第17話 密会乱入
「クグモリはそもそも、夜にも客が訪れやすい環境を作ってる。こんな時間だけど、訪れる客が『一般人』の可能性も十分にある」
「階段で二階に上がってすぐのところに窓があって廊下が見えるぜ。そこに上がってきたあたりで俺様達も入るってわけだな!」
用意した物件で最終確認だ。
そうしている間にも、クグモリに入ってくる人間はチラホラいる。
ただ、階段近くの二階の窓には誰も見えない。
まだ、確定とは言えない。
「……そう言えば、窓のところだけしゃがんで歩けば、こちらからは見えないわよね。それに、尋問したんだから、クグモリの密会がバレてると判断して、別の場所で開くとは考えられない?」
アーティアがポツリとつぶやいた。
「生粋の暗躍部隊ならともかく、薬の開発者にそこまで気が回るものじゃない。それに……」
「それに?」
「今日の昼に、あの窓の上、『そこ』に集中力を発生させるように付与術をかけておいた。仮にしゃがんでいたとしても、窓の前を通ろうとした瞬間、身体を起こさざるを得ないはずだ」
「ああ。なるほど、既に付与魔法を残してたのね」
そもそもアグリの付与魔法は、一つの組織の全員に使っていたとしても、それが一切バレない自然さがある。
それを何年も何年も鍛えてきたため、少なくとも『バレない』ということに関してはアーティアからも信用がある。
「加えて、クグモリで密会をするかどうかだけど、尋問結果からは、『相手に変更を伝える方法がない』みたいだ。まあ、彼らの情報の伝達手段はこの場では割愛するとして……」
「今さら変更はできない。これは確実だぜ」
「まあ、そこまでわかってるならいいわ」
アーティアは頷いた。
「「「「「……っ!」」」」」
誰かが見えた。
「外から来た密会の人か」
「第二王子は別の店との間に作った地下通路出来てるはずだ。もう来ていてもおかしくないぜ」
「じゃあ、こちらも始めるわ」
ルシベスが兵士たちに指示を飛ばす。
鎧を着た彼らの仕事は、外から出てきた人間を逃がさないことだ。
関係者であろうがなかろうが、関係なく一人も逃がさない。
まあ、関係者ではなかったら、迷惑料として金貨の一枚でも渡しておけばいい。
その包囲の為に、多くの兵士を連れてきた。
ルシベスが指示を出すと、あらかじめ決まっていた配置に全員が移動する。
「そろそろ、配置についたころかな。俺達も行こう」
「そうだな!」
キュウビがアグリの頭に飛び乗った。
すると、アグリが拠点の窓から飛び出して、そのまま近くの建物の上に飛び乗る。
付与魔法を駆使して、一切足音が出ないようにするオマケつきだ。
「おもったより積極的ね」
「それくらいなら問題ない」
アーティアとサイラスも、アグリと同じように窓から飛び出して、アグリと同じ屋上に、音もなく着地する。
「第二王女とは思えねえ身体能力だぜ。オマケにドレスなのに……」
「あら、私の支持基盤は冒険者よ? 分かりやすく私が上だと言い切るためには、叩き潰せるほうが手っ取り早いわ」
「物騒だぜ……」
というわけで、屋上に着地したアグリ、サイラス、アーティアの三人は、そのまま進む。
そのまま、屋根の上を飛ぶように移動して、クグモリに向かう。
「フフッ、たまにはこういうのも悪くないわ」
「冒険者だってやらんぞ」
「でしょうね。普通なら音が出るし、迷惑だから」
あれこれ言いながらも、クグモリの近くまでやってくる。
「それで、アグリ、あなたが壁を破りながら入るという事でいいのよね」
「ああ、任せてくれ。こういうのは、最初に相手の度肝を抜くのがいいからね」
密会が行われる部屋に面している廊下。
そこにぶち破って入ればいい。
密会が行われる部屋は、換気用の小さい窓が付いているだけで、逃げ場はない。
「さてと……」
アグリは腰から刀を抜いた。
そこに魔力をため込んで、一気に振り下ろす。
それが壁に衝突すると、切断……いや、爆破されて、廊下がむき出しになる。
そのまま、破壊した壁から中に着地。
アーティアとサイラスも降り立つ。
「空中で派手な大道芸ね」
「集中力を強化できるからね。不安とか感じないからさ」
廊下に降り立つと、そのまま走る。
そして、密会が行われる部屋の扉を蹴り破った。
「うおっ、な、なんだお前は!」
金色の髪を短く切りそろえた青年が驚いている。
テーブルにはその青年と、フードを被った男と、白衣を着た男だ。
……フードの男がガイア商会の暗躍部隊。
