転生剣士は九尾の狐と躍進中 ~大手ギルドを隠れ蓑に『集中力強化』を鍛えていた少年。不要だと匿名部署を解体されたので、表舞台に出ます。集中力が切れた地獄の職場よ。どうなっても知らんからな~
第47話【ウロボロスSIDE】 失態でギルドからコミュニティに。ガイモン追放。
第47話【ウロボロスSIDE】 失態でギルドからコミュニティに。ガイモン追放。
「ガイモン! お前のせいだぞ! お前の失態で、ウロボロスはここまで落ちたのだ!」
「ふ、ふざけるなオーバス! 貴様も私のやり方に賛成していただろうが!」
冒険者支部。
支援部が使っているフロアの『オーバス課』執務室では、ウロボロス会長のガイモンが、『オーバス課』の課長であるオーバス・ナーシフガメと怒鳴り合っていた。
ウロボロスは長い間、莫大な成果を叩き出す公認ギルドだった。
それによってガイモンは高い評価を得ており、そんなウロボロスの支援を担当していた『オーバス課』もまた、チームは大きく、執務室は広い。
そんな執務室には大きな黒板があり……折れ線グラフで表示された『冒険者たちの成果』は、紛れもなく『大暴落』である。
そんなウロボロスの支援を担当していたオーバスもまた、評価を落としている。
「アノニマスの解体。ロクセイ商会の罠。どちらも、冒険者ギルドのトップなら気付けたはずだろう! それを予測できなかったのはお前の怠慢だぞ!」
「ウロボロスが手に入れたアイテムや金貨で威張り散らすだけの寄生部署がよく言ったものだ!」
「誰が寄生部署だ!」
冒険者には様々なルールがある。
その多くは、『申請することでメリットを得られるもの』が多い。
要するに、『調べてみて初めて分かる有益なシステム』が多く用意されているのだ。
支援部は、有望な冒険者にそれらのシステムの使用を提案し、それに必要な書類をまとめたり、外部と交渉して進めていく。
支援はあくまでも支援。
優秀な部署というのは、『冒険者にとって便利』な存在でいなければならない。
オーバス課は、それを最初から忘れている。
ただただ、ウロボロスがもたらす圧倒的な利益を掠め取るだけ。
どこかに身を置いておいた方が醜い争奪戦がなくなるため、有望な冒険者は大体どこかの支援部職員とくっついているもの。
そう言う意味で、ウロボロスはオーバス課に身を置いていたが、本当に、争奪戦を防ぐ役割しかなかった。
「このままでは、支援部としての私のキャリアに傷がつく。そうなったらどう責任を取るつもりだ!」
「知るか! 支援部は、冒険者の縁の下の力持ちになることに、誇りを持って取り組むやつがなるべきだろうが! 甘い汁を吸うための寄生虫がキャリアなんぞ語るな! 片腹痛いわ!」
「自分のギルドを、支援部をつけるまでもないゴミ箱にしたお前に、誰かを笑う資格なんぞあるか!」
……執務室に会長を呼び出してまですることだろうか。
彼らはこれを建設的だと思っているのだろうか。
これが建設的だと思っているなら、勘違いしすぎだろう。
『支援部としてキャリアを積んで出世したい』
『支援部は縁の下の力持ちとして誇りを持つべき』
『ギルドの成果を落としたことを突いて、人を笑う資格はないと言い張る』
どれもこれも『思想』の話だ。
彼らがするべきなのは、これから何をするべきか。
そう、『思想』を押し付け合い、罵り合うのではなく、『行動』を決めることだ。
何ができて何ができないのか。
どこかに便利なものがないか。不便なものを抱えていないか。
これからの行動を考える上で、『可能不可能』と『便利不便』を考えることは非常に重要である。
思想という、人間の内側に抱えておくべきもので罵り合い、それでこれからギルドの成果を伸ばそうなど、『不便不可能』である。
「ああ、ガイモン
そんな罵り合いの中。
冒険者監査部のデュリオ班の班長を務めるデュリオが、メガネのブリッジを上げながら、執務室に入ってきた。
「お、お前は……」
「どうも、フォックス・ホールディングス担当監査班の、班長を務めるデュリオと言います」
スーツを着てメガネをかけた『インテリエリート』といった風貌のデュリオが、書類を持ちながら礼をする。
「なぜ、あの小僧の担当であるお前が……」
「暇すぎるので、他の班の手伝いをしてるんですよ。もちろん、ただの手伝いなので私に『上』への報告権限はありませんがね」
デュリオの仕事だが、マジでない。
