第58話 その後の王都

 アグリたちの動きだが、ダンテナウド墓地の氾濫の調査が表向きの目的である。


 散々中で暴れまわって、モンスターからドロップアイテムをモリモリ手に入れて、支部に行って『問題なかったですよ。ただ、念のために蹂躙してきました』といってアイテムの山を出せばいい。


 氾濫と言うのは、発生条件がある程度わかっていることだ。


 五年、十年と放置しない限り、氾濫は発生しない。大量のモンスターが地上にあふれ出ることはない。


 その保証となる『ドロップアイテムの提供』があれば、何も問題はないのだ。


「……なんというか、ロクセイ商会が居なくなった後の王都は、変わったね」

「確かにな。才能をかなり抜かれちまったみたいだ。おかげで、深いところまで潜れるのは俺様達だけ。長い間カードを使い続けてた『ウロボロス』なんて悲惨だし、まあ、大体のギルドやコミュニティも同じだろ」


 アグリたちがダンテナウド墓地から出てきて戻る時、もうすでに、シェルディたちはいなかった。


 どこにいるのかはわからないが、行くとしても他国になるだろう。


 もう、彼らはカードを使って商売することはない。

 ラトベルトが彼らに渡したカードによって、メインシステムがアスタオーガと卵しか認識しないように変更されたため、カードを提供しても実力の付与ができない。


 一応、人間よりは筋力が優れたオーガくらいの戦闘力はあるので、それを活かして戦うことになるだろう。


 少なくとも、実力主義の亜人領域に戻るのは、出来る出来ないはともかくとして危険すぎる。


 言い換えれば、もうカードを提供するものはやってこない。


 才能を抜かれ続けた冒険者だけが、今の王都にいる。


「……今回のシェルディたちの思惑を公表する気はない。ちょっと刺激が強い話が多すぎる。その反面、多くのギルドやコミュニティにとって暗黒期が続くね」

「フォックス・ホールディングスやその傘下に入りたいって冒険者も多いみたいだけどな。まあ、ほとぼりが冷めるまではシャットアウトしてるけど」

「受け皿になる気はないんだよね。裏でコツコツ積み上げてたものに、『公式の箱』を用意して突っ込んだだけだからさ」

「時間が解決する出来事だとは思うぜ? 奪われた才能が戻ることはないが、鍛えたら戻るからな……ていうか」


 キュウビは、アグリの頭の上を見る。


「ランちゃんをいつまで頭の上に乗せてるんだ? あるじ」

「なかなか離れてくれないんだよねぇ……」


 今回の思惑におけるアグリの『拾い物』として、『氷越竜ラン・ジェイル』の幼体がいる。


 ドラゴンと言えど幼体は可愛らしいもので、今はスヤスヤ寝ている。


 ただ、その寝ている場所がアグリの頭の上である。


「多分、あるじのことを母親だと思ってんだろうな」

「流石にこの外見で父親とは思ってくれないよねぇ。頭からのけようと思ったら泣き出すし、そうなったら俺の胸に抱いておけば暴れたりしないけど、それはそれでどうなんだろうね、俺、男だから胸なんてないけど」

「そこは気持ちだろ」

「気持ちで何とかなるの?」

「なるんだよ。母親ってそんなもんだ。多分」

「……まあ、いいか」

「ぴい……ぴい……」


 本当にスヤスヤと気持ちよさそうに眠るラン。


 刷り込み……というよりは、アグリの外見が持つ破壊力に魅了されたという方が正しいだろう。


 アグリの頭の上を定位置だと言わんばかりに独占している。

 アグリがトイレに行こうが風呂に行こうがダンジョンに行こうが、それは変わらない。


 ただ、風呂に入っているとき、キュウビがシャンプーを取り出したあたりで頭から離れるし、夜はアグリの胸にいって抱きしめてもらいながら寝ることにしているようだ。


 別にキュウビがとやかく言う話ではない。アグリの頭に小便をかけたら焼き鳥にするけど。


「ランちゃん。一気に人気になったもんなぁ」

「実際かわいいからね。モンスターの赤ちゃんなんてほとんど見る機会なんてないし」

「確かにな。こんなにかわいいのが出てくるなんて想像もしてなかったんだろう。名前は厳ついけどな」


 二つ名というのだろうか、『氷越竜』などという名前を持っているのは確かに厳つい。


「……そういえば、シャールは一応、生まれたモンスターがどうなっているかを観察する必要があるわけで、一応生まれたばかりのモンスターたちを見てるはずだぜ? どうしてるんだ?」

「産まれたばかりはともかく、過ごしてて人間に慣れてくる個体に関しては残しているらしい」

「それ以外は?」

「裏で処分」

「なるほどだぜ」

「というか、人間に慣れてくる個体を残すっていうのも、俺の方針を聞いてからで、それまで全部処分してたみたい」

「まあ、幼体とはいえ、倒したら硬貨が出てくるからな。雀の涙みたいな金額だけど」

「そうだね」


 幼体。というと、シャールに関してもいろいろ言いたいことはツッコミどころはある。


 アグリの頭の上でスヤスヤ寝ているランは可愛らしいので、これから人気も出るだろう。


 シャールの研究がこれに絡むとなれば、期待する者も多いはずだ。


 ……まあ、自分のペースでやりたい研究者にとって、期待と言うのは基本的に厄介でしかないが。


「……どうなるんだろうね。これから」

「ただ、冒険者がここまでヤバい状態になってると、本部が動くはずだぜ。その反応待ちじゃねえか?」

「……それもそうだね」


 出来ることは多くあるが、アグリにも主義はある。


 それは、冒険者協会本部も同じ。


 王都に誰かが派遣される可能性は、非常に高い。

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