2章 第3話

 そして現在、俺は二人と一緒に賢者の森で狩りをしていた。

 目的は、数日ぶりに依頼を受ける俺のリハビリ。それと手に入った魔石で二人に魔導具を作って見せるという事になっている。


 ちなみに今朝、俺が数日ぶりにギルドに顔を出すと、ギルド内にいた冒険者達からやたらと持てはやされた。どうやらオーガエンペラーを討伐した事に皆驚いるみたいだった。


 ギルド内にはモーヒさんもいたので、宿まで運んでくれたお礼を言っておいたのだが、当のモーヒさんは。


「いや、俺は何もしていない。本当は俺が皆を守らないといけなかったのに、無様に北の平原まで転移させられて……。俺の方こそ礼を言わないとな。皆を守ってくれて、ありがとよ」


 と、逆に感謝されてしまった。

 いや、めっちゃ真面目でいい人じゃんモーヒさん。この外見からは想像がつかない程に。こんなにいい人が、何であんな格好を?


「まあ、今度聞いてみるか。初心者狩りの件と一緒に」

「何か言いましたか?」

「いや、別に何も」

「? そうですか?」


 どうやら言葉に出ていたらしい。いや、別に聞かれて困る事でもないんだけど。

 考えている事を無意識に口に出すのはあまりよろしくないよな。

 あと、エレナさんにめちゃくちゃ怒られた。ていうか泣かれた。泣きながら怒られた。


 一応俺にも事情があったんだけど、あんなに泣きオコ状態じゃ、何を言っても俺が悪いみたいになるので黙って聞き続けていた。


 そりゃ確かに、エレナさんから賢者の森には近づくなって言われていたのに、近づくどころか最深部まで行った俺が悪いんだけど。


 一通りお説教が終わると「次また危ない事をしたら許しませんからね!」という言葉と共に締めくくられた。

 次からは、なるべくエレナさんのいう事は聞くようにしよう。


 ちなみにお説教中、周りの冒険者達は終始ニヤニヤしながら俺に視線を向けていた。その中には当然マリーとフーリの姿もあった。

 二人共絶対面白がってただろ。


 あらかた用事を済ませ、最後にギルド長と話そうと思ったのだが、生憎今は王都に行っていて留守という事だったので、後日改めて顔を出す事にし、そのまま依頼を受ける事にした。


 受けるのはゴブリン討伐と薬草採取。いつもの解毒草の採取が薬草に変わって場所が賢者の森になっただけだ。

 リハビリには丁度いい。


 そして現在。ゴブリン討伐を終え、薬草の採取も一通り済ませ、ついでにオーガも狩った所で、二人に魔導具を作って見せる事になった。


「さあ、カイト君。早速見せてくれないか? オーガの魔石から魔導具を作る所を」

「……一応もう一回だけ言っとくけど、成功するかどうかは本当に分からないからな?」


 正直言って、アミィに渡した髪飾りが魔導具になったのは本当にただの偶然だ。狙ってやった訳じゃない。


「大丈夫ですよ。ちゃんと分かってますから!」


 そういうマリーは本当に分かっているのか、目はキラキラと輝き、好奇心に満ち溢れた表情をしている。

 ……期待されているなぁ。出来れば応えてあげたいけど。

 ま、失敗したらその時はその時だ。


 俺はストレージ画面を開き、青の髪飾りとオーガの魔石を選択し、合成ボタンを押す。

 すると二つのアイテムは合成され、「剛力・水の髪飾り」というアイテムになった。

 ……ん? なんか名前おかしくない?


 アミィに渡した髪飾りは「ピンクの髪飾り(魔)」だったけど、今回は「剛力、水の髪飾り」になっていた。

 (魔)ってついてないよな? 代わりにスキル名が魔導具の名前になってるけど。


 うーん、これは成功、なのか?


「どうしたんだ、カイト君?」

「もしかして失敗しちゃいましたか?」


 俺がしばらく考え込んでいると、それが「失敗したけど言い出せない」という風に見えたのだろうか、二人が心配そうにこっちを見ていた。


「あ、いや、多分成功したと思うんだけど」


 俺がそう言うと、二人は安心したような表情になった後、興奮気味に近寄ってきて。


「み、見せて貰ってもいいですか⁉」

「私にも見せてくれ! 魔石を使った魔導具なんて前代未聞だ!」


 我先にと俺に詰め寄ってきた。

 いや、だから近いって!

 彼女いない歴=年齢の俺には刺激が強すぎる!


「わ、分かった! 分かったから少し離れてくれ!」


 俺がそう言うと、二人は自分達がどれだけ距離を詰めていたかに気付き、慌ててその場から飛び退いた。


「す、すみません、つい興奮しちゃって」

「ああ。流石に興奮しすぎた。すまない」

「い、いや、大丈夫。気にしないで」


 二人が離れてくれた事で、俺は少し落ち着きを取り戻す事が出来た。心臓はまだバクバクいってるけど。


 この二人って、やっぱり姉妹だよな。たまに大胆になるというか、周りが見えてないというか。


 まあとりあえずそれは置いておくとして。


「これがその魔導具なんだけど、アミィに渡した髪飾りと名前が少し違うというか、雰囲気が違うんだよ」

「「?」」


 俺が言っている事がイマイチ分からないのか、二人は小首を傾げている。

 え、何それかわいい。


「まあとにかく使ってみてくれないか?」


 このまま眺めていてもいいけど、それよりも魔導具の性能の確認が大事だ。

 一応鑑定をかけてみたが「剛力・水の髪飾り:剛力・水魔法が付与された魔導具」と出てきたので、問題はない筈なんだけど。


「……姉さん、使ってみたら?」

「いや、私はいいからマリーが使ってみるといