第35話 お前らの脳みそは何処についてんだ?

 ロクセイ商会による強化カードの提供。


 使うだけでAランク冒険者相当となる魔道具によって、多くの冒険者がその活動領域を深くしていく。


 ここで利益を考える場合、数を揃えるか。もしくはノウハウを積み上げるか。


 言い換えれば、『最大』のギルドであるウロボロスは、大きく評価を伸ばすことになる。


 そんな中、『アグリ勢力圏』では、カードの使用を禁じている。


 その話が広まるのも当然早く、さっそく『縛りプレイ』だとか『舐めプ』だとかいろいろ言われているが、別にアグリは気にしない。


 何より、Aランクは確かに凄いが、凄いだけだ。


 Sランクの様な『人外』というレベルではない。


 ムーンライトⅨに関しては、序列一位のマサミツをはじめ、三位までがSランク冒険者である。


 アンストであればサイラス、ブルマスであればセラフィナがSランクに昇格という噂もあり、アグリ勢力圏は実力者が揃いつつある。


 そして、王都に存在するその他の組織は、この『アグリ勢力圏』VS『ウロボロス』という競争に混ざれるほどの才能も規模もない。


 文字通り、組織としての一騎打ちとなっている。


「……カードを使わない方針。それを俺様たちが掲げてるからって舐めプ呼ばわりされてんなぁ」

「まあ、気にしないけどね」

「だな。あと……やっぱ、アレが効きすぎたな」

「そうだね」


 本社の執務室で新聞や雑誌を確認しているアグリとキュウビ。


「いやぁ、反応ヤバかったなぁ」


 カードを使用しない。

 むしろ、ギルドの方で回収する。


 そこに、『何故』と思う者は多かった。


 だがしかし!

『カードが一定枚数を越えたら、そのコミュニティにアグリが『ミニスカワンピース』で遊びに行きます!』

 と発表したことで、大喝采である。


 自分の評判?

 今後の稼ぎ?

 Aランク冒険者の実力?


 知ったこっちゃねえ!


 俺達、私たちは、アグリのミニスカワンピが見たい!


