第64話 ランは無駄な脂肪を魔力に変換できる。

「ぴいいいっ! ぴいいいっ!」


 ユキメに恐怖してぐったり……いや、ぐっっっったりした様子のランだったが、アンストから出たあたりで、アグリの頭に戻ってきた。


 そして、ランは間違いなくメスだが、巨乳を見ると興奮している。


 その理由はわからないが、興奮するというのは事実であり、それがしばらく続くであろうことは分かる。


 要するにだ。


 ルックスとスタイルが良い美少女がたくさん集まっているブルー・マスターズの本部に行くと、とても元気になるのだ。


「ランちゃん。シャーベット作ったよ~」

「ぴいっ!」


 誰かが持ってきたシャーベットに笑顔で飛びついて、シャクシャク食べる。


 シロップの場合は色を変えているだけで全て同じ味だが、シャーベットは果汁を使っているので、フルーツの味がとても出るのだ。


 食べているランはとてもうれしそうである。


「本当によく食べるね。一体どこに入ってるんだろ」

「よくわかんないけど、かわいいねぇ」


 ランはちっちゃくて体が細いので、シャクシャク食べているフルーツたちがどこに消えているのかいまいちわからない。


(流石に、食べた中で過剰な分を全て、魔力に変換するスキルを持っているとは言えないよなぁ)


 傍からランがシャーベットを食べるのを見ているアグリだが、流石に言えない。


 ランは自分の体に入った食物の中で必要のない物や、無駄な脂肪を魔力に変換するスキルを持っている。


 生物が保有できる魔力量は個体差があるが、ドラゴンなら赤ん坊でも相当な量を溜めておけるので、問題なく食べ続けることができるのだ。


 ただ……そう、無駄な脂肪を魔力に変換するスキルがあるのは事実だが、それはかなり、女性が多く集まっている中で暴露すると『よくないこと』が起こるので、アグリとしては口を閉ざすしかない。


「……」


 これに関してはキュウビも知っていることだが、それでも、流石に言わない。


 特に若い女性と、体の脂肪は、切っても切り離せない『ヤバい話題』に直行するからだ。


「ぴいいっ! ぴいい♪」


 で、ランからすると、シャーベットはとてもおいしい。


 傍にはアグリがいて、周囲を見れば巨乳がたくさん。


 最高である。


「こんなところに集まって何を?」

「あ、セラフィナちゃん」


 食堂にセラフィナが入ってきた。


「ぴ?」


 新しい巨乳の金髪美少女の存在に、ランは反応。

 ランはそのまま、自身がいる机に向かってくるセラフィナの顔を見る。


 ちょっと視線が下がって、セラフィナの胸に。


「ぴいいいいいいいいっ!」

「胸によって興奮度が違う気がするけど気のせいかな?」

「わからないね。ただ、大きい方が興奮しているようには見えるけど」


 よくわからない少女たちを他所に、ランはパタパタ飛んで、セラフィナの胸に飛びついていった。


 ランは卵から生まれたばかりの時、セラフィナを見ているはずだが、流石にその時に一番印象が強かったのはアグリであり、セラフィナのことはあまり覚えていない。


 というかこれまであった女性に関しても、基本的には胸のことしか覚えていない。


 顔までしっかり覚えたのはユキメだけである。


「うふふ、かわいいですね~」

「ぴい~♪」


 セラフィナが優しい手つきで撫でると、ランは気持ちよさそうだ。


「ランちゃんはおっきい胸が大好きなんですね~」

「ぴい!」


 言葉を理解しているのかしていないのか、よくわからない。


 まあ、適当に鳴き声が口から洩れている。と言った方が正しいだろう。


「それにしても、モンスターも生まれたころはこんなにかわいいんですね。ダンジョンにばかり潜っていると、モンスターの赤ん坊を見ることなんてほぼありませんし」

「確かにな。俺様も時々、モンスターの赤ん坊は見るが、ドラゴンの赤ん坊を見るのはランで初めてだぜ」


 ダンジョンに出てくるモンスターは、侵入者を排除するために『創造』された個体である。

 そのため、幼少期と言う概念もなければ、赤ん坊と言う時期もない。


 自然界にいるモンスターはその限りではなく、卵から生まれれば赤ん坊だ。


 オーガの様な人語を話せるモンスターをはじめとした『文明種』の場合、ベースが哺乳類なら卵ではなく赤ん坊が生まれてくる。


 当然、赤ん坊故にとても弱く、可愛らしい外見である事が多い。


 ただ、見る機会はほとんどない。


 モンスターは基本的に、人間が深く侵入しないとたどり着けない場所に巣を作るもの。


 そのため、人間が赤ん坊を見つけることはほとんどない。


 ラトベルト理論の研究のために卵を必要とするシャールの場合、ダンジョンではなく自然界でモンスターが生息する場所に入ることも多いだろうが、交通面でとても不便であり、モンスターを倒すのならダンジョンに行く方が良い。


 しかも、ヘキサゴルド王国の王都にあるダンジョンは『転移街』であり、自分に適した難易度の階層に直ぐに挑めるシステムが備わっている。


 正直に言ってそんなところから離れて自然界のモンスターを倒しに行くのは不便極まる。


 本当に珍しい存在だと思っていて、出会った存在がランの様な可愛らしい存在だとなれば、頬も緩むだろう。


 ……セラフィナは巨大ドラゴンの姿である『氷越竜ラン・ジェイル』という存在も認識しているが、まあそれはそれだ。


「というより……」


 セラフィナは、ランを胸から放すと、そのお腹を撫でる。


「お皿が大量にあるので、それだけのフルーツを食べたという事ですよね。それなのにこのお腹。一体どういう事?」

「ぴいいっ! けふっ」


 お腹を撫でられたからだろうか、ゲップらしいものが口から洩れた。


「それが私たちもよくわかんないんですよね。まあ、可愛いので食べさせてますけど」

「むうう……モンスターの体は不思議ですね」

「そういえば、キュウビさんは油揚げなら大量に食べたりとかできるの?」

「見た目以上に食えるのは事実だぜ」

「うーん。でも、ランってそういうレベルじゃ説明できないくらい食べてるよ」

「謎だ」


 アグリとキュウビは、言えない。


 全ての女性を敵に回すようなスキルを、ランが持っていて、しかも自動で調整しながら発動していることを。


 絶対に、言うことはできないのだ。


 後は、ランが言語を扱えるようになるとして。うっかり、言わないことを祈るばかりである。


 さすがにそこまでアグリもキュウビも責任は取れないので。


 ただ、うっかりいう可能性は非常に高いのだ。


 スキルの発動は自動であり、無意識。それが他者とは違うと認識しない限り、うっかりいう可能性はある。


 そしてそれが特大の地雷であると気が付いた時、全ては遅いのだ。


「ぴいいい♪」


 ……何故か、不安になるアグリとキュウビであった。

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