第2章 フォックス・ホールディングス

第29話 本社一階『深層博物館』

 公認ギルド『フォックス・ホールディングス』の最も大きな役目は、『アグリ勢力圏』に対し、アグリが『他からアレコレ言われずに大金を投じる』ためにある。


 このギルドや、アンサンブル・ストリートの結成以前にも、アグリはいろいろなところで裏から金を出してつながりを作っていた。


 その中で。

 個人主義や少数主義ならばバラバラに活動していた。

 組織主義や全体主義ならば『ムーンライトⅨ』に所属していた。


 アンサンブル・ストリートの結成により、個人、少数で活動していた冒険者や、能力はあるが金が足りない職人や学者たちが集まってきた。


 容姿と実力を兼ね備えた女性の受け皿として『ブルー・マスターズ』を加えることも出来たため、何より『悪意』にさらされやすい特有の問題を解決することも可能となった。


 ここで、本当に重要な点を述べよう。


 フォックス・ホールディングスの傘下であり『アンサンブル・ストリート』『ブルー・マスターズ』『ムーンライトⅨ』の三つは、『以前からアグリを知る者、または面識がある者』で構成されている。


 言い換えれば、『彼らに対しては、遠慮が要らない』ということだ。


「す、すっげええええっ!」

「これが、アグリ会長のコレクション!」

「輝いてたり、見てるだけで恐ろしさを感じるアイテムばかり……」


 フォックス・ホールディングス本社一階。

 広い部屋を使って、『アグリが収集したアイテム』が展示されることとなった。


 アグリの活動範囲は基本的に『ダンジョン深層』である。


 だが、並べられるのは『深層のモンスターの通常ドロップ』というレベルではない。


 高級な外見の宝箱や、モンスターの低確率ドロップなどで入手できる『激レアアイテム』がいくつも存在する。


 武器、防具、道具、魔道具、素材。


 巻物や石板など、解読すれば凄い情報が得られそうなものもある。


 凄まじい『世界』を感じさせるものが並べられた。


 名前は『深層博物館』である。


 フォックス・ホールディングスの傘下コミュニティのメンバーならば、誰でも、いつでも入ることができる。


「あ、これだよな。この博物館の警備って」

「みたいだな」


 博物館の出入り口には、鋼鉄の鎧が、鞘に剣を納めて立っている。

 ちなみに『鉄塊』であり、人間が装備しているわけではない。というか出来ない。


 この鎧の中に入っているのは、ビエスタがルレブツ伯爵邸に移動する際に使っていた擬態竜モンスターの『ミミクリードラゴン』だ。


 この鎧はモンスターの擬態スキルに干渉し、その存在を自分の中に入れることができる。


 ちょっと言っていることがよくわからないが、ダンジョンの『深層』には、それだけ直感に反するものがあるのだ。


「どれくらい強いんだろ」

「ベラルダさんが来た時はめっちゃビビってたって話だな」

「ベラルダ……ムーンライトⅨの序列二位で、傀儡子として凄い人か。あの人が『鎧』に干渉できなかったって聞くとヤバいな」

「ああ、ヤバい」


 ちなみに……。


「でも写真は撮ってくれるぞ」

「軽いな! あ、じゃあ、ミミちゃんよろしく」


 愛称は『ミミちゃん』である。


 ミミクリードラゴンが正体であり、一応メスなので。


 カメラ魔道具を起動して冒険者とツーショットを撮っている。


「ふっふっふ……楽しんでるかな諸君!」

「こんちわ~」


 キュウビがアグリを連れて、博物館に入ってきた。


「うおおおおおおおおおおおおっ!」

「いえええええええええええいっ!」

「ヒャッホオオオオオオオオウッ!」

「くんかくんかスーハ―スーハ―!」


 冒険者たちが男女問わず大喜びである。


「あるじを連れてきてよかったぜ。なんかヤバいのが混じってるけど」

「この変態がよぉ……」

「まあ、実際、あるじはめっちゃ良い匂いがするけどな!」

「化粧品作ってるもんねぇ」