白衣を着た男が、王都の外の製造拠点で薬を作っている研究員。
金髪の青年が第二王子。
そんなところだろうか。
そして、部屋の両端には、同じくフードを被った男たちが勢ぞろいしている。
「なんだお前は。なんて、家族に言う事かしら?」
「あ、アーティア。何しに来た!」
アーティアは腰のレイピアを鞘から抜き放ち、不敵な笑みを浮かべる。
「何って、違法薬物取引の現行犯逮捕よ」
「い、違法薬物だと? 何の証拠があって……」
「少し静かに」
研究者の男が第二王子を黙らせ……ようとして。
「俺に指図するな!」
「え、えぇ?」
上手くいかなかった。
「フフッ、
「うるさい! 俺はこの国の王になる。そうなれば、どんな薬が取引可能になるか。それは自由だ!」
「でも、今はただの第二王子よ?」
「うるさい。この『グレイスハーブ』を……」
「おい!」
「はっ?」
名前を出した第二王子、ジュガル。
それに対して、フードの男が慌てた声を出すが、本人からはとぼけた声が漏れた。
「フフッ……クグモリで密会が行われることがバレてる可能性があるのよ? こうして踏み込まれる可能性があるのに、すぐカッとなる馬鹿な男を置いておくのは重大なミスね」
「……そうだな。それは私の不手際だ」
「俺は説明を受ける権利がある! 一番デカいスポンサーだぞ!」
「……」
フード越しでもわかるほど顔をしかめる。
「ただ、ここまで踏み込んでおいて長々と話か。随分余裕だな」
「そりゃ作戦の内ですから」
「何?」
「あるじ、回収完了だぜ!」
「ありがと。キュウビ」
「はっ?」
テーブルの上に置かれていた袋。
それを、いつの間にかキュウビが持っており、アグリの傍に移動している。
言葉にすれば簡単だ。
彼らの意識を話をしているアーティアに集中させて、視野を狭くさせて、その間にキュウビが回収した。
それだけのこと。
アーティアに対しても、話をしている三人に対する集中力を上げて、裏で行動しているキュウビに目が行かないようにしていた。
……なんというか、こんな力があると知れ渡ったら、
「んーと……うお、純度の高い奴だ。こんなの使ったら、女は二度と正気に戻れねえぞ……」
葉っぱの束を一つ取り出して、キュウビがドン引きしている。
「……確定だね。今、このハーブの扱いは違法だ。あまりにも人間の精神に対する影響が大きすぎるからね」
「ちっ……こいつらを捕らえろ!」
フードの男が指示を出すと、部屋の隅で待機していた男たちが、一斉に腕輪を見せて起動する。
「うおおっとっと?」
アグリの傍に、いくつもの『渦』が出現。
ジャラジャラと音を立てて、アグリの体を拘束した。
四肢も、腰も首も、巻きつけそうなところに巻き付いて、締め上げていく。
「……いったい何本持ってんだよ」
「あ、姉貴が……」
サイラスがナイフを取り出して、鎖に振り下ろす。
だが、すり抜けて切れない。
「な、なんで……」
「これは霊的な素材で編み込んだものだ。物理攻撃は一切受け付けんぞ!」
「おい! なんで一人だけなんだ! 三人とも拘束し……」
「もう遅い」
手首を捻るだけで刀を振って、傍の鎖を斬る。
そのまま、自分に巻き付く鎖を全て斬り落とす。
地面に降り立って、刀を構えなおした。
「馬鹿な。あの鎖を斬れるわけが……」
「こう見えて、転移街の深いところから色々持ってくるような冒険者だよ? 普通なら訳わかんないことを平気でするような、強い奴に決まってるじゃん」
「ぐっ、確かに強者だな……仕方がない」
フードの男は指を鳴らす。
次の瞬間……アーティアとサイラスは、目の前の光景に驚愕した。
フードを被っていた男たちが、次々とその姿を変貌させる。
赤い肌で、隆起した筋肉と、角を持つモンスター。
赤鬼。
身長も伸びて、全員が二メートル以上の体格となり、武器を構える。
「……フフフッ、ガイア商会モンスター研究部の力ですよ! ここに居るのが人間だと思いましたか? ハズレです! フードを被っている奴は、全員が『擬態モンスター』なのですよ!」
研究員らしい男が興奮した様子で説明する。
そして、サイラスを見た。
「おや、確かあなたは……ああ。確か擬態モンスターによって仲間と妻を失った方でしたねぇ」
「ま、まさか……」
「そう、提供させていただきましたよ。我々がね」
研究員の男は、サイラスの逆鱗に遠慮なく触れた。
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