2章 第2話

「串マシンガン!」

「グガァァァァァ、ア、ア……」


 オーガに向けて串マシンガンを放ち、トドメをさす。うん、調子は悪くない。

 シンとの死闘から数日経ち、体調も大分回復した俺は、賢者の森にゴブリン退治と薬草採取に来ていた。


 あの日、魔導具を使って無理矢理戦闘能力を上げて戦ってから、ストレージの制御が随分楽になった様に感じる。


 最初は気の所為かと思っていたが、もしかしたら成長限界突破のスキルが関係しているのではないだろうか。

 このスキルだけ未だにどんなスキルなのかよく分かっていないし。


「カイトさん、ありましたよ。オーガの魔石です」

「あ、分かった、今行く」


 マリーに呼ばれ、俺は一度思考を中断してマリーの元に向かう。

 そこにはオーガの魔石片手に俺に手を振るマリーと、今の戦闘を腕を組んで観戦していたフーリの姿がある。


「ふむ、何度見ても驚かされるな。カイト君の「ストレージ戦法」というものは」

「まあ、戦法なんて大それた事言ってるけど、実際の所魔導具の底上げ無しで出来る事なんて、まだそれほど多くないけどな」

「いや、それでも充分すごいぞこれは」

「そうかな?」


 実際魔道具の底上げが無いと、シンと戦った時ののような力は出せない。

 フーリの買い被り過ぎじゃないか?


「まあ今はそれでいいとして。重要なのはここからだ」


 ……ですよねぇ。まあもう諦めてるから別にいいけど。


「はい、カイトさん。オーガの魔石です。これで魔導具を作って見せて貰えますか?」

「何度も言ったけど、確実に作れるかどうか分からないからな?」


 正直どうすれば魔導具を作れるか、イマイチ分かってないんだよな。

 一応二人には先に説明しとかないと、あらぬ誤解を与えてしまうかもしれない。


「はい、それは大丈夫です。そんな事より、早く見せて下さい! 魔石から魔導具が作れるなんて、前代未聞なんですから!」


 マリーが興奮気味に詰め寄ってくる。


「そうだぞカイト君。それが事実なら、魔導具の常識が根本から覆る事になる」


 あれ? フーリまで?

 いや本当、どうしてこんな事になったのか。

 それを説明するには、話を数日前まで遡らなければならない。




「お兄ちゃん、本当にありがとう! 一生大事にするね!」


 満面の笑みで心から嬉しそうにしているアミィ。そんなに喜ばれると、こっちも嬉しくなってくるんだけど、残念ながら今はそんな事を考えている余裕はない。


「さあ、カイトさん。詳しく説明して下さい。あの髪飾りは魔導具なんですか?」

「あれが魔導具だというなら、一体どこで手に入れたんだ?」


 今はこの状況を何とかしなくては。

 アミィにプレゼントした髪飾り。あれがまさか魔導具になっていたなんて、あの時は考えもしなかった。


「あー、アレ実は表通りのアクセサリー店で買った物なんだ。もしかして、たまたま魔導具が混じっていたのかな? あは、あはははは、はは、は……」

「「……」」

「はい、すみませんでした」


 偶然手に入った風を装って誤魔化そうとしたが、どうやら無理らしい。二人の無言の圧が怖い。


 俺がその圧に気圧され、どうしようかと考えていると、突然マリーが俺の手を両手で包み込み、上目遣いで俺に視線を向けてきた。


「カイトさん、私達を信じて話してくれませんか? 別にそれをどうやって手に入れていても、それでカイトさんをどうこうしようとか考えていませんから」

「ああ、カイト君は私達にとって大切な仲間だ。仲間をどうこうしようなんて、考える訳ないだろ?」

「二人共……」


 ……そうだよな。俺は何を深く考えていたのか。

 二人とは一週間ちょっとの付き合いだけど、時間なんて関係ない。二人は俺にとって大切な仲間じゃないか。


「何々? 何の話、お兄ちゃん?」


 それまで髪飾りを見てはニヤニヤ笑ったり、たまに火魔法を使ってみては、やはりニヤニヤしていたアミィが、横から俺達の会話に入ってきた。

 一瞬アミィに話していいものかどうか考えたが、すぐにその考えを否定する。


 これだけ懐かれてしまったアミィを、一人だけ除け者にするというのは流石に気が引けるからだ。

 まあアミィになら別に話してもいいだろう。


「そうだな。えーっと、どこから話せばいいかな? 実は……」


 俺は三人に、自分が異世界から来た事。そしてストレージのコマンドについて話す事にした。




 結論から言おう。アミィを含め、三人にはあっさり信じて貰えた。

 というより、予想外の答えが返ってきたのだが。


「カイトさんって、召喚勇者だったんですね。別に「記憶喪失」だなんて嘘ついてまで隠さなくても良かったのに」

「召喚勇者?」


 聞き慣れない……いや、ある意味聞き慣れた単語がマリーの口から聞こえてきた。

 召喚勇者ってあれか? 「異世界から勇者を呼び出して、魔王を倒す」的な?

