転生剣士は九尾の狐と躍進中 ~大手ギルドを隠れ蓑に『集中力強化』を鍛えていた少年。不要だと匿名部署を解体されたので、表舞台に出ます。集中力が切れた地獄の職場よ。どうなっても知らんからな~
第44話【ウロボロスSIDE】 『冒険者である』という脆弱性
第44話【ウロボロスSIDE】 『冒険者である』という脆弱性
「おい! 聞いたぞ! 何やら新商品があるそうじゃないか!」
「……いきなり呼び出されたと思えば、誰から聞いたのですか?」
朝早いウロボロスの執務室。
ガイモンは、シェルディを呼び出していた。
「四源嬢だ!」
「ああ、彼ですか」
「貴様が開発している新商品を使えば、このウロボロスは、『最大』であると同時に、『最高』のギルドにもなれるそうではないか! そうなればまさに『最強』だ! それを私に隠すなど、言語道断!」
「『それを推測した』ということは……なるほど」
シェルディは、自身に関わるアグリの状況を理解している。
アグリは何らかの手段で、『カードのデメリット』に気が付いている。
しかし、その手段は公表できるものではないため、デメリットに気が付いていないという体裁をとっている。
その手段はともかくとして、『シェルディが次の段階に移行する条件』の一つが、『ウロボロスから抜き取れる分は抜き取った』であると判断している。
そして『新商品』という、なんとも汎用性のある言葉を使いつつも、ガイモンをシェルディに当てた。
「確かに、新しいカードを作っていますよ。今までよりも高性能なものをね」
「おおっ! ギルドのトップ冒険者たちは、今のところ60層までは到達している。それを使えば、60層のボスを倒し、その先に行けるという事だな!」
「ええ、間違いなく」
「直ぐにカードを出せ!」
最大にして最高。
すなわち、最強。
それが、アノニマスが存在した時のウロボロスだ。
今は『最高』の座をアグリに奪われているが、そのカードを使えば、さらに奥に行ける。
「最新式のカード、それを使えば、おそらく70層まで潜るだけの実力を得られるでしょう」
「おおっ! 素晴らしい! 何と素晴らしい力だ!」
「ただ、提供する相手は、あなたではありません」
「…………………はっ?」
ガイモンの顔がすっとぼけたものになる。
「……な、何を言っている?」
「良い取引をしていただける相手を見つけた。ということですよ」
「ふ、ふざけるな! 貴様との約束を忘れたか! このギルドの冒険者にカードの使用を義務付けることで、他の連中には基本のカードしか提供しない。それを破るというのか!」
「……一体、何の話でしょうか」
嘲笑うように、シェルディはガイモンに微笑んだ。
「なっ、わ、忘れたのか!」
「忘れるも何も……そんな約束をした証拠など、どこにもありませんよ?」
「ば、馬鹿な……」
契約。約束。
どれもこれも、紙に書いてお互いにサインをしなければ、後で水掛け論になる。
だからこそ、今も、ウロボロスの事務室では多くの職員が書類を作っている。
だが、当時のガイモンとシェルディのやり取りを裏付ける証拠は、何も残っていない。
そもそも契約において最も重要なのは、『それを破った時にどういった賠償をするのか』と言う点だ。
口約束でも問題ないほどの関係を築いているなら、人が皆、真面目で誠実で正直者なら、そもそも契約書など必要ない。
「私も驚いたんですよ? 何故、契約書を作らないのかと。ただ、紙に書かれた契約は守らなければならないということは理解しているはず。莫大な賠償金と違約金を払ったばかりですしねぇ」
端的に言えば、『ガイモンがギルドの冒険者に、カードの使用の義務付けを徹底できなかった場合』の違約金や賠償金を設定することは契約で可能である。
契約書がなければ、ギルドの冒険者がカードを使っていなかったとしても、シェルディがガイモンを起こることに意味はなくなる。
「ただ、私があなた以外の人間に高性能なカードを配ったとしても、あなたは何も言えないんですよ」
「な、何故こんなことに……」
「……はぁ」
なぜこんなことになったか。
答えは単純。
シェルディにとってウロボロスはすでに用済みであり、ガイモンからの信用などどうでもいいからだ。
口約束を守るか守らないか。
冒険者ならば、『義理』の重要性を理解しているもの。
そこに小さな積み重ねを続けていくことで『信用』が発生する。
だが、シェルディにとって、どうでもいいこと。
ウロボロスは、高い質を持つ冒険者が多く揃っていたため、そこから『才能』を抜き取るためにカードを使って欲しかった。
アグリが作ったフォックス・ホールディングスの存在によって、『地位が揺らぐ』と考えたものが多かったことも含めて、多くの冒険者がカードを使ってくれた。
使ってくれたので、『才能』を多く抜き取れた。
もう絞りカスなので、ガイモンとの信用に意味はない。
それだけのことだ。
「我々の次の取引相手は、『第一王子』、フュリアム・ヘキサゴルド。次期国王の候補筆頭にして、現国王に次ぐ『軍事権』を持つ」
「だ、第一王子だと……」
「最近はウロボロスやフォックス・ホールディングスの影響力、話題性が強く、王族として何か示したいという事なのでしょうねぇ。まあ、『より多くの兵士にカードの使用を義務付ける』ことを約束していただきましたから、その足掛かりになってくれたことは感謝しますよ。ただ、もう用済みです」
「う、嘘だ……嘘だと言ってくれ」
シェルディに手を伸ばすガイモン。
「これから我々は、第一王子の専属商会として動くことになる。『神血旅』……血統国家と冒険者の間には線引きが必要とされ、こうしてあなたと会っていることがバレると面倒なのですよ」
「な……あ……」
「ウロボロスがフォックス・ホールディングスに勝つ日はない」
シェルディは笑みを浮かべる。
「そして、規模の話をするならば、『冒険者』が『国家』を超えることは不可能。最大の名はそのままでいいとしても、それも『冒険者の中で』です」
「う、ぐぅ……」
「千年続く巨大な国家で、国王に次ぐ軍事権の持ち主。そんな相手からのお誘いですよ? 『より多くの方にカードを使って欲しい』と考える我々が断る理由はない」
シェルディはガイモンに背を向けた。
「というわけで、ウロボロスへの新しいカードの提供はやめることにしました。ごきげんよう。もう二度と会うことはないでしょう」
「ふ、ふざけるな!」
「黙れ」
「……」
一瞬で背筋が凍り付くような、シェルディの視線。
絶対の強者の眼力に、ガイモンは震えて動かなくなった。
「では、失礼」
とても楽しそうな笑みを浮かべて、シェルディは部屋を出ていった。
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