転生剣士は九尾の狐と躍進中 ~大手ギルドを隠れ蓑に『集中力強化』を鍛えていた少年。不要だと匿名部署を解体されたので、表舞台に出ます。集中力が切れた地獄の職場よ。どうなっても知らんからな~
第56話 『アグリ勢力圏』VS『アスタオーガ軍団』
第56話 『アグリ勢力圏』VS『アスタオーガ軍団』
額に六花の紋章、アスタリスクが刻まれた鬼。
種族名、アスタオーガ。
それが、シェルディたち『ロクセイ商会』の職員の正体だ。
「……カードの記されていた紋章と同じだ。どうやら、思っていたより『本体』に近い組織なのかな?」
「随分余裕だな。四源嬢アグリ」
「……ですますが消えたか。そっちが素なんだね」
「アスタオーガはこの世で最も兵士として優れた種族。あなたがどれほどの力を持っていようと、関係ない」
シェルディはポケットからカードを取り出した。
「……君たちのカードの最高レベルは70層相当だ。さっき、80層まで潜れるって言ってたし……逆だね」
「その通り。これまで集めてきたエネルギーを使うためのカードだ」
シェルディはカードに魔力を流し込む。
すると、カードからも、何かが流れた。
……一見、変化はない。
「おっ」
シェルディが前に出るのに合わせて、アグリも前に出る。
お互いの刀が衝突し、火花を散らした。
「ほう、これに対抗するのか」
「動きがとても最適化されてるね。なるほど、『才能を奪う』か。それで奪った物を使ったら、君みたいな動きになるよね」
筋力や速力、魔力ではない。
ある意味で『最適でイメージ通りの動き』をするのが『才能』というもので、それを抜き取って自分に使えば、シェルディは『最適でイメージ通りの動き』ができる。
「余裕だな。あなたがどれほどのスペックを有していようと、私の強さで最適な動きができれば、圧勝が前提だぞ」
「……最適な動き。ねぇ。俺がさっき、妹から何を貰ったのか。覚えてない?」
「……集中力、強化」
「そういうこと」
刀を押し込んで鍔迫り合いを制して、そのままシェルディの腹に蹴りを入れる。
「がふっ……ぐっ、や、やはり、凄まじいスペックだ。だが……ふっ!」
シェルディは手をかざす。
すると、彼の頭上に、巨大な火球が出現。
「様々な防御を貫通する付与がかけられた火炎玉だ。これが防げるものなら――」
「『エーテル・コラプス』」
アグリが指を鳴らすと、火球が消え去った。
「なっ……なんだ?」
「キュウビの力を使って攻撃すると、そいつが使っていたスキルを使える。これは、『宝石洞窟フィーア』のラスボス。『大精霊ビギニアス』のスキル、『
「ら、ラスボス……すでにそこまで到達していたのか。それで、火属性に干渉して消滅させたと」
「結果は変わらないし、君たちはここで倒すからその認識で構わないよ」
「ほざくな!」
再度、手をかざす。
すると、四大属性全てで槍がそれぞれ作られる。
「高密度の槍型攻撃魔法だ。四大属性に対して適性を持っていようと、一度には――」
「『エーテル・コラプス』」
またアグリが指を鳴らすと、槍が霧散して消えていった。
「……な、何?」
「相手の魔法の影響を受けないようにプロテクトをかけておかないとね。手数の問題じゃないよ」
「チッ……それぞれに対して高い適性……流石ラスボスのスキルだ」
「ビギニアスはこんなことはしてこなかったけどね。見せてやったらむしろ驚かれたもんだが……まあいいや」
アグリは刀を構えて……次の瞬間、シェルディに肉薄。
「ぐっ……」
「ほれっ」
刀を狙って、アグリは自分の刀を振り下ろす。
それだけで……シェルディの刀は、根元から砕け散った。
「なんだと!?」
「焼きが甘いなぁ。その程度の武器じゃあ、亜人領域で苦労するでしょ」
アグリが足を振り上げると、そのままシェルディは吹き飛んだ。
「がふっ……ぐっ、クソっ! こんなはずでは……」
「そういえば、俺のこの姿の実力を、75層に行けるハイエストオーガを倒せるってことと、四大属性を扱えるってくらいしか認識してなかったってことかな? 新聞だとそれくらいしかわからないよね」
「……」
「図星か。80層まで潜れる自分なら問題ないと……その程度で、よくもまぁ」
アグリはシェルディ……ではなく、彼の後ろで、気配を完全に隠している『誰か』に言った。
「お前はどう思ってるんだ?」
「はっ? フフッ、想定が甘かったことは認めるが――」
「お前じゃない。お前の後ろで、このやり取りをずっと観察してるやつがいるから、そいつに言ってるんだよ」
「……なるほど、それで私を振り向かせてそのすきに攻撃と、なかなか姑息な――」