 シャンプーやボディソープをはじめとして、いろいろ作ってアグリに使っているとは聞いている。


「あ、いや、俺様は七味とかネギとか生姜じゃなくて出汁だしで勝負するタイプだから」


 ……要するに、香水などは使わない。と言う認識で良いだろう。


「なんでうどんで例えてるの?」

「あるじが作った『きつねうどん』が俺様の大好物だからだ!」

「あっそう……」


 楽しそうなキュウビ。


 ただ……そのやり取りを聞いた面々は、驚きを隠せない。


「え、か、会長って、料理できるんですか?」

「あるじは料理だって上手だぜ! 暗躍の都合でいろいろ入るからな!」

「例えばどんなところに?」

「飲食店とかメイド喫茶だ!」

「「「「「メイド喫茶だとおおおおおおおおおおおおおっ!」」」」」


 アグリをガン見して絶叫。


 ……ちなみに、あまり見かけない上に王都には存在しないが、この世界にも『メイド喫茶』はある。

 ただし、飲食店の看板娘がサービスでメイドの格好をするくらいなら、王都でも時々見ることがある。


「はぁ、サービスだぞまったく……」


 アグリは『メイド喫茶のスタッフ』に指定して集中力強化を行使。


 両手でハートマークを作って、ニッコリ笑って……。


「お帰りなさいませ。ご主人様。お嬢様♪」

「「「「「~~~~~~~~~っっっ!!!!!」」」」」


 その場にいた全員が言葉を失った。


「……全員の性癖を破壊した可能性があるぜ」

「誰のせいだと思ってるの?」

「あるじ」

「間違いないね」


 ビジュアル。と言う点で、アグリは文字通りヤバすぎる。


 そしてそれを反則レベルに押し上げるのが、『集中力強化』の付与魔法だ。


 これは、『誰が』『何に』『どれくらい』で細かく設定が可能。


 今回の場合、『アグリが』『メイド喫茶のスタッフに』『かなり強めで』という設定で付与を行えば、アグリは『理性を貫通』して『メイド』になれる。


 敵対する存在に使えば手品師マジシャンが裸足で逃げ出すレベルのミスリードを可能とするが、自分に対して使い方を弄れば、没入……いや、『上書型』の役者としても鬼才なのだ。


 そして、『役者として圧倒的』ということそのものが、あまりにもアグリのビジュアルと相性が良過ぎる。


 艶のある白い長髪と綺麗な白い肌に加えて、神が作り上げたレベルの『美しさ』があるルックスだが、『可愛らしさ』であっても作ろうと思えば作れる。


「う、うう、おれ、うまれでぎて、よがっだぁ!」

「神よ、感謝します! 神よおおおおおおおっ!」


 まあ、やってよかったのかどうかとなると、それはそれで別だが。


 あと、『サービスでメイド喫茶ごっこをやった』という話が知れ渡ると、ヤバい奴らを刺激する可能性もあるが。

 ……特にユキメとかマサミツとか。


「……はっ!」

「どうしたのキュウビ」

「今のあるじの写真撮るのわすれてたあああああああああっ! お、俺様は、俺様はなんてことを! ちくしょう! ちくしょおおおおおおおおおおおおっ!」

「……」


 コイツあとで鍋にしてやろうか? と七割くらい本気で思ったアグリだが、何も言わないことにした。


 ただ、ここで泣き崩れるキュウビの肩を、ミミちゃんがポンポンと叩く。


「う、うう、ミミちゃん……」


 泣いているキュウビに、ミミちゃんは一枚の紙をスッと見せる。


「うう……っ! み、ミミちゃん……撮ってたのかああああああああああ!」

「「「「「ナイスショットオオオオオオオオオオオオオオオッ!」」」」」

「ミミちゃん大好きいいいいっ! この恩は一生忘れねえぜええええっ!」

「……」


 グッとサムズアップするミミちゃんと、感激するキュウビと冒険者たち。


 そしてなんか冷めてきたアグリ。

 ……まあ、冷めた顔も美しいのがアグリではあるが。


「……はぁ」


 アグリはいろいろめんどくさくなったのか、放置して帰っていった。

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