第2話 深海

 突然、潜水艦の中にいた。

彼女は尋ねた、「ここは水深何メートルなの?」。

6次元生命体が答えた、「5千メートルだ。」。

「まさか、海に潜るとは思わなかった。潜水艦。3.5次元に制限された閉鎖空間か。縦横方向の広がりが少ないので、直線的な1次元に固定したと考えやすい。」

「もう少しで着くよ。」

「どこへ?」

「君たちが疑心暗鬼で名前を知っている大陸だ。」

「ムーなの?」

「マーね。」

「冗談を言っている場合なの? 今日は人間として、私に接してくれるの?」

「君の緊張をほぐすためだよ。」

「でも、あなたも緊張しているように見える。」

「悪者は私達6次元世界の一部だからさ。彼らは自分のやることを悪いとは思っていないから、たちが悪い。」

「まさか、彼らは感情を操る心理学者なの?」

「心理学者とは呼ばず、クラウダーと呼んでいる。」

「クラウダーって何?」

「君達のインターネット社会では、物理的なハードディスクのクラウドが発展していて、知識を保存し、一部を共有している。概念としては、それに少し似ているが、クラウダーは、一部でつながり、仮想通貨みたいに共有している。それを進化だと勘違いしている。」

「クラウドより安全性が高いのでは?」

「私達は特定の場所に世界の記憶を保存していない。置いているのは7次元世界だ。6次元世界に生きているが、記憶は7次元世界に置くことができる。」

「なぜ、6次元世界に生きる生命体が7次元世界に記憶を置くことかできるの?」

「実は、誰も知らない。」

「えっ。」

「一説によると、『もし、6次元世界で事故が起きた時に、7次元世界へも波及しないように、秘密にされているのではないか』と言われている。クラウダーは、3.5次元世界を破壊して、自分達が良いと考えている低次元から高次元へのシステムを再構築しようとしている。考え方が異なるだけで、『絶対に悪い。』とは言い切れない。しかし、彼らのやり方では、全ての次元システムが消滅する可能性が高い。彼らは、まず、5次元世界でたくさんの水爆を爆発させて5次元生命体を絶滅させた、つまり、5次元世界を空洞化して記憶を消し去り破壊した。そのため、6次元世界のパノラマの1ページが消滅して全体がフェードアウトしそうな状況、つまり、6次元世界の崩壊を間近に控えている。それは、虹色のスペクトルの黄色が無くなって、すべての色のバランスが崩れてカラーで無くなったようなものだ。次元のパノラマが揺らいでしまった。そのうちに風船がしぼんでいくように、6次元世界も消滅し始める。6次元世界が消滅すると、7次元世界も1ページが消えて消滅し始め、全ての記憶が永遠に消え去ることになる。つまり、5次元世界の崩壊は連鎖的に6次元世界、7次元世界を崩壊させ、全次元システムが崩壊する。その前に、私達が『誰か』の背中を押して5次元世界を再び作り直し、全次元世界システムを再構築するように仕向ける。クラウダーの妨害に会って再構築が失敗すると、全次元世界の消滅の引き金を引くことにもなりかねない。」

「失敗するリスクがかなり高いようだけど、それでもやるの?」

「私は『3.5次元世界に行き、ある人物の背中を押してね。』というイメージを受け取った。とても優しい聖母に包まれるような穏やかな感覚だった。そして、自然に3.5次元世界に導かれてきた。ただ、私は低次元での固定に関する能力が足りない。だから、君の能力が必要だ。」

「2.5次元も低い生命体である人間に頼るの?」

「いいじゃないか。私の趣味なんだから。」

「趣味? さては、私が困惑している間に考えようという腹なのね。」

「・・・。」

「わかった、わかった。もう何とでもなれ。」

「その言葉は6次元世界にはない言葉だ。また、低級な言葉を教えられたね。ははは。」

「作戦はあるの?」

「高次元の生命体は高度で繊細な感情やイメージによって成り立っている。心理的にクラウダ―の感情を揺るがせ、次元の固定を不安定にさせて、『自分がどの次元の、いつにいるのか』をわからなくさせる。彼らに3.5次元から高次元への扉を開けさせないようにする。」

