第37話【アティカスSIDE】 門前払い
世間における冒険者界隈の話題は、『フォックス・ホールディングス』VS『ウロボロス』となっている。
フォックス・ホールディングスは『最高戦力』でSランク冒険者……『人外』と評される冒険者たちを複数抱えている。
ムーンライトⅨに至っては、Sランクである序列一位から三位の存在を前提とした『荒稼ぎ企画』が存在するのだ。
転移街では、ライセンスを安全エリアにある『転移の柱』に当てることで、ライセンスを当てたことがある別の柱に転移できる。
これを利用し、ダンジョンの奥底に拠点を作り上げることで、深い階層でモンスターを倒しまくる『討伐キャンプ』の企画が可能。
道中の移動のことを深く考える必要がない。という特徴を最大限に活用するもので、Aランクでは到達できない階層で荒稼ぎができるのだ。
ブルマスやアンストにおいても、最高戦力はそれぞれかなりの物。
もっとも、アンストに関しては個人主義が強めなので、アグリ勢力圏への貢献度が低いのだが、それはそういうものとして存在する町なので、追及はしない。
要点をまとめると、『ウロボロスよりも深い階層で戦う』ことで功績としている。
対するウロボロスだが。
カードによって全員がAランク冒険者となり、所属する冒険者の多さもあって、主要な活動階層である41から50階層でとにかく戦っている。
ウロボロスの面々はこのスタートダッシュが他のギルドよりもとにかく早かった。
理由としては、『Aランク冒険者相当の実力への上昇』に対して、適応力を発揮したからである。
強い力を発揮できるとはいえ、それはきちんと体を使いこなすことができてからの話。
もちろん、筋力や速力は十分なので、後は『慣れ』なのだが、この『慣れ』があまりにもはやい。
ウロボロスの面々は、アグリの集中力強化という『外付け』の力により、本来よりも高いランクで通用する実力を発揮していた。
アグリが居なくなったことで集中力強化はなくなったが、今度はカードと言う『外付け』の力を得て、再びその実力を発揮している。
役員側としても、Aランク冒険者相当まで引き上げられたメンバーたちの方が扱いやすく、多数の冒険者を扱うノウハウが蓄積している。
誰が何と言おうと、Aランクというのは本来『天才』と称されるレベルであり、他のギルドよりもノウハウを蓄積しているウロボロスは、『規模』で見れば間違いなく最大。
要点をまとめると、『アグリ勢力圏よりも多くの量を市場に提供している』と言える。
アグリ勢力圏の『最高』という力。
ウロボロスの『最大』と言う力。
一体どっちが、どれほどの金貨を稼ぐことができるのか。
雑誌や新聞では、『最高』VS『最大』の戦いを煽っており、酒場では多くの冒険者が議論している。
この『冒険者大戦』が世の中を賑わせている中で。
カードが世に出る前はAランク冒険者であったというだけの、何の
「あー、あんた、アティカスだよな。ここに来たことは黙っててやるから、さっさと帰りな」
「なっ……」
ヘキサゴルド王国は千年の歴史があり、その王都は規模は大きく、人口も多い。
そことうまく付き合ってきた冒険者協会支部は確かなもので、ギルドや、その上となる『公認ギルド』もまた、それ相応の数がある。
言い換えれば、『不良冒険者』扱いとなり、支部からライセンスを取り上げられたとしても、『公認ギルド』で認められれば、冒険者ライセンスを入手できる。
「ウロボロスの会長さんが、支部で話を広めてんだよ。アンタ、重要な部署を解体して、大損害を出したそうじゃねえか」
公認ギルドの一つ『フィフス・ブレード』。
大昔に、剣を手に取った五人組によって作られたパーティーを始まりとし、規模を多くしてきた公認ギルドである。
所属に関してもかなり『緩い』と言われているが、アティカスはそこで門前払いに等しい状態であった。
「そ、それは……」
「権力を持った途端に重大なミスをする。そんな奴は信用できねえよ」
「だ、だけど、俺は元――」
「Aランク冒険者だった。だろ? だけどなぁ。今は『カード』がある」
「カード?」
「あれ、知らねえの? 『ロクセイ商会』ってところがカードを販売しててな。この商会のカードを使うと、誰でもAランク冒険者の実力を発揮できるんだよ」
「そ、そんな馬鹿な!」
「俺も半信半疑……いや、一信九疑だったけど、使ってみたら、ただの人事部のおっさんである俺も、41層で戦えたんだよ」
「……」
アティカスは信じられないと言った表情だ。
彼はアグリがいた時代に冒険者として戦い、確かにAランク冒険者として活動していた。
それを辞めて役員となったが、それでも、まだ十七歳。
リハビリによってかつての勘を取り戻せるという考えは、アティカスも、彼と話す人事部の男も納得するだろう。
