第36話 女神の降臨
アグリは冒険者としては『四源嬢』が一番呼ばれている。次点が『九尾の狐』だ。
では、冒険者以外、もっといえば戦わない界隈ではどのように呼ばれるのか。
商品の紹介でモデルを起用するのは、分かりやすく効果的な戦略である。
そしてそうなった時、アグリは大変分かりやすい。
多くは『白き女神』『白の化身』『
実際、艶のある長い白髪も、張りのある白い肌も、アグリの特徴を反映していると言っていい。
神秘的な絵画から飛び出してきたような圧倒的なルックスの持ち主であり、写真を載せた雑誌や新聞は飛ぶように売れる。
そんなアグリが、ミニスカワンピースを着て現れる。
「会長が、ミニスカワンピか……」
「俺、生まれてきてよかった」
「ああ。このために生きてきたと言っても過言じゃない」
過言だろ。
……というわけで、ムーンライトⅨの『教会』にて。
建造されてから初めて、『女神像』が、別の場所に移された。
普段であれば、静かに目を閉じて、両手を胸の前で組んでいる女神像が置かれている。
このコミュニティで最も大切な『宝』であるが、今日は本人が来る上に、本人に無許可で作った物なので、ちょっと置いておくのもアレな感じがしたため、別の場所に保管されているのだ。
「……これも、マサミツさん。ユキメさん、ポプラちゃんのおかげだよな」
「ああ。あの三人がカードを集めまくって、ノルマが達成されたらしい」
「変態だよな」
「「ああ」」
お前らも人のことは言えんぞ。
ということで、今回の大イベントのために奮闘した三人に特大の感謝をしつつ、待っているわけだ。
……ちなみに。
ルックスやスタイルと言う意味では、ブルー・マスターズも相当なレベルが揃っているのは間違いない。
上位層になれば、文字通り、上質も上質である。
アグリは体つきがとても細いので、『神秘的』ではあるが、蠱惑的ではない。
ぶっちゃけると胸も尻もないのだ。
その点、ブルマスのメンバーはデカい物を胸に持っているメンバーも多い。
そういう意味ではとても魅力的だ。
だが、ここに集まった面々は、彼女たちではなく、舞台上を見ている。
……外見を磨いてきた少女たちにとってそれはそれでどうなのか。と思うかもしれないが、ブルマスのメンバーも全員が受け入れている。
アグリが美しいからだ。
「……っ!」
舞台袖からキュウビが出てきた。
特大の緊張が走る。
ピリピリと空気が張り詰めて、まるで滝をせき止めているダムのよう。
少しでもヒビが入れば、大惨事を招きかねない。そんな空気に早変わり。
「待たせたな諸君! あるじのドレスアップが完了したぜ!」
「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおっ!」」」」」
「「「「「いええええええええええええええいっ!」」」」」
男も女も関係ない。
アグリのドレスアップが完了。
この宣言に沸き立った。
「さあ、出て来てもらうぞ! 刮目せよ変態共! あるじ! カム・オン・ステージ!」
ノリにノリまくって戻ってこれなくなった様子のキュウビが宣言すると、舞台裏から……。
「みんな。お待たせ」
……女神が降臨した。
ミニスカワンピ。とだけ言われていたが、真っ白。
脇と太ももを最大まで見せる、ノースリーブマイクロミニスカートという、あまりにもトチ狂った肌面積。
そんな白いワンピースを着た『女神アグリ』が、その姿を現した。
「……う、美しい」
「あ、アグリ様ぁ♡」
熱のこもっていた会場は、その雰囲気を一変させる。
少しでも刺激すれば大惨事を引き起こす爆弾の様な空気から、妖しい月光に照らされた、不気味なほど静寂に包まれる。
ぽつりぽつりと呟くものはいるが、大声にはならない。
爆発しそうな感情は、その全てが、アグリの美しさによって、『この場にはふさわしくない』として、全て浄化された。
「そうか。理解した。アイドルと女神って、違うんだ。アグリ様は、女神なんだ」
キモオタ過ぎる発言がどこかで出てきた。
その声は決して大きくなかったが、その言葉に、『全員が納得』した。
偶像、と言う意味で、人に夢を見させる『アイドル』と言う職業がある。
超絶人気アイドルならば、その登場とともに、人々に圧倒的な『夢』と『熱』を与える。危険なほどの燃料を注ぎ込む。
しかし、アグリの様な外見だと、人々に与えるのは、『世界』と言える。
その場にある炎に薪をくべるのではなく、全てを消して、妖しい月光ですべてを満たす。
どちらが良い悪いとか、凄いか凄くないかではない。そもそもその二つは上下関係にはない。
ただ、『どのようにその場を支配するか』と言う話。
長々と述べたが。
端的に言えば、全員が堕ちた。
「今日は集まってくれてありがとう。こうしてみんなの前であいさつするのは初めてだったね。フォックス・ホールディングス会長のアグリだよ」
優しく、慈愛に満ちた笑顔のアグリ。
……そう、その『演技力』においても、アグリは最強格だ。
付与魔法によって、『アグリが』『女神の様に』『かなり強め』で、集中力強化が行われている。
それはアグリの理性を貫通し、彼の中にある『材料』を元に最大まで昇華され、『上書型』として最高峰の女神を演じれる。
プロデュースはキュウビだろう。
ただ、それを、ここまでの領域まで押し上げるのは、『集中力強化』のなせる
「……フフッ」
次の瞬間、アグリの体は、瞬間移動の様に消えた。
彼の体は、カメラをこっそり構えていた、キュウビのところへ。
「ねえ、コソコソしないで。もっと近くで撮ってよ」
ささやくように、危険な場所にいざなうような声で、アグリは話しかける。
「えっ、あ、ああ、お、おう……」
先ほどドレスアップが完了した。と言っていたので、姿は見ているはずだ。
しかし、その時は、『アグリ』であって『女神』ではなかったのだろう。
「はぁ、仕方ないなぁ」
アグリはキュウビを抱きかかえると、右手でキュウビを自分の顔の傍に。
そして、キュウビが持っていたカメラ魔道具を左手で取ると、そのまま、パシャっとツーショットを一枚撮った。
「はい。後で確認しておいてね」
そういって、アグリはキュウビを床に置く。
キュウビはそのまま、ヘナヘナと座り込んだ。
「さてと……」
アグリは壇上から降りて、面々のところに歩いていく。
だが、彼が歩く先から、人が離れて、道ができる。
「もう……」
また、消える。
彼の体は、近くにいた、ポプラの目の前に。
「えっ」
「あんなに楽しみにしてたのに、どうしたの?」
「あ、あの……」
至近距離に近づいたアグリの顔。
いつもの、『男を自覚している』のとは違う。
本当に『女神』を思わせるような顔で……。
「フフッ、顔を真っ赤にして、かわいい」
「はううぅ……」
堕ちた。
「さてと、まだまだ、時間はあるね」
フフッと微笑むアグリ。
「次は、誰で遊ぼうかな?」
いたずら好きの女神の余興は、しばらく、続いた。
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