フォックス・ホールディングスが公認ギルドなので、監査部が調査をする必要があるのだが、『報告免除項目』を最高レベルでフル装備なので、書類に書くことが少なすぎる。
『少ない』であって『皆無』ではないのは、冒険者と血統国家の間には線引きを必要とする思想があるため、『冒険者と直接関係を持たない組織の立場を持たない』ことを説明する必要がある。
例えば、冒険者の一部を支持基盤とするアーティアの、私兵や御用商人といった立場を持っているのではないか。といった疑惑を排除するために報告書が必要なのだ。
ただ、本当にそれだけである。
デュリオ班はマジで仕事がないので、他の班の手伝いをしているのだ。
なお、調査能力に関して、アグリから資金とアイテムを提供されているのでとても高い。
監査部の中では『とてもいい助っ人』なのである。
「……おい、今、私のことを何と言った?」
「ええ……ガイモン元社長。と呼びました」
「どういうことだ!」
慣例として。
コミュニティのトップが冒険者の場合は『リーダー』で、冒険者ではない場合は『社長』と呼ばれる。
ギルドのトップが冒険者の場合は『ギルドマスター』で、冒険者ではない場合は『会長』と呼ばれる。
デュリオがガイモンを『元社長』と呼んだという事は……。
「『ウロボロス』ですが、ここまで浮き沈みの激しい『危険な組織』に対して、ギルドの権限を与えるのは不適切と判断。そのため、『クエストシート』と『ライセンス』の発行権限を没収。『公認ギルド』から『コミュニティ』になることが決定しました」
依頼の受発注と、冒険者ライセンスの発行。
どちらも本来は『冒険者支部』が持っており、コミュニティが前者を持つと『ギルド』になり、後者も一緒に持つと『公認ギルド』になる。
「そして、ガイモンさん。あなたはつい先ほど開かれたコミュニティの会議で、ウロボロスにはふさわしくないと判断され、追放が決定しました」
「馬鹿な! ギルドの最高の人事権を持つのは私のはずだ! 役員共が集まったところで、私を追放するなど、出来るものか!」
「それができるんですよ。『ギルド』ではなくなり、『コミュニティ』になった今ならね」
「なんだと……」
依頼の受発注やライセンスの発行。それらは専門の事務員たちを雇い、仕事を覚えさせる必要がある。
ギルドになれば、こうした『しっかり事務作業ができる者』をしっかり運用する必要があり、『冒険者ではない者』の高い決定権が認められている。
冒険者はあくまでもダンジョンに潜ったりクエストをこなす現場の人間であり、事務作業になると杜撰になる者が多いため、『ギルド』が冒険者本位になると、いろいろ問題が出るためだ。
ただ、ギルドではなくコミュニティとなった場合、『事務作業』の優先順位が下がる。
冒険者と、その冒険者を支援する職人や商人が集まったのが『コミュニティ』だからだ。書類整理など、そのコミュニティを担当する支援部の役目である。
コミュニティになれば、『冒険者本位』を通すべき。
だからこそ、『冒険者ではない者』に対する強い人事権を、冒険者が持っている。
「まあ、大きな失態を犯した『会長』が、ギルドからコミュニティになって『元社長』になることは珍しくありません。そのあたりは調べてみてください。とにかく、私はその報告に来ただけです」
「ま、待て!」
「待つも何も、すでにあなたの追放は決まったこと。あなたは、『ただの王国民』です」
「う、嘘だ。嘘だ! そんなことがあってたまるか! 私はウロボロスの会長だぞ!」
「いえ、『元社長』です」
デュリオは資料を鞄に仕舞った。
「私は報告に来た使者にすぎません。私見を述べる場でもないので、これで失礼します」
そのまま背を向けて、執務室から出ていった。
「……う、嘘だ。私は……」
「……はぁ、おい、コイツをつまみ出せ。用済みだ」
「はい」
オーバスの部下が、彼を起き上がらせて、部屋の外に連れ出す。
「お、おかしい。そんなことはありえん。放せ! 私は、私はウロボロスの会長だ! くそがあああああああああああああああああっ!」
「お、おい! 大人しくしろ!」
「早くつまみだすぞ。いつまでも構ってられねえ」
こうして、ガイモンはウロボロスを追放。
組織からも家族からも見放された、ただの一般人まで落ちぶれた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます