第28話 主要幹部が変態ばかりだが原因は多分アグリである。

「第一回! フォックス・ホールディングス幹部会議を始めるぜ!」


 フォックス・ホールディングスの拠点の最上階である四階。

 その中の会議室で、キュウビが上座に座るアグリの前のテーブルで宣言した。


「司会進行やらなんやら、俺様に任せておけ! 何か説明が必要っぽかったらあるじがよろしく!」

「清々しいね。キュウビ」

「そりゃそうだぜ! というわけで、こういったものを作っておいた!」


 キュウビは一枚の紙を用意する。


 ★


 『公認ギルド』フォックス・ホールディングス


 会長・アグリ

 会長補佐・キュウビ

 ギルド支援部担当課・べレグ課

 ギルド専属監査班・デュリオ班


 傘下コミュニティ


 『アンサンブル・ストリート』

 代表者・サイラス

 『ブルー・マスターズ』

 リーダー・セラフィナ

 『ムーンライトナイン

 序列一位・マサミツ・クサナギ


 ★


「すごく簡単に作った組織図って感じかな」

「そんなところだ!」


 まず、会長はアグリ。

 彼は冒険者であり、冒険者が公認ギルドのトップの場合は『ギルドマスター』と名乗るのが通例である。

 しかし、『ホールディングスを名乗ってるときは会長のほうが雰囲気がいい』ということで、彼は会長である。


 そんなアグリの相棒ということで、キュウビが会長の補佐。


 べレグは協会の支援部として動く人間の中で、アグリの担当だ。


 サイラスはこの公認ギルドの専属監査班の班長を務める。


 で……詳しい説明が必要なのは『傘下コミュニティ』だろう。


「……俺等はソロやパーティーのまとめ役か」

「そうなります」


 サイラスとユキメが話している。


 新しく作られたコミュニティ『アンサンブル・ストリート』だが、これは『ソロやパーティー単位での活動を強く希望する冒険者』を一か所にまとめるための箱だ。


 別にソロやパーティーであっても、何らかの大手コミュニティの支援を受けて活動するというパターンは珍しくない。


 しかし、支援を受けるという立場上、コミュニティの上からの要望は応える必要がある。


 それに合わせられない冒険者たちを一か所にまとめるために、箱が用意されたのがこのコミュニティである。


 コミュニティという以上、所属するのは冒険者だけではなく、職人や研究者も参加している。そちらも、かなり個人主義が強い面々が揃っている。


 とりあえず代表ということで、『レッドナイフ』がエースパーティーに選出された結果、サイラスが来ることになった。

 そして、そんなサイラスにくっついて、サブリーダーのユキメもやってきたという事になる。


「私たちは……女性の受け皿ですね」

「そうなりますね!」


 セラフィナの確認にポプラが頷いている。


 ブルー・マスターズに所属するのは、基本的に容姿と実力の優れた女性冒険者だ。


 そういった冒険者は組織的な悪意から狙われやすく、そうした人間たちから守るための箱として活動している。


 どのみち、容姿と実力が高い女性冒険者は、『悪意から身を守る立ち回り方』を知り、実践できなければならないので、ブルマスの存在は大きいだろう。


「これからも人数は増えるはずだ。組織の中で動ける冒険者ならば、僕ら、『ムーンライトⅨ』が抱えよう」


 ムーンライトナイン


 大型の冒険者コミュニティであり、かなり組織的な動きをすることが多い。


 ソロやパーティーで活動する冒険者も所属するが、それらの冒険者も、『一大プロジェクトに何らかのかかわりがある指令』が下される。


 ダンジョン『転移街』のシステムを利用し、前線拠点の構築と運用によって、深めの階層を可能な限りの最大人数で暴れまわる『荒稼ぎプロジェクト』を何回か行っており、かなり実力派が揃う。


