2章 第10話
「っ! ビックリした。カイトさんはアイテムボックス持ちだったんですね」
「あ、驚かせてしまってすみません。ちょっと考え事していたもんで」
どの魔導具が衰弱の呪いを相殺出来るのか考えていたせいで、イレーヌさんを驚かせてしまったようだ。
「お兄ちゃん、それは?」
「これか? これは魔導具だよ」
「それも魔導具⁉」
アミィが驚いているが、今はスルーだ。
今はどれが目当ての魔導具か考えないと。
「演算能力強化は……多分違うよな。演算能力が上がった所で衰弱が治るとは思えないし。となると……」
残るは「筋力強化」か「活性化」のどっちかという事になるけど、どっちだこれ?
なんかどっちもあり得そうな気がするけど。
どうしたものか。いっそ二つとも付けて貰って様子を見るか?
……いや、ちょっと待て。確か衰弱って、体の働きが衰えていく事だったような気がするんだけど。
もしそうなら、筋力強化の魔導具をを付けたとしても、一時的には良くなるかもしれないが、その後はまた徐々に弱っていくだけだろう。
だとすると。
「活性化が正解か?」
確かに「活性化」なら、全身の働きというか、細胞を活発にしているようだし、衰弱の呪いを相殺出来そうなイメージはある。
……試してみるか。仮に間違いだったとしても、別にそれで問題が起こる訳でもないし。
「あの、イレーヌさん。もしよかったら、これを付けてみて貰えませんか?」
「はい? それは?」
俺は手元の指輪から、活性化の指輪を選んでイレーヌさんに差し出した。
「え? お兄ちゃん、それって……え、えええええぇぇぇぇぇぇ⁉」
ワナワナと震えながら指輪を指差すアミィは、次の瞬間部屋中に絶叫を響き渡らせた。
アミィ、お前多分何か勘違いしているよ?
「お兄ちゃん‼ 何ウチのお母さんを口説こうとしてるの⁉」
ほら、やっぱり変な勘違いしてた。
ていうかこの指輪は魔導具だって言ったじゃん。
「アミィ、これは魔導具だってさっきカイトさんが言っていたでしょ?」
「え? ……あ」
イレーヌさんに言われ、ようやく気が付いたのか、アミィは口元に手を当ててはっとしていた。
そしてみるみる内に真っ赤になっていき。
「ご、ごめんなさい! 私、勘違いしちゃって!」
「うん、そうだと思った。いいよ、気にしなくて」
何を勘違いしたのかはこの際聞かないでおこう。それが優しさというものだ。
それよりも。
「それじゃあ改めて。イレーヌさん、これを付けてみて下さい」
俺はイレーヌさんに活性化の指輪を手渡し、付けてみるように促した。
「えっと、これを付ければいいんですか?」
イレーヌさんが受け取った指輪を見ながら、確認するように尋ねてきたので「はい」と答えた。
イレーヌさんは少しの間考えると、自らの右手の指におずおずと指輪を付け始めた。
「……どうですか?」
指輪を付けたイレーヌさんに尋ねてみた。
正直すぐに効果があるのか、それともしばらく時間が掛かるのか。それすらよく分からないからな。
「そうですね。今の所特に変わった感じはしませんけど」
「そうですか……念の為、しばらくの間付けたままにしておいて貰えませんか?」
もしかしたら時間差で少しずつ効いて来るかもしれない。
一週間ぐらい付けてれば何かしらの変化が起こる可能性もある。
「ええ、それは構いませんけど。カイトさんはいいんですか?」
「? 何がですか?」
俺は別に関係ないと思うけど。
「お兄ちゃん、この魔導具ってすごく高価な物なんだよね? それをこんなに簡単に渡しちゃっていいの?」
「ん? ああ、そういう事か」
つまり二人は、魔導具なんて高価な物をポンポン渡して大丈夫なのかって言いたいのか。
「別に気にしなくていいって。俺がやりたくてやっている事だから」
さっきの二人を見たら、余計に放っておけなくなってしまった。
もしこれで少しでも良くなるなら儲けもんだろ。
「お兄ちゃん……ありがとう、お兄ちゃん」
アミィは嬉しそうな、でもどこか悲しそうな笑顔を浮かべてお礼を言うが、俺が見たい笑顔はこれじゃない。
俺が見たいのは、もっと元気一杯で、花の咲いた様な満面の笑顔なんだ。
「……それじゃあ、俺はこの辺で」
「あ、ごめんねお兄ちゃん、急にこんな所まで来て貰って。それじゃあお母さん、私ももう行くね」
「ええ。私の事はいいから、くれぐれも無理はしないで頂戴ね」
アミィは慌てて入口まで来ると、扉を開けて俺を先導するように部屋を出て行った。
「カイトさん、ちょっといいですか?」
「はい? 何ですか?」
俺もそれに続いて部屋を出ようとすると、イレーヌさんから呼び止められた。
「あの子は――アミィは本当にいい子なんです。それなのに、私の為にあんな……。カイトさん、あの子の事、これからもどうかよろしくお願いします」
「……イレーヌさんも、でしょ? 早く良くなって、アミィを安心させてあげないと」
「ふふっ、そうですね。お引止めしてしまってすみませんカイトさん」
「いえ、それでは、また」
俺は儚げな笑顔を浮かべるイレーヌさんを横目に部屋を出て行った。
その後、酒場でアミィと一旦別れ、部屋に戻ってしばらくストレージ内の整理をしていた。
整理と言っても、ストレージは勝手に整理されるから、やってるのは在庫確認の様なものだが。
「それにしても、イレーヌさん若かったな」
とてもアミィみたいな年の子がいる様には見えなかった。
「あれ多分三十ぐらいだよな。若返る前の俺と同い年ぐらいか」
この世界って結婚年齢低いのかな?
「カイトさーん! そろそろ朝食に行きませんか?」
「あ、もうそんな時間か」
考え事をしていたら、いつの間にかそんな時間になっていたらしい。
全然気付かなかった。マリーに声を掛けられなかったら、下手するとずっと気付かなかったかもしれない。
「分かった、すぐに行くから先に行って待っていてくれ!」
「分かりました。それじゃあ先に行ってますね!」
そう言い残し、マリーの足音は部屋の前から遠ざかっていった。
「さてと、それじゃあ着替えてさっさと行きますか」
俺は手早く着替えを済ませ、部屋を出て酒場に向かうと、既にマリーとフーリが席に座り、俺の事を待っていた。
「お、来たかカイト君」
「悪い、待たせたか?」
「いや、私達も今来た所だ」
「そうか、なら良かった」
俺は開いている席に座りながらほっと息を吐いた。
「それじゃあ朝食にしましょうか。アミィちゃん、朝食お願い!」
「はーい。あ、お兄ちゃん! ちょっと待っててね!」
さっき別れたばかりだというのに、アミィはもう酒場で働いていた。
本当、あの年でよく働くよな。
やっぱりイレーヌさんの為なんだろうな。
「お待たせしました! これが今日の朝食です!」
俺達の目の前に置かれたのは、パンとスープ、それにサラダの三品だ。
そう、三品の筈なんだ。だって二人は三品なんだもん。
「アミィ?」
「何?」
気の所為か、俺の目の前にステーキがある様に見えるんだけど。
「……いや、何でもない」
「ん? そう? それじゃあごゆっくり!」
アミィは屈託なく笑い、そのまま去っていった。
あまりにも純粋無垢な表情をしていた為、俺はそれ以上ツッコむことも出来なかった。
後に残された俺達三人の間に微妙な空気が漂う。
「カイト君、一体何をしたんだ?」
「アミィちゃん、すっごく機嫌良さそうでしたけど……」
「あ、あはははは」
訝し気な視線を送ってくる二人に、俺は乾いた笑いを返す事しか出来なかった。
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