第33話【ウロボロスSIDE】 ロクセイ商会・会長シェルディ

「……おお、君たちか。ロクセイ商会というのは」

「はい。お初にお目にかかります。ロクセイ商会の会長を務めるシェルディと申します」


 ウロボロスの会長室。


 シェルディはそこに、まっすぐ通されていた。


 スーツを着ており、顔だちこそ違うが、その貼り付けたような笑みは、ビエスタによく似ている。


「ロクセイ商会。聞いたこともないが、私は君たちを高く評価している」

「ほう?」

「商人と言うのは、人と人、大人と大人、金と金の付き合いだと、そう思わないか?」

「なるほど……」


 シェルディは内心で微笑む。

 ……まあ、表の方も微笑を置浮かべているが、裏の方は、もっと深い何かだ。


「私も商人ですが、そこには、取引と言うのは、何かを試して、それをクリアすることで通るものだと、私は考えていますがね」

「試すだと? 私の何を試したというのだ?」

「こういうことです」


 シェルディは指をパチンと鳴らす。


 すると、先ほどテーブルの傍に置いたケースが、少し、光った。


「っ! ……なんだ?」


 ガイモンは表情を変えると、ケースを開ける。


 そして驚愕した。


 先ほど見た時は、紛れもなく、金貨が入っていたはず。


 だが、今、彼の目に映っているのは……。


「き、木の板? 木の板を金貨の形に加工しただけ?」

「その通り」

「一体これはどういうことだ! 私をおちょくっているのか!」

「試したのですよ」

「帰れ! 貴様らを呼んだのは間違いだっ――」

「使うだけでAランク冒険者相当の戦闘力を得られる魔道具。欲しくないですか?」

「……えっ?」


 どこまでいこうと、ガイモンという男は、単純で浅慮。


 さきほどまで憤怒が間違いなくそこにあったはず。


 だが、シェルディの提案に、いきなり自分の怒りが狂わされた。


「……な、何を言っている?」

「我々が売りたい商品は、こちらになります」


 ガイモンが使っているデスクのところまで行くと、シェルディはカードを取り出す。


 多くの場面で配っている『ベースカード』だ。


「こちらに魔力を流すだけで、Aランク冒険者相当の実力を得られるのですよ」

「……わ、私もか?」

「ええ、もちろん」


 ガイモンはカードに魔力を流し込む。


「……っ! おお、すごい! わかる、わかるぞ! 体が非常に軽い! こんな魔道具がこの世にあったのか!」


 感激しているガイモン。


 ……そう、紛れもなく。


 間違いなく、彼は今、Aランク冒険者相当の実力になっている。


「……これをどれくらい用意できる?」

「このウロボロスの冒険者たちに配ることはできますよ」

「おお、では、今、このギルドに残っているBランク程度のクソどもにこれを配れば、全員がAランクというワケか。それならまだ、アイツらを使って稼げるぞ!」


 BランクとAランクでは、明確に、ダンジョンで活動できる階層が異なる。


「もちろん、このカードは基礎的な戦闘力です。腕力、速力、魔法、様々なカードを用意していますよ」

「魔法だと? ということは、火属性魔法のカードを使えば、私もAランクの魔法使いの冒険者になれるという事か!」

「とても鋭いですね。その通りです」


 というわけでその『ソーサラーカード』を渡す。


 ガイモンが魔力を流し込み……手のひらを出すと、確かに、そこには火の玉が出現した。


「す、すごい、すごいぞ!」

「会長。執務室ですから、火はご遠慮ください」

「あ、ああ、すまんな」


 ガイモンは火の玉を引っ込めた。


「……カードだが、独占的に購入したいな」

「残念ですが、私はこれらのカードを、多くの人に使っていただきたいのです」

「ぐっ……」

「ですが、そうですね……ウロボロスに所属する冒険者は多いですし、我々が提供するカードの使用を義務付けていただければ、このギルドの外で配るカードは『ベースカード』のみとし、それよりも強力なカードをこのギルドに提供しましょう」

「ふむぅ……」

「周りも実力をつける、しかし、自分たちはもっと先に行ける。この方が優越感に浸れますよ」

「そうだな! よし、その条件でいこう。カードをどんどん提供してくれ!」

「ふふっ、ありがとうございます」


 ★


 シェルディの帰り道にて……。


「さて、何者かによって、しっかり集中した状態で長年戦っていた『素質』のある冒険者たちに、『カードの使用』を義務付けることに成功した。ビエスタもしっかり質を維持させていたのもあって、なかなか揃っている。フフッ……ハハハハハハッ!」


 思い通りに行きすぎてたまらない。


 シェルディはそんな様子で、ウロボロスを後にした。

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