第8話 支部に行くと助けた女の子がいた。

「あるじ~」

「どうしたのキュウビ」


 宿から支部に向かう道で、アグリとキュウビは話していた。


「折角、表舞台に出るんだし、胸のデカい子とパーティー組もうぜ」

「急にどうしたの?」

「俺様は外見至上主義ルッキズムだからな。顔面と肌はあるじで十分だけど、胸が足りん!」

「キュウビは俺を何だと思ってるんだい?」

「胸が足りない人……間違えた。胸だけが足りない人」

「露骨だねぇ」


 キュウビは自分の主義に関してはかなり明け透けなので、こういう発言をすることそのものは別に何の主義にも反していない。


 しかし、普段はもう少し抑えめのはずである。


「実力も外見もいい。性格は議論の余地があるけど特に外見はいい。でも胸が足りない。しかしデカいだけではなく黄金比の様な抜群のバランスがある巨乳が良い。Gカップとか最高じゃね?」

「なんでそんなにこじらせてるの?」

「あるじのことを知ってるやつはみんなそう思ってるだろうぜ」

「そうかな?」

「ユキメちゃんとかその典型だろ。ていうかユキメちゃんくらいの巨乳があるじにあればな~って思う」

「俺の胸があんなに大きかったら生物学的におかしいでしょ」


 ユキメの外見を端的に言えば、茶髪をボブカットにしたクール系の巨乳美少女。と言ったところ。

 その胸部装甲はFに到達しており、巨乳が好きならまず目が行く。


「生物学的にどうこうって話をしたらあるじの外見の方がおかしいだろ。十八歳の男性で身長155センチ体重43キロとかありえんからな?」

「それを言われると反論の余地はないね」


 アグリは鍛えているし戦っている。


 魔力を利用すれば、身体能力を強化することはできる。


 筋力が足りてなさそうな身体であっても、素早く、精密に動くことは可能だ。


 加えて、アグリは『集中力強化』の付与魔法使いである。


 素早く精密に、という点で言えば、彼の右に出られるものは多くない。


「着いたね」

「お邪魔するぜ!」


 支部について、扉を開けて中に入る。


 彼が中に入った瞬間、ロビーの雰囲気が変わった。


「うわ、す、すげぇ美少女」

「何者だ?」

「昨日来た新人だよ」

「すげえ量の金貨とアイテムを寄付したって話だ」

「実力があるやつが冒険者になったってパターンか……」


 アグリの外見は神秘的で美しく、それを損なわない所作だ。


 武器を握ってモンスターを殲滅する荒々しい男の業界にとって、場違いと言うより別世界とすら言えるレベル。


「……ん?」


 アグリの視界に入ったのは、昨日、『転移街』の深い階層で助けたピンク色のショートカットの女の子だ。

 テーブル席で書類を見比べている様子だったが、アグリを発見すると笑顔になって駆け寄ってきた。


「え、えっと、昨日ぶりです!」

「ああ、昨日ぶりだね」

「そういや自己紹介を忘れてたな! 俺様はキュウビ! あるじの名前はアグリって言うんだ。よろしくだぜ!」

「あ、私はポプラって言います! よろしくお願いします!」


 笑顔で頭を下げるポプラ。


 よほどうれしいことがあったのか、とてもいい笑顔だ。


「そういやポプラちゃん。その制服、『ブルーマスターズ』のメンバーってことだよな」

「はい!」


 ポプラが着ているのは紺色のブレザー型制服だ。

 チェック柄のミニスカートと合わせて可愛らしく、この特徴はとある冒険者コミュニティに該当する。


 それが『ブルーマスターズ』だ。


 女性だけで構成されており、上位層になれば外見も実力もあるメンバーがそろっている。


 それ相応の歴史があるチームで、現在のリーダーはとある伯爵家の長女が、実家に嫌気がさして野に下ってきた経緯がある。


 ただ、最近はあまり、活躍しているニュースを聞かなかったが……。


「あ、アグリさん。ちょっと、別の場所で話しませんか?」


 端的に言って『ロリ巨乳』といえるポプラと、外見が美しいアグリが話していると、かなり目立つ。

 そして、目立つ場所で話す内容ではないのだろう。


「……わかった。ちかくのレストランの個室を借りようか」

「ポプラちゃんみたいなかわいい子と個室だなんてラッキーだぜ」


 というわけで、支部を出て、近くのレストランに移動中。


「そういえば、『紫欠病しけつびょう』は完治したかな?」

「はい! 体はすごく元気ですよ!」

「よかったぜ」

「あの後、私が持ってきていた小さめのアイテムボックスの中に、とにかく薬草を入れまくって持って帰ったんです」

「へぇ……」

「あの病気。ブルマスの中で、五十人も患ってて、どうなるかと思ってたんですけど、全員が完治しました!」


 とても、とてもうれしそうな表情のポプラ。


 ただ、その『数字』を聞いたアグリとキュウビの表情が、少し、変わる。


「あ、あの店ですね。ちょっと個室が取れるか話してきます!」


 レストランを見つけて、ポプラが走っていった。


「……キュウビ」

「ああ。おかしいな。アレは感染しないはず。誰か、『盛った』奴らがいるな」

「候補はいないわけじゃないからね……」


 モンスターを倒せる実力があることと、人間の組織的な悪意から身を守ることは、全く別だ。


「ブルマスは外見がいい子も多いからなぁ。いくらでも嫉妬は買うだろうし、夜のアレコレも禁止されてるから不満をため込むやつもいる」

「……腐臭が漂うね。ほんと」


 ため息をこらえながら、アグリはポプラを追った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る