「それは進化であって、引き戻す必要があるの?」

「少なくとも3.5次元世界が崩壊するのを阻止しなければいけない。」

「なぜ?」

「先ほど説明したように、5次元世界の生命体が滅んで、6次元世界の存在根拠が薄れ、6次元世界も崩壊する。同様に、3.5次元生命体が滅亡して3.5次元世界が崩壊すれば、より高次元の世界は徐々に崩壊していき、全次元システムが崩壊する。同じ事故は避けたい。」

「事故なの?」

「私達は事故と呼んでいる。進化がうまく行かずに、滅んだ事故だ。5次元世界から1.5次元離れている3.5次元世界に住む生命体として人間が生き残っている。もし、クラウダーの妨害で3.5次元生命体が秩序無く、あらぬ方向に進化していくと同じ事故が起きるかもしれない。システムの崩壊は何としても避けなければならない。」

「低次元世界の崩壊が高次元世界の崩壊につながるんだ。」

「高次元になるほど、様々な次元の事象が複雑に交差している。ある日、ある時、誰かが、自分の次元を信じられなくなった時、動きをやめ、それが伝搬して、システムが運用できなくなり、高次元システム全体が崩壊する。その1ページである低次元世界に徐々に広がっていき、すべての次元が崩壊する。この世の終わりだ。つまり、次元システムは低次元世界から高次元世界への崩壊と、高次元世界から低次元世界への崩壊がありうる。だから、次元システムの再構築が必要なのだ。」

「そんな重要な仕事を私にさせようとしているの?」

「いいじゃないか。私の趣味なんだから。」

「あなたは賢いのか、賢くないのか? もし、うまく仕事を終えたら、私はどうなるの? 私は記憶があるの?」

「仕事を終えてからでないとわからない。だって、この仕事の結果がどうなるのかわからない。」

「まさか、次元が変わる?」

「実は、私の推測では、高次元生命体が現れてくるのではないかと?」

「あなた達も作られた生命体だったと?」

「・・・。」

「『・・・。』が多いんじゃないの?」

「・・・。」


 急に現れた人間がこちらに銃を向けて引き金を引く寸前に、彼女は目の前のグラスを割り、悪漢に投げつけた。相手を一瞬で倒した。

 彼女は当惑した、『私は人を倒してしまった。まだ、撃たれていないのに。本当に正当防衛なのか? 過剰防衛ではないのか?』。 「誰か救急車を呼んでください。」と必死に叫んでいた。感情が揺さぶられる。

「敵の思うツボだ。感情をコントロールせよ。」

 急に、どこかの会議室に飛んでいた。声がした。「海上自衛隊潜水艦部隊2等海士を命ずる。今日は武器がないときにも、対処できる方法を学んでもらう。一歩前へ。」

潜水艦に搭乗する前の過去に戻っていた。

「これが、過去への移動、つまり、3.5次元世界から4次元世界への移動だ。3.5次元世界の空間移動を組み合わせたけどね。」


 達子は忍者隊の隊長たちと、潜水艦搭乗訓練を積んでいた。隊長たちは気圧訓練、攻撃を受けた時の体制維持訓練、深海艇の模擬修理作業など、厳しい訓練に耐えていた。戦闘訓練が始まったが、いつの間にか、達子は敵の背後に立っていた。敵は、隊長から「後ろを見ろ!」と言われて振り向いた。が、達子は、再び彼らの背後に、彼らの白旗の棒先を床に付けて立ち、左手と左足を棒に付けて浮き、右手と右足を広げてバランスを取って、コマのように回っていた。笑いながら。

 達子は「心技体、すべてが整ってこそ、このプロジェクトが遂行できるのよ。みんな、頑張って!」と言いながら、揺れる潜水艦の中でバレーを踊り、マニピュレーターを使って深海生物と遊んでいた。皆が思った、「達子は、どの道に進んだとしても、天才の名をほしいままにするのだろう。が、目の前にいる達子は、どう見ても遊んでいるとしか思えない。達子は人間じゃない。ならば、何? 次元が違う?」って。



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