 鉄の意思と鋼の強さと鋼鉄の狂気によって、誰も揺るがすことのできない無敵のスローガンが出来上がったのだ。


 すなわち、『禁忌を犯せ。背徳に震えよ!』である。


「……元気だね。冒険者って」

「元気じゃなかったら女神像を作ろうなんて話にはならんわな」


 話していると……。

 執務室のドアが急に開いて、マサミツ、ユキメ、ポプラの三人がケースを手に部屋に駆け込んできて、テーブルにバンッ! ダンッ! ドンッ! とケースが置かれた。


 三人ともケースを開くと、そこには大量のベースカードが入っている。


「……息、揃いすぎでしょ」

「まあ同じカテゴリの変態ってことだな」


 ケースを開いてゼーハーゼーハーと肩で息をする三人に引いているアグリとキュウビ。


「集めてきました。会長」

「これで、これで!」

「ミニスカワンピですね!」

「……枚数のノルマはキュウビに一任してたけど、どうなの?」

「……初期設定を考慮すると、ノルマ達成だぜ」

「「「よっしゃあああああああああああああっ!」」」


 キュウビの宣言に『爽やか系イケメン』と『クール系美少女』と『ロリ巨乳』が大歓喜である。


「僕が最初に部屋に入った! ムーンライトⅨが最初だ!」

「いいえ! 最初に本社に入ったのは私です! アンストが最初です!」

「何を言ってるんですか! えーと、えーと……ブルマスが最初ですよ!」


 ポプラちゃん、もうちょっと頑張って。


「……じゃんけんで決めたらいいだろ。勝った順にしようぜ」

「というか、どのみち全部回るんだよね。なんで順番で競ってるの? 別に減るものでもないのに」

「何かが減るんだろ。知らんけど」


 というわけで、マサミツ、ユキメ、ポプラが向き合う。


 その手に、全身全霊の魂を乗せて。


「絶対に負けませんよ!」

「こちらのセリフだ」

「フフフッ、こうなると思って、じゃんけんについて勉強しておきました。絶対に負けません」


 ユキメは時間の使い方を考えた方が良いと思う。


 とアグリは思ったが、言わないことにした。無駄なので。


「「「最初はグーっ! ……っ!」」」


 驚愕する三人。


 そう、宣言は三人とも、『最初はグー』だったはずだが。


 マサミツはグー。

 ユキメはチョキ。

 ポプラはパー。


「なるほど、こうなるか。いいぞ。こうでなければ競い甲斐がない」

「ぐ、ごっ……や、やりますねぇ」

「ば、馬鹿な! セラフィナさんはこれがじゃんけんの必勝法だと言ってたのに!」

「貴族ってそんな姑息なこと考えるものなの?」

「いや、貴族なら、じゃんけんで勝たなきゃ手に入らねえ時点で負けだろ」


 じゃんけんは完成されたゲームである。

 出すのが三通りで、『三すくみ』と『あいこ』によって、いずれは勝敗が決まるゲームだ。


 運と言われればそれまでだが、それでも、人間性が出る。


 そういう意味で、三人とも姑息と言うより『陰湿』である。


「では、次は、最初はグーとか言わず、いきなり出すぞ」

「いいでしょう」

「構いません!」


 全員が呼吸を整え……。


「「「じゃんけんポン!」」」


 マサミツはグー。

 ユキメもグー。

 ポプラもグー。


「ふぅ……はぁ……」

「なるほど、手強い」

「いいですね。この緊張感。ブルマスのサブリーダーに任命された時より心臓がバクバクしてます!」


 ブルマスの皆は泣いていい。


「いくぞ」

「「ええ」」


 全員が呼吸を整え……。


「「「じゃんけんポン!」」」


 マサミツはパー。

 ユキメはチョキ。

 ポプラもチョキ。


「いやあああああああああああああああああああああああああっ!」

「声たっか……」

「普段より三オクターブ高くね? どっから出てんだあの声」


 マサミツの口から超音波の様な声が漏れると同時に、膝から崩れ落ちた。


「ぐ、くそぉ、皆。すまん。僕は……勝てなかったっ!」


 大粒の涙をボロボロと流して泣き崩れるマサミツ。


「……」


 アグリはドン引きである。


「ユキメさん。絶対に負けませんよ」

「ポプラ。あなたに作戦のいろはを叩き込んだのが誰なのか。忘れたわけではないでしょう。あなたの作戦などお見通し。私には通用しません」


 二人とも目が爛々と輝いている。

 そして!


「「じゃんけんポン!」」


 ユキメはチョキ。

 ポプラはグー!


「ば……馬鹿な……」

「大勝利いいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいっ!」


 信じられない物を見るような目で自分のチョキを見るユキメと、そのまま勝利のガッツポーズをするポプラ。


「えー、つーわけで……」


 キュウビはまとめに入る。


「ムーンライトⅨの大広間。あそこなら全員が入れるし、そこで全部済ませようぜ」


 ポプラはコケた。


「き、キュウビさん。どうして、どうしてぇ……」

「いやぁ……分けたらどうせ覗き見するだろ。なら、全員が入れる場所を使った方が平等だ。それに、まだ全員に対する顔見せはやってなかったから、ついでにやっとこっかなって」

「鬼! 悪魔!」

「キツネだぜ」


 ドア顔のキュウビ。


 ……ただ、一応、理にかなってはいる。


 すでにノルマを達成しているが、他のところに行っているから順番待ち。


 アグリは一人しかいないのだから仕方のない事ではあるが、『仕方がないだけ』であり、『我慢してはいるが納得はしてない』のだ。


 そして、アグリに関係することで、アグリ勢力圏の面々が我慢できるとは思えないので、のぞき見することも十分に考えられる。


 で、その対象がアグリなので、のぞき見にとんでもないコストを使いだす奴が絶対いるのだ。

 覗き見を防ぐ方だって、その防御策にとんでもないコストを使う奴が絶対いる。


 正直、『アグリ勢力圏』VS『ウロボロス』の対決になっている今、そんなおバカなことにコストを使われると精神的に疲れるので、一度にやった方が良い。


 ……という事をキュウビが説明した。


「「「……」」」


 マサミツ、ユキメ、ポプラの三人は苦虫を嚙み潰したような顔で黙った。


 アグリは『覗き見する気満々だったのか……』と内心溜息をついたが、これがアグリ教団……いや、アグリ狂団の現実である。

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