 え、何? この世界ってそんな事してんの?


「違うんですか?」

「多分違うと思う。俺が賢者の森に転移してきた時、周りには誰もいなかったし。ほら、もし誰かが俺を召喚したんだとしたら、その召喚主が近くにいる筈だけど、誰もいないなんて変だろ?」

「言われてみれば、確かにそうですね」

「だろ?」


 それに俺の場合、誰かに召喚されたんじゃなくて、女神様に転移させられたんだしな。

 まあ、今はそんな事よりも、召喚勇者について詳しく知りたい。

 この世界には、たまに日本を彷彿とさせる文化があるな、とは思っていたんだ。


 もしそれが召喚勇者の影響を受けての事だとしたら、色々と腑に落ちる。それに、実は最近欲しいなと思ってた物もある。

 もしかしたらそれも入手出来るかもしれない。


「だがカイト君。君が召喚勇者じゃないのだとしたら、君は一体どうやってこの世界――ガイアーラに来たというんだ?」

「「どうやって」と言われると、色んな意味で「事故」だった、としか言いようがないな」


 実際俺は交通事故で死んだんだし。この世界にも、あの「ガイア」とかいう女神様に半強制的に転移させられただけだ。


「事故? お兄ちゃん、事故って?」

「ああ、そのままの意味だよ。俺は前の世界――日本という国で、交通事故にあって死んだんだ。で、そのままガイアとかいう女神様に、まともな説明もされないままこの世界に転移させられたんだよ」


 女神様なんて言って信じて貰えるか分からないけど。


「女神だと? しかも、ガイア様? するとカイト君は、ガイア様にお会いしたというのか⁉」

「え? あ、ああ、そうだけど」


 俺が女神様の事を話すと、突然フーリが驚愕の声をあげて俺に詰め寄ってきた。いや、近い。近いから!


 え、ていうか何? あの女神様ってそんなに有名なの? 確かに「自分が管理する世界」とは言ってたけど……。


 でも、それにしては転移先の世界について何も説明してくれなかったけど。それに何か焦っていたみたいなんだよな。


 ……あれ? よくよく考えてみると、あれって実は巷でよく見る「神様のミス」ってやつだったんじゃないか?

 だとするとあれって、俗にいう「駄女神」ってやつだったんじゃ……。


 ……いや、深く考えるのはよそう。例えあの女神様が駄女神だったとしても、貰ったスキルはどれも高性能で便利なスキルなんだ。

 その点については素直に感謝している。


「そうか、ガイア様と。その話が本当なら、なんと羨ましい」

「え、そんなに?」

「あ、カイトさん、ダメです!」

「え?」


 フーリの言葉につい聞き返してしまったが、途端にマリーが止めに入ってきた。

 え、何? 何事?


「さ、さあて、私は後片付けしてきますね!」


 アミィもまるで何かから逃げるかの様に、足早にその場を去っていってしまった。

 なんだ? どうし……。


「カイト君、君は何も分かっていない!」

「うぇぇ⁉ フ、フーリ⁉ 一体どうしたんだ?」


 突然俺の目の前まで詰め寄ってきて、訳の分からない事を言い出すフーリ。

 その距離はほとんどゼロ距離と言って差し支えない程に近い。

 いや、近い近い、本当に近いから!


「あーあ、始まっちゃった。姉さんはガイア様の熱心な信者ですからね。そうなると長いですよ」

「そ、そういう事は先に言ってくれよ!」

「いや、あんな流れる様にガイア様の事が話題になったんじゃ、止めようがありませんよ」


 ぐっ、それは確かに。


「いいか、話はこのガイアーラ創成の時代まで遡るのだが――」


 そこからは本当に長かった。

 話はこの世界の始まりから、女神様がどんな事を成してきたかに繋がり、最近の女神様の在り方についてまで飛躍した。


 気付いたら俺達以外誰も酒場にいなかった。

 次からは絶対フーリの前で女神様の話はしないようにしよう。

 そう心に誓った。






――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

この作品を面白いと感じて下さった方は、フォローとレビューの方をして頂けると大変励みとなりますので、何卒よろしくお願いします。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る