第3話

 


 アレン様に手を引かれながら、結婚式場を出て、披露宴会場へ向かう。


「……」


 心を読める力ーーー私はずっと、この力と共に過ごして来た。この力が、ただの私の妄想、幻聴だなんて、思いたくない。

 本当に……私が心の声を読めるならーーー私が読んだ、アレン様の心が正しいならーーーアレン様は、私を花嫁として歓迎してくれている。


「アレン様!あの……お願いがあるのですが……」


 私はアレン様を呼び止め、血も涙も無いと噂される悪魔の公爵様に、恐れ知らずにも、お願い事をしてみた。

 心を読める、自分の力を信じてーーー




 ***



 ーーー披露宴会場。



「ふふ。カリアったら、本当に滑稽だったわね」

「そうね。ラドリエル公爵の花嫁に相応しく無い陳腐な指輪もだけれど、まさか誓いのキスを拒まれるなんて、花嫁として惨め過ぎるわ」


 カリアの義理の母 《スミン》、姉 《マーガレット》の二人は、披露宴会場のテーブル席に座りながら、クスクスと、結婚式での話を小馬鹿にするようにしていた。


「グレイドル男爵夫人、グレイドル男爵令嬢、この度はカリア嬢のご結婚おめでとうございます」

「《ユーリ》様ぁ♡」

「あら。《トランス伯爵》様。この度は出来損ないの娘の結婚式にご足労頂き、誠にありがとうございます」


 スミンとマーガレットが座る親族席に、挨拶を済ましたユーリは、そのまま腰掛けた。


「いえいえ。愛するマーガレットのためなら、喜んで参加させて頂きますよ」

「ありがとうございますわ、ユーリ様」


 マーガレット=グレイドル男爵令嬢の婚約者であるユーリ=トランス伯爵は、マーガレットの手を取ると、手の甲に口付けた。


「まぁ、相変わらず仲良くやっているようで良かったわ」

「おかげさまで。こんなに素敵で可憐なマーガレットが俺の婚約者で嬉しいです。しかし、妹の婚約者であるアレン様と比べると、俺は伯爵位だし、戦果も彼ほどあげていません。こんな俺が、美しいマーガレットに相応しいか、少し不安になってしまいます」

「そんな!例え公爵であろうと、皇帝陛下に気に入られていようと、あんな野蛮な方と結婚なんて、冗談じゃありませんわ!」

「そう言ってもらえて嬉しいよ」


 言葉では不安だと口にしていたが、マーガレットがそう答えると分かっていて、わざと口にしたのだろう。予想通りの言葉を貰え、ユーリは満足したように微笑んだ。


「そうですわ。大切な私の娘を、悪魔の公爵なんかに渡すわけには参りません。結婚生活でいつ、悪魔の逆鱗に触れて殺されるか、分かったものではありませんわ」


 スミンもまた、マーガレットの意見に同意した。


「実は、アレン様とは学生時代に面識があるんですが、当時も彼には良くない噂が飛び回っていましてね、教師に成績を上げるように脅迫したとか、気に食わない生徒を半身不随にさせたとか、気に入った女子生徒を監禁したなんて話もありましたね」

「まぁ!そんなことを?!」

「それでは、今までの婚約者と妻が逃げ出すも無理はありませんわね」


 ユーリの話は、スミンとマーガレットの気分を良くさせた。

 もとより、カリアのためと言いながら用意したこの結婚は、ラドリエル公爵が払う多額の結納金が目当てだが、それだけでは、カリアの結婚相手には選ばない。二人とって重要なのは、カリアがいかに不幸になるかで、悪魔の公爵と呼ばれるアレン=ラドリエルは、最も都合が良い相手だった。

 お金も手に入り、カリアも地獄に落とせる。


「わざわざ黒のウェディングドレスを用意してあげた甲斐がありましたわね」

「本当。悪魔の嫁に相応しいわ」


 結婚式、花嫁に相応しくない黒のウェディングドレス姿で現れたカリアを、アレン様は不快に思うに決まっている。


「どうしましょうお母様、私達の大切な妹が、結婚初夜に殺されでもしたら」

「ふふ。結婚初夜に殺される花嫁なんて、可哀想で仕方無いわ。でも、アレン様に目をつけられるのは御免だから、あの子のお葬式には参列しないことにしましょう」

「お二人とも、気が早いですね」


 口では大切や可哀想と口にしながら、彼女達は心からカリアの不幸を願った。




「あはは……!」


 急に、会場内の明かりが暗転し、音楽が鳴り始め、三人だけでなく、披露宴会場に集まった全員が、ざわついた。


「何でしょう?披露宴の演出でしょうか?」

「……おかしいわね、こんな演出、頼んでいないはずなのですけど」


 ユーリの問いかけに、スミンとマーガレットは首を傾げた。

 カリアの披露宴だが、その全ての準備は、二人が自分達に都合の良いように、カリアが惨めでいれるように、仕組んだ。

 披露宴も、カリアにはドレスチェンジさせず、そのまま黒いウェディングドレスで登場させ、音楽も何も流さない、誰も祝辞を述べない、お祝いもしない、静かな披露宴を計画した。


「大体、アレン様は早く終わらせて帰りたいからって結婚式場から出て行ったのに、私達、大分待たされていますわよね」

「そうだね。俺はてっきり、アレン様は披露宴をせずに帰ったと思っていたけど」

「どうなっているのかしら……」

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心が読める令嬢は冷酷非道な公爵に溺愛される。 hikariko @hikariko

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