次元の謎 ギフテッド智子2

望豊多朗

第1話 ある種の生命体

女性内閣総理大臣秘書官、森公智子(もりきみ ともこ)は、いつものように自宅の大きな部屋で皆とバスケットをしていた。そこに、天才経済学者の晶元健文がやってきた。彼は智子のシュートに極僅か切れがないのを感じていた。そして、ただならぬことが起きていると直感した。智子は今まで様々な難事業を成功に導いてきたが、こんな智子を見るのは初めてだった。何か、とてつもないことを成し遂げなければいけないのだろう。

智子は健文と一緒に屋上に上がって、星を眺めていた。健文は智子に優しく声をかけた。「智子、もうすぐなのかい?」

智子が答えた。「会いたかった。勇気が欲しいの。」

健文はそっと智子の肩を抱き寄せた。智子の肩がわずかに震えている。

健文は思った。「大変なことが起きている。私に何ができるのだろう。今は、このまま智子の震えが止まるのを待とう。」


智子は、もうすぐ、やってくる、「その時」に備えて、万全の態勢で臨めるように何年もかけてメンバーをそろえてきた。


「その時」を伝えに来た生命体が、寄り添っている人に言った。

「君が気付くとは思っていなかった。」

「なぜ?」

「君達は女性に不利な社会を作り上げてきた。思考と発言の自由度が女性に不利だ。」

「あなた達の社会はどうなの?」

「私たちの社会には有利とか不利という観念がない。」

「本当は私に気付かせるように仕組んだんじゃないの。」

「少しいざなっただけだよ。気付くか否かは君が選択したのだ。」

「それはどういう意味なの? あなたは私をどのように解釈しているの? 今まで、普通に貴方を人として考えて、話してきたし、接してきた。でも、このことを知ってしまった今は、あなたがどのように私を解釈しているのかが理解できていない。私は今まで自分が人間だと思ってきたけれど、実際はロボットなの?」

「いや、人だよ。ある種の生命体さ。」

「あなたとどこが違うの?」

「私は6次元世界に生きている。君達は、理解できる次元が私達より2.5次元少ない。感情が真に意味するところも理解していない。」

「誰が私達を作ったの?」

「私達が作ったともいえるが、君達が自分で進化したとも言える。私達が初期の君達を作ったとも言えるが、私は見ていたとも言える。」

「さっぱりわからない。簡単な言葉で説明して。」

「君達は3.5次元世界に生きて、3.5次元で物を見て解釈している。4次元世界は、時間軸が0.5次元多いので、時間を過去・未来に自由に行き来できる。君達の3.5次元から4次元世界は、感情を意識しているが、感情によって明瞭に事物が成り立っていくことを知らないし、感情の使い方も知らない。5次元世界は、感情による世界の変化が明瞭で直線的に進んだり戻ったりすることができる。もう1次元増やした6次元世界では感情の起伏を含めることが出る。感情をサイン波のような様々な波や急な上下動させることによって見えるものが変わる。私達は感情世界が豊かだ。もう一つの次元が一番重要だ。」

「昨日までのあなたの話し方と違う。別人なの?」

「昨日までは、3.5次元世界の人として君に接してきた。」

「貴方達は何人いるの? 宇宙人なの?」

「3.5次元の何人という観念は当たっていない。宇宙人という言葉も適切ではない。」

「・・・。なぜ、私にそのことを教える気になったの。」

「6次元世界で問題が発生した。この問題は3.5次元世界でしか解決できないことがわかった。」

「あなたはそれを正す任務を持っているの?」

「私達に任務という言葉は存在しない。仕事という言葉もない。ただ行う必要がある、というだけだ。」

「貴方達よりも次元が少ない私に何ができるの?」

「理解できないかもしれないが、次元を多く持つということは、慣れていないと、次元を固定して作業しにくいことを意味する。例えば、一次元社会を考えよう。一本の線を考えると、こちらから向こうへ、向こうからこちらへと移動できるが、横に移動できないから、両側から人が歩いていけば、必ず、出会うことができる。」

「私にある人物に会えというのね。しかも、とても奇想天外な相手なのね。そして、その人物に、悪者による妨害を押しのけて、3.5次元世界を守るように背中を押すの?」

「流石、理解が早いね。私が君を選んだのは、正解だったようだね。3.5次元同士に固定して対峙する必要があるのだ。」

「私にとっての危険は大きいの?」

「多少。」

「私がノーと言ったら?」

「人は存在しなくなる。もちろん、君もそうだ。私達が君達を消すのではなく、君達がその道を選択することになる。」

「私は何も格闘技ができるわけでもない。」

「君だけにはしない。いつも私が一緒にいて君を守る。」

「私に超能力があるわけでもないのは、あなたはよく知っているでしょ。」

「君の知性と感情コントロールが必要だ。それには心理学の学位を持っている君がぴったりだ。論文『感情と人類の未来』は良い出来栄えだった。そして、もう一つの能力だ。何か計り知れないものをもっているようだ。これは、君に近づいてから分かったことだが。そのうちにわかるのではないかと思っている。」

「貴方は故意に私に近づき、貴方に夢中にさせ、私に仕事をさせようとしている。ひどい人、人?」

「3.5次元で君に会い、人類から人と理解されているのだから、便宜上、人と呼んでもらって構わないよ。」

「本当は何て言うの?」

「私達は自分を何とは呼んでいない。何だろう? 今まで疑問を持ったことがなかった。 ・・・?」

「貴方でも本当に困ることがあるようね。いつもは困った振りをするだけなのに。」

「私は君に会ってから、・・・顔することを覚えた。低級な事柄を覚えてしまったものだ。これも人類にとっては、学習の一種なのだろうか。しかし、3.5次元の生命体から6次元の生命体が学習するということは、本当には起こりえないと思う。高次元の方が低次元の方が繊細で複雑で上級なのだから。」

「人をバカにしているわね。そんなことはいいから、一体、私は誰に会えばよいの?」

「その前に知ってもらわなければいけないことがある。」

「何?」

「今とは何か?」

「禅問答みたいね。」

「さっき、次元が異なると、「確実には、出会えない」と説明したが、今と少し前の今でどちらが正しいのか? それとも両方共、存在して、どちらも正しいのか?

答えは、どれだ?」

「両方とも存在するが、それぞれの「その時の今」がある。」

「そうだ。だから、3.5次元で君に会いに来た。一緒にある人物に会う。」

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