第7話 3.5次元世界を守り抜く

 達子はノーベル物理学賞者2人を書斎に呼んだ。彼らは宇宙物理学の権威だ。

「この3.5次元世界を壊そうとしている人たちがいる。私はこの世界を守りたい。協力してほしい。」と言って、論文「3.5次元世界を高次元世界まで拡張した全次元システムの生成」を渡した。2人は、その論文にくぎ付けになった。疑問だった答えがそこにあったのだ。達子は、なぜ、今まで黙っていたのだろうか?

 以前から2人は達子のパーティに来ており、信頼できる関係を築いてきた。達子は物理学論文「高次元による低次元世界の復活」をこの2人に渡して、「『その時』が来たら、協力してほしい。この論文は秘密にしてください。」と言っていた。2人は、「3.5次元より高次元なるものが存在しないのに、高次元から低次元世界を復活する。」という論文は、現代物理学の領域を超えており、現実味を帯びていない、高次元の生成は不可能だとも考えてきた。しかし、『達子』だ。何かある。歯がゆい気持ちだった。

 そして、達子の回答が、今受け取った論文にあった。

「この3.5次元世界を守るため、この世界を広げたい。4次元世界から8次元世界まで。協力してほしい。」

 衝撃が走った。「今までこの論文を秘密にしてきた理由は?」

「誰かが無秩序に高次元世界を生成させると、3.5次元世界を壊そうとする可能性があるから。しかし、秩序だってこの世界を4次元世界から8次元世界まで広げておけば、もし、3.5次元世界が壊されても、高次元世界から3.5次元世界を復活できる。協力してほしい。」

「実際には、どのように莫大なエネルギーを生成させて、安全に使えるのか?」

「世界中の核ミサイルは自由に使える。」

「どういうこと?」

「世界中から選んだ優秀な10人のハッカーが、世界中の核ミサイルを使えないようにしてくれている。今度は、その大半の核ミサイルを発射させて、宇宙のある1点で同時に爆発させて、3.5次元世界では検出できない巨大な暗黒物質のエネルギーを局部的に爆発させ、時空の歪みを生じさせて、亀裂を作り、断面図を作るように高次元世界を作る。その歪みにロケットで入り込んで、次元を固定化する作業をする。4,5,6,7,8次元のそれぞれ秩序のある世界を築き、3.5次元世界から8次元世界までのシステムを構築する。もし、ある次元世界が破壊されても、他の次元から再構築できるように、秩序を維持できるようにする。悪者が邪魔をすると何が起きるかわからないので、全ての工程がうまく進むまで、残っている核ミサイルを使って、時空の歪みと亀裂を維持するように、あなた達がハッカーに宇宙の核爆発目標地点を指示してほしい。」

「暗黒物質の局部的な爆発が伝搬して宇宙が崩壊する危険はないのですか?」

「暗黒物質は自己修復作用があって、爆発や亀裂は局部的なものになるわ。まさに暗黒物質だから。」

「高次元世界での秩序を作るために誰が行くのですか? 失敗すれば命が無い。」

「私と6次元生命体と7次元生命体と忍者隊の隊長と副隊長がロケットに搭乗する。この忍者隊は政府の部隊ではなく、我が社の警備部門の社員です。」

「6次元生命体と7次元生命体?」

「彼らは私に『この時』を伝えに来た。忍者隊は、3.5次元世界を壊そうとしている生命体と戦う。」

「忍者隊の隊長と副隊長は命がけの任務であることを知っているのですか?」

「全てのリスクを知った上で、このプロジェクトが完了するように動いてくれる。心技体が整った人達で、趣旨を熟知していて、自分の考えで動ける知的能力と行動力がある。彼らは、ただの忍者ではない。様々な能力の持ち主です。私と6次元生命体と7次元生命体が小型宇宙船で時空の歪に飛び込んだ時点で、地球に帰還する。」


 隊長は言った、「このプロジェクトを打ち明けてくれたということは、『私達が当然、協力するだろう。』と、私たちを信じているということだね。」

 達子は答えた、「あなた達の尽力で、今までたくさんの問題を解決することができた。今度も、あなた達が私と一緒に、人類が初めて直面している極めて困難な問題を解決してくれると信じている。私と一緒に、この世界を守ってほしい。」

 副隊長は「もちろんです。実際に悪者が邪魔してきたときの対処方法を考えたいのですが、どのようなリスクがあるのですか?」と踏み込んだ。

 達子は説明した、「私達が時空の歪みで消え去るか、8次元世界から3.5次元世界に戻れずにさまようか、3.5次元世界を壊そうとしている人たちに消し去られるか、というリスクは個人的な問題であって、全ての次元世界が崩壊するという大きな問題がある。私達が3.5次元世界から8次元世界までの秩序あるシステムを構築しなければ、いつか、3.5次元世界が崩壊して再構築できなくなる。つまり、時空、今、世界という言葉を知る生命体だけでなく、宇宙という物と概念も存在し得なくなる。」。

 隊長は「リスクを承知の上で、私達の希望として、一緒に、このプロジェクトを成功させたい。そのために、忍者隊を率いている。私達がいない間も、忍者隊は自主的に世界秩序を守るだろう。」と決意を述べた。

 達子は満面の笑みを浮かべて「ありがとう。一緒に生きて帰ろう。その時、私達のプロジェクトは成功している。」と言った。隊長と副隊長は『どんなことが起きても、達子に付いて行こう』と心を決めた。


 達子は健文に言った。

「この3.5次元世界では核ミサイルがどんどん製造され、発射される時を待っている。今は、ハッカーたちが、核ミサイルを発射できないように、そして、それを知られないように24時間体制で頑張ってくれている。しかし、そのうちに発射できないことを知られてしまう時が来る。その前に3.5次元世界を再構築できるシステムを作り上げなければいけない。」

「3.5次元世界を壊そうとしている悪者は何者なの?」

「私が3.5次元世界を守るために構築する未来の高次元世界からやってくる。どの次元にも、自分の世界を作るためには手段を選ばない人たちがいる。彼らは、過去と3.5次元世界を破壊して、新しい世界が構築できると誤解している。狂気だ。高次元世界を生み出そうとしている私には、あらゆる次元世界を守る責任がある。」

 達子の顔に決意がにじみ出ていた。「私はしばらく3.5次元世界を離れるわ。その間、この世界を壊そうとしている生命体が、経済、武力、ありとあらゆる妨害を始めてくる。全面戦争を仕掛けてくるかもしれない。その時、彼らの術策に乗らないように世界を沈めてほしいの。健文は国連や各国首脳から信頼されている。私のパーティ出席者が力を貸してくれるでしょう。国連も役に立つわ。私が3.5次元世界に戻ってくるまで、時間を稼いでほしい。健文に全権を委ねる。健文が頼りなの。」

 健文は「わかった。安心して行ってらっしゃい。達子が帰ってくるまで、この世界を守ってみせる。帰ってきて、一緒に星を眺めよう! そのためにはお守りが必要だよね。」と言って、ポケットから取り出した指輪を達子の左手薬指にはめた。

 健文はそっと達子を抱き寄せた、「結婚しよう!」。

 達子は、そっとうなづいた。長年、待ちに待ったプロポーズだった。アメリカで健文先輩にあこがれ、今、やっと願いがかなった。

 急に、達子は星に向かって叫んだ。「健文にプロポーズされたよ。幸せになるよー。頑張って、無事に帰って来て、健文のお嫁さんになるよー!」

 達子は束の間の心地良さを感じていた、「健文は私を包み込んで勇気をくれる。私が頑張る時がもうすぐやってくる。全力で進もう!」。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る