「なんだ、バレてたのか」
「!」
シェルディは驚愕する。
要するに……シェルディは、後ろから自分を観察する者がいることに、全く気が付いていなかった。
気配を消して、空気への擬態すら行っていたが、それを解いて姿を見せる。
「……ジュガル?」
ヘキサゴルド王国第二王子。
王族の牢屋にいるはずの男が、そこに立っていた。
以前、密会の時に見せていた軽薄な雰囲気は何もない。
どこまでも強者の眼で、周囲を見ている。
「……お前、誰だ?」
「……そうだな。お前たちには明かしても良いか」
ジュガルは指を鳴らすと、彼の体を魔力が覆いつくす。
すぐに晴れる。
その姿は、これまでの様に鬼……であると同時に、竜でもある。
瞳孔は縦に開いており、皮膚は赤鬼の要素に加えて、一部に鱗があり、どこか、鬼と竜の中間の要素を持つ人間、と言ったところだ。
「自己紹介しよう。俺は『ドラゴオーガ』の……ラトベルトと言う」
「なんだと?」
遠くでアスタオーガと戦っていたシャールが、自己紹介を聞いて驚く。
「……ラトベルト理論。卵の状態でモンスターに干渉することで、生まれてくるモンスターに影響を与えるというものだけど……そもそも二百年前じゃなかったかな?」
「良く知ってるな」
「あっちの白衣の人がラトベルト理論の研究者なんだよ」
「ほう……」
「まあチョーク職人だけど」
「別に構わんだろ。俺も昔はそうだった」
ラトベルトは微笑む。
どうやら、モンスターには上手くいかないので、卵の殻に着目するのは、『モンスターの卵』を研究しているとよくある事なのだろう。
「さて、シェルディ。『宗主様』からの命令だ」
「な、なんだ……」
「どうせこのまま戦っても、お前が四源嬢に勝つことは不可能。人間社会にとって悪影響を及ぼすお前を逃がすこともないはずだ。そこで、二つの道がある」
「……」
「一つ目は……これを使う事だ」
ラトベルトは、ポケットから一枚のカードを取り出す。
それは、シェルディが配っていたカードたちとほぼ同じに見える。
だが、明確に違う点が一つ。
「そのカード……デメリット部分に、一切の擬態がかかってないね」
「そう、その通り。このカードのデメリット部分を隠すのは非常に困難だ。ただ、『このカード』はとても強力なものでね」
ラトベルトはシェルディを見る。
「このカードを使い……いや、これからも使い続け、宗主様の糧となること。それが一つ目」
「ぐっ……わ、私に、抜け殻になるまで戦えと言うのか!」
「それが嫌ならもう一つ」
ラトベルトは微笑む。
「生き恥を晒せ」
「……はっ?」
「俺は以前、とある聡明な男を見たことがある。数少ない情報で、俺の擬態を看破したほどの男だ。だが……俺に勝つことは出来なかった。宗主様はその男を面白がって、不快で、醜く、自己中心的で何かを貪ることしか考えないような、最悪の性格を『植え付けた』のだよ」
「そんな男が……」
「ガイモン。知ってるだろ?」
「何?」
「馬鹿な!」
アティカスは父親の名を聞いてとぼけたように呟き……シェルディは、理解ができないとばかりに叫ぶ。
「あの王都には、『お前は本当にそんな生き方で恥ずかしくないのか?』と思うような人間が何人かいる。オーバスとか、フュリアムとか、アイツらは『素』でアレだ。だが、ガイモンは違う。なかなか聡明な男だったぞ。その変貌も見せてもらったが……『生き恥』の残酷さを思い知った物だ」
ラトベルトは嗤ったまま、ポケットから何かの水晶を取り出す。
それを、砕いた。
「この水晶によって、ガイモンにはずっと付与魔法がかかっていた。砕いたことでそれも止まったから、生き残れたら確認に行ってみろ。きっと面白いものがみられるぞ」
「ぐっ……」
「で、どうする? カードを使うか、生き恥を晒すか」
「……か、カードを使う」
「フハハハハハハハハハハッ! だろうな。俺でもそうする」
ラトベルトはカードをシェルディに渡すと、そのまま背を向けた。
「というわけで、俺は退散しよう。あ、そうそう……」
ラトベルトは、アグリに目を向ける。
「四源嬢アグリ。また会うことになるだろう。そんじゃ、また」
次の瞬間、ラトベルトの体は消えていった。
「今のは……転移魔法だね。あらかじめ決めていた特定の地点に転移する魔法……ただ、必要なスポットが王都に作られていた様子はないし、亜人領域にでも帰ったのか」
ため息をつくアグリ。
「……というわけで、シェルディ、決着をつけようか」
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