 序列一位から序列九位が総合的な実力順に決まっており、その九人による合議制でコミュニティが運営されている。


 そしてその中の序列一位が、白い制服を身に包んだ爽やか系高身長イケメン、マサミツ・クサナギである。


「このホールディングスの新しい傘下として独立もあり得るし、あまり縛りがきつくならないようにね」

「わかっていますよ。会長」


 人数も多いムーンライトⅨだが、それ以上増えてくると、序列九位までに入れなくてもカリスマを発揮できる人間だって出てくる。


 しっかり冒険者として活動していると、それ相応に『カリスマ』を発揮するものは出てくる。


 人事部目線で『お前独立した方がよくね?』と思う人間だって出てくる。


 これまでは『コミュニティ内の派閥の一つ』ということで管理していたが、今は『フォックス・ホールディングスの新しい傘下組織』への分社もあり得るのだ。


「今のところ、個人主義が強めならアンスト。女性ならブルマス。全体主義が強めならムーンライトⅨだぜ!」

「まあ、役割としてはそうなるだろうね。ところで、このギルドの役割はどうなるのかな? キュウビさん」

「マサミツ。良く聞いてくれたな! まあ端的に言うと、あるじが大金を使いまくるってことだぜ」

「ま、また大雑把な……」


 マサミツの頬が引きつったが、サイラスとユキメは納得しているようで……。


「つっても、姉貴はいろんなところに金と物を出してたし……『経営者』っていうより、『投資家』だよな。この公認ギルド設立も延長線上みたいなもんだろ?」

「そうですね。私も契約書は確認しましたが、ホールディングスと言いつつも、本来の実態とは別です」


 契約書には、どれくらいの金額がギルドから降りてくるのか。それに対して、どれくらいの配当金を払う必要があるのかが記載されている。


 ただ……明らかに、回収するのに十年、二十年とかかるような設定だ。


 明らかに利益を優先する組織の考え方ではない。


 他コミュニティの運営権に関しても、『口を出せる』という程度にとどめている。


「要するに、会長が個人としてお金を出すのか、ギルドとしてお金を出すのか。これからはその違いがあるという事ですね!」


 ポプラがそんな感じで結論付けた。

 が、間違いではない。


 あくまでもアグリの立場は『関係者への支援』であり、そこから利益を取ろうとはあまり考えない。


「まあ、そうなるのかな?」

「あるじは『お金の公式的な動き』を協会本部に通す必要がねえからな!」

「どうして? ……いやまさか」

「『報告免除項目』が最大レベルでフル装備だぜ!」

「ぶふっ! ごほっ!」

「ど、どうしたマサミツ」


 サイラスが盛大にむせたマサミツを心配している。


「……え、ほ、本当ですか?」


 マサミツの視線がデュリオに向かう。

 デュリオはメガネのブリッジを上げて、頷いた。


「ええ、本当ですよ。あんな金貨の山は初めて見ました」

「……なるほど、確かにそう言われると動きやすい部分はあるか」


 マサミツは溜息をついた。


「え、どういうことですか?」


 ポプラがマサミツの方を向いた。


「チームやコミュニティは、一定以上の金額を受け取った場合、それを上に報告する義務があるんだ」

「ただし、組織と組織の間でお金が動く場合、どちらかが『報告免除項目』を持っていると、取引があった日時の記録は必要でも、その金額は報告しなくてもいいんですよ」

「要するに……」

「あるじは裏で真っ黒なことをいくらでもできるってことだぜ!」

「言い方」


 あくまでも、『報告免除』は『公認ギルド』が持っているのであって、『アグリ』が持っているわけではない。


 取引に関して、『日時の記録』は必要だが、協会本部が何も言わない限りは提出の必要もないのだ。


 提出するとしても、日時の記録を出すだけで。その金額の報告は必要ない。


「ある意味、このギルドを作った最大の理由なんじゃね?」

「そうでしょうね。免除って、すごい……」


 サイラスは溜息をついて、ユキメの頬が引きつっている。


「というわけで、これから金をバラまいていくから、皆も遠慮すんなよ!」


 キュウビがそんなことを言って、会議の大きな部分は終わった。


 ★


 アグリとキュウビが先に会議室を出て、残された面々。


 サイラスとユキメ。

 セラフィナとポプラ。

 マサミツと、べレグとデュリオ。


「さて……じゃあ僕は、女神像の手入れに行こうか」

「はあ!?」


 マサミツの言い分にサイラスはコケそうになった。


「め、女神像って?」

「ムーンライトⅨの敷地には『教会』があってね。そこには、アグリ会長を模した女神像が置かれている」


 アグリは男である。


「ね、姉様の像があるんですか?」

「ああ。顔の造形には本当に苦労したが、序列二位が彫刻家にして傀儡子でね。キュウビさんが情報と技術をくれて完成したものだ。コミュニティの宝だよ」

「……サイラスさん」

「アンサンブル・ストリートにそんな技術力はねえよ」


 ユキメの顔が怖い。


「お前は女装した姉貴の写真集で我慢しとけ」

「なんだとおおおおおおおお!?」

「お前『爽やか系』じゃなかったのか?」

「顔ヒドいぞ……」


 マサミツが絶叫。


 サイラスは『ちょっと刺激が強かったか』とは思ったが、反省はしない。


 べレグとしても、爽やか系の超絶イケメンが凄い顔になってるので、ちょっと止めたい。


「か、会長の、じょ、女装……だと……」

「てか女神像はどんな格好なんだ?」

「露出度の高い羽衣に決まってるだろう!」

「聞いたのは俺だけど、うるせえわ」

「キュウビさんの趣味っぽいですね……」


 デュリオが最後にぽそっと補足したが、まあ間違いではないだろう。


 キュウビは、アグリのコーディネイトにおいては本気マジ全力ガチになるので。


 というか話を振ったら自信満々に教えてくれそう。


「セラフィナさん!」

「どうしたのポプラ」

「アグリさんの風呂場に突入しましょう!」

「あなたは何を言ってるの!?」

「アグリさんとのエピソードが欲しいんですよ!」

「私も欲しいけどやめなさい!」


 聞いていた面々は『ちょっと本音出たな』とは思ったが、藪を突いてもアレだ。


「そういえば、べレグさんは姉様と一緒にお風呂に入ったことがあるとか?」

「「「「「!?」」」」」


 全員が凄い目でべレグを見た。


「ん? あ、ああ……めっちゃ綺麗だったぞ」

「ぐ、ぐぎぎぎぎぎっ」

「フシューッ! フシューッ! コホオオオォォォォ……」


 歯ぎしりする者。

 人間がしてはいけない呼吸をする者。


 様々だが……どちらも変態だ。


「め、女神像って、風呂に入れても大丈夫だろうか」

「「「「「「やめとけ」」」」」」


 マサミツが変な方向に走り出しているので全員で止めた。


「てか女神像なんて、抱きかかえながら風呂に入れる気か? 抱き着いても固いだけだろあんなの」

「えっ!? サイラスさん。アグリさんとハグハグしたことあるんですか!?」

「一晩、抱き枕になってくれたことはあるな」

「んんんんぎいいいいいいいいいおおおおおおおおあああああああああああっ!」

「このイケメンは何処から声出してんだ?」


 とまぁ。散々なことになっているが。


 このメンツを『主要人物』として、『フォックス・ホールディングス』は始まるのだ。


 ……世も末である。

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