だが、アティカスは、冒険者にはなれない。
父親によって、彼には『圧力』がかかっている。
「今、この王都で、『Aランク冒険者だった』なんてのは何の価値もない。ロクセイ商会が販売してるカード魔道具の性能は圧倒的だ。王国騎士団も買い始めて、その信用度は高い」
「な……」
「まあ、第二王女だけは手を出してないって噂だが、それはいいか。とにかく、アンタがウロボロスでエースパーティーを率いた『元Aランク冒険者』ってことは知ってる。でもなぁ……」
人事部の男は、アティカスを蔑んだ眼で見る。
「今のアンタに、冒険者としての価値はないんだよ。アンタを入れたら、この王都で『最大』のギルドの会長を敵に回すってことになる」
「……そ、それは」
「この王都で、最低の不良冒険者。その自覚を持った方が良い」
「ぐっ……」
「ていうか、カードを知らなかったなら持ってるわけねえわな。リハビリしないとAランク冒険者としての力もないんだし、なおさら無理だ」
当然だが、役員として現場を離れ、アグリも関与しない今のアティカスに、全盛期の力はない。
「今、どれくらい金を持ってるのかは知らねえけど、とりあえず、ロクセイ商会でカードを買って、どこかの武器屋で剣を買って、ダンジョンの『一階』でチマチマ稼ぐしかねえわな」
冒険者ライセンスは、あくまでも冒険者としての証明書であり、なかったからと言ってダンジョンに潜れないわけではない。
この王都で冒険者ライセンスが大きな価値を持つのは、『転移街』で転移の柱を使うため。
というより、冒険者でなければダンジョンに入れない。言い換えれば『冒険者協会がダンジョンを独占する』などと言う行為が許されるはずもない。
ヘキサゴルド王国もこの転移街を利用し、騎士の訓練と資金調達を兼ねた『周回』を行っているのだから。
……ちなみに、ライセンス発行魔道具に関しては、王国側も所持しているため、転移には問題ない。
では、騎士でも冒険者でもない、一般人が転移街に潜った場合、どうなるか。
端的に言えば、『一階』が活動領域になる。
もちろん、一階よりもさらに深く潜れば、その分多くの硬貨をモンスターが落とすようになる。
しかし、劇的に報酬が変わるのは『十一階』に到達してからであり、一階からそこまで行くと日帰りは不可能である。
転移の柱を使えば誰でも日帰りが可能なのがこの王都の冒険者であり、当然『市場』もそれに合わせて動いている。
どんな店も、夜になれば冒険者が帰ってくる。ということを意識して運営しているのだ。
「……く、くそぉ……」
アティカスは唸る。
冒険者でなくとも、『騎士以外で戦う者』としての道を選ぶならば、人事部の男が述べたことは最適解だ。
「……ま、俺から言えるのはこれくらいだ。本来なら、『助言せずさっさと追い出した』って、何か聞かれた時に言わないと睨まれるんだ。それじゃ」
そういって、人事部の男はアティカスから離れていった。
……そこからも、散々だ。
「あー、アティカスさんね。無理無理」
彼は、入れない。
「まだ若いのに残念だけど、こっちもガイモンさんに睨まれたくないんだ。帰ってくれ」
どこにも。
「アティカス? ああ、あの不良冒険者の……無理に決まってるだろ」
彼の居場所は、ない。
「……くそ、くそおおおおおおおおおおっ!」
……王都は広い。
それゆえに、開発が後回しになっている場所もある。
そう言う場所は、王都の中でもあぶれた者が集まってくる。
そんな場所に流れ着いて、アティカスは吠えた。
「おかしい! おかしいだろうが! 元Aランク冒険者で、エースパーティーを率いたんだぞ。親父がああ言ったからって、誰も、誰も……」
ボロボロの小屋にたどり着いて、その壁を叩く。
「ロクセイ商会。一体、何をすれば、Aランクになれるカードなんて作れるんだよ。ふざけんな。アイツらが居なければ、まだ、俺には……」
一度、現場から離れたとはいえ、Aランク冒険者にしてエースパーティーのリーダーを務めたという経歴は魅力的だ。
そのはずである。
しかし、Aランク冒険者と言う称号そのものが、今はもう、何の意味もない。
「俺は、無価値じゃない。俺は……」
「随分、荒れてますね」
「ッ! ……誰だ!」
突如、アティカスは声をかけられて、振り向く。
そこに立っているのは、高級なスーツを身に付けた男。
「……お、お前は……」
「私はロクセイ商会の会長を務めるシェルディと申します。少しお話しませんか? アティカス君」
今の冒険者市場を引っ掻き回す超常存在の一人が、アティカスの元にやってきた。
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