第10話 今
何も変わっていない、平穏無事な日常が3.5次元世界に繰り広げられていた。
達子はいつものように微笑みながら、部屋で皆とバスケットボールを楽しんでいた。
今年も達子のパーティが開かれていた。
物理学者が達子に尋ねた。「「今」とは何なのだろうか?」
達子はこう答えた。
「『今』は、次元の中心点であり、現在の存在理由。生きている証。私たちは『今』を守り抜く。」
中心ではなく、中心点と答えた。それぞれの次元に中心がある。しかし、その中心を高次元世界から見ると広がりを持っている。したがって、自分が目指す、ある次元のある中心は、中心点である。それを意識せずに、知らずに、人はその中心点に生きている。達子は思った。「誰かが『今』を守り抜かねばならない。私には仲間がいる。」
育明が小さな国の雑誌に載せられた詩を見つけてきた。達子が育明に微笑んだ。その若い女性が新しく招待された。彼女はドキドキしていた、「あの『達子』が開くパーティに私が出席できるなんて。」。
達子は彼女に会うなり、「よく来て下さったわね。皆に紹介しましょう。」と言って、肩を抱いた。彼女はふんわりと浮いたような感触に包まれた。ドキドキしていたのが治まり、静寂な森深くにいる感覚、微風で木の葉が揺れて、ときどき鳥のさえずりが聞こえてくる。なんて心地よいのだろう。ほんの1秒ほどなのに、とても長い素晴らしい時間に感じた。これが達子のオーラなのか?
達子は言った。「彼女は、『今、この時に』という詩を発表したのよ。今から読んでくださるので、皆さん、聞いてね。」
彼女は読み始めた、
『今、この時に』
『今』、素晴らしい『今』
この世界の『今』、この素晴らしい『今』
『この時』、素晴らしい『この時に』
皆と会える『この時に』
何ができる、『この時に』
皆と協力して、何ができる?
皆で考えよう!
『今、この時に何ができるか』を
詩を読んだ彼女の周りに皆が集まってきた。世界的な雑誌の編集長が彼女に耳打ちした。「達子が貴女の詩を選んだ。これは世界的な賞を取るより凄いことなんですよ。極めて異例なことですが、世界中の雑誌の編集長の総意で、貴女が発表した雑誌の編集長に頼んで、世界中の雑誌に再掲載する許可を得た。了解してくれますか?」 彼女は喜びと驚きのあまり声が出ず、赤らめた顔でうなずくだけで精一杯だった。
達子は、いつものように大きな部屋で皆とバスケットをしていた。そこに、健文がやってきた。彼は達子のシュートに極僅か切れがないのを感じていた。達子は何を動揺しているのだろう。そして、健文自身も緊張している自分を感じていた。
達子は健文と一緒に屋上に上がって、星を眺めていた。健文は達子に優しく声をかけた。「達子」
達子が答えた。「会いたかった。」
健文はそっと達子の肩を抱き寄せた。達子の肩がわずかに震えている。
健文はポケットから指輪のケースを取り出した。指輪を買ったことは覚えていたが、ケースが空であることを知らなかった。
その時、突風が吹いた。風に煽られて、達子は健文に抱きついた。その瞬間、達子は、健文からもらった『お守りの指輪』を自分のポケットから取り出して、そのケースに入れた。
何も知らない健文は、指輪をケースから取り出して、達子の左手薬指にはめて、「結婚しよう!」と言った。
達子は、そっとうなずいた。待ちに待った2度目のプロポーズだった。今、やっと願いがかなった。
突然、達子は星に向かって叫んだ。「健文にプロポーズされたよ。健文のお嫁さんになるよー。 幸せになるよー!」
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