奴は見たことがない。なんとしてでも欲しい。ぐ、ぐぐぐ……」
目先の欲望に目が行きがちなのが、上級役員だ。
そしてアグリは、そういう物に目線が生きやすい人間にとっては、一度目にすれば、頭から離れなくなるほど美しい。
レミントンもまた、アグリの容姿の誑かされた一人。ということである。
……手に入れるための方法が倫理的に終わっているので、アグリも容赦はしないけど。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます