2章 第11話

「カイトさんって、異世界人だからか、この世界の常識に疎いですよね」

「うん、自覚はある」


 あの後、今朝あった事を二人に説明すると「あー、そういう」みたいな顔をされてしまった。


「魔導具をプレゼントしただけじゃなく、イレーヌさんの事までどうにかしようとするとはな。まったく君という奴は」

「いやだってさあ。あんなの見ちゃったら、流石に放っておけないって」


 アミィはまだ子供と言って差し支えない――ていうか子供なのに、あんなに苦労しているんだ。

 それにあんなに辛そうな顔……どうにかしてあげたいって思うのは、普通の事だろう?


「まあ確かにアミィちゃんはすごく苦労していると思いますけどね。あの年で、イレーヌさんを看病しながら、宿屋の仕事までやるなんて。普通なら出来ませんよ」


 だよなぁ。そんなの大人でも投げ出したくなるレベルの重労働だ。

 まだ遊びたい盛りだろうアミィが、無理をしていないとはとても思えない。


「まあ、イレーヌさんの事は、私達もどうにかしたいと思っていたから、カイト君のやった事には、個人的に感謝している」

「私もです」

「そうなのか?」


 ていうか二人共、イレーヌさんの事知ってたんだな。

 知らなかったのは俺だけか。


「それで、どうなんだ?」

「どうなんだ、というと?」

「イレーヌさんの事だ。魔導具を渡したと言っていたが、それで治りそうなのか?」


 ああ、その事か。


「正直なところ、まだ何とも言えないな。ナナシさんは、俺が持っている魔導具で衰弱の呪いを相殺出来るとは言っていたけど、治せるとは言ってなかったし」

「ナナシさんって、例の仮面を付けたあの人ですよね?」

「ああ、そうだな」


 そういえばマリーは俺と一緒に一度会ってるんだったな。

 あの時はまさかこんなに関りを持つ事になるとは……なるかなぁ、とは思っていたけど、こんなにお世話になるとは夢にも思ってなかった。


「その、ナナシさん? という人は、カイト君に強くなって貰いたいという理由で、どの魔導具を使えば効果があるかまでは教えてくれなかったのか」

「そうなんだよ。まあ俺が持っている魔導具の数なんてたかが知れてるし、ダメなら総当たりで試すつもりだけど」


 まあ正直残り二つの魔導具なら、筋力強化一択だろうから、実質二択だけど。


「でも、俺の魔導具で出来る事は、あくまで衰弱の呪いの相殺で、本当に衰弱の呪いを治したいなら、解呪のスキルは絶対に必要になるみたいだけど」


 魔導具で治るのならそれに越した事はないけど、世の中そんなに甘くないという事か。


「いや、スキルを相殺出来るなんて話初めて聞いたぞ」


 え? そうなの? でもナナシさんは当たり前の様に相殺出来るって言っていたけど。


「だが、そうか。完全に治る訳じゃないのか」


 俺の言葉に、フーリは少し残念そうな顔になったけど、それは俺にもよく分かる。


「それでも、少しでも可能性があるなら、それに賭けてみる方がいいに決まっていますけどね」

「だよな。そう言って貰えて嬉しいよマリー」

「えへへ、そうですか?」


 ふにゃっとはにかむマリー。かわいい。

 でも、そうか。やっぱり僅かな可能性に賭けてみるのはアリだよな。

 そんな事を考えていると。


「お待たせしました。今日も賢者の森ですか?」


 ギルドの受付嬢、エレナさんが姿を現した。

 現在、俺達は冒険者ギルドの受付に来ており、エレナさんはその受付を担当してくれていた。


 受ける依頼はいつもと同じ、賢者の森のゴブリン討伐と薬草採取。

 シンは倒したが、他に異常が無いかの確認も兼ねて、俺達も今日までは賢者の森で活動しようという事になっている。


「はい、今日までは賢者の森に行きます。明日からどうするかは決まっていませんけどね」

「そうですか。気を付けて下さいね。特にカイトさん! 絶対に無茶しちゃダメですからね!」

「わ、分かってますって」


 随分と疑われたものだ。


「自業自得だな」

「自業自得ですね」

「ぐぬっ」


 いや、二人までそんな事言って。

 確かにそうなんだけど、もう少し俺の味方をしてくれても良くない?


「さ、さあ、早く行こうか!」


 その場に妙な居心地の悪さを感じた俺は、クルッと後ろを向き、早々とその場を立ち去ろうとしたのだが。


「おい、ちょっといいか?」


 すぐそばから聞き覚えのある声に呼び止められた。

 この声は……。


「ヴォルフ? それにロザリーさん? えっと……久しぶり?」


 目を覚ましてから一度も会っていなかった人狼族の青年ヴォルフと、その後ろに遠慮がちに立つ、同じく人狼族の女性、ロザリーさんの二人がそこにいた。


「おう、その、なんだ。カ……久しぶりだな」

「? ああ、久しぶりだな?」


 なんだかいつものヴォルフらしくないな。いつもなら「ようルーキー。なんだ、依頼か?」ぐらい言いそうなものだが。

 俺が首を傾げていると、俺の服の裾をクイクイとマリーが引っ張ってきた。


「カイトさん。ヴォルフさんはきっと、この間のお礼を言いたいんですよ」


 俺の耳元まで顔を寄せ、小声で語りかけてきた。

 い、息が。吐息が耳にかかってくすぐったいんですけど。


「カイトさん? 聞いていますか?」

「あ、ああ。聞いてる聞いてる」


 俺がそう言うと、マリーは納得して耳元から顔を離してくれた。

 びっくりしたな、もう。


「ほらヴォルフ。言わないんだったら私が代わりに言うわよ?」

「わぁーってるって! 言うよ言いますよ! この前は助かった、ありがとうよ!」


 ロザリーさんに急かされたヴォルフから、半ば投げやり気味にお礼を言われた。


「あ、ああ。分かった」


 俺は別にお礼をいわれる事はしてないと思っていたのだが、ヴォルフの勢いについ頷いてしまった。


「まったくヴォルフは。すみませんカイトさん。それと、先日は助けて頂いて、ありがとうございました」

「え? あ、はい。どういたしまして?」


 流れる様なロザリーさんの言葉に、反射的に頷く。


「カイトさん達はこれから依頼ですか?」

「ええ、そうですね。ちょっと賢者の森まで」

「そうですか……そうだ!」


 ロザリーさんは両手をパンっと叩き、いい事を思いついたという表情をしていた。


「その依頼、私達もご一緒してもいいですか?」

「え?」

「おいロザリー⁉ 何言って「ゴンッ!」――っ! いってぇ!」


 ロザリーさんの提案を聞いたヴォルフが慌てて口を挟もうとした。が、ロザリーさんに足の爪先だけを踏み抜かれて悶絶していた

 うっわぁ、めっちゃ痛そう。ゴンッていったぞ今。


「えっと……二人はどう?」


 少し考えた末、ヴォルフの事はスルーする事にして、二人に問いかけた。


「私は別に構わないぞ。面白いものも見れたしな」


 と、ヴォルフを見て笑いながらフーリは賛成。


「私も。久しぶりに一緒に冒険だね、ロザリーちゃん!」

「うん、よろしくね、マリー!」


 互いに手を合わせ、仲良さそうにしながらマリーも賛成。


「俺も別に構わないですけど」


 そして俺も賛成。残るは……。


「ってて……あ? ンだよ全員揃ってこっち見て」

「いや、あとはヴォルフだけなんだが」


 未だに爪先を押さえながらも、徐々に状況を理解出来てきたのか。


「……あー、そういう事か。分かったよ、行きますよ。行きゃいいんだろ!」


 既に反対できる空気じゃない事を察し、ヴォルフはやけくそ気味に頷いた。

 なんか、ヴォルフが不憫に見えてしまった。

 爪先大丈夫かな? あ、まださすってる。相当痛かったんだな。


 俺が無言でポーションを差し出すと、一瞬考える様な仕草を見せた後、ヴォルフも無音でそれを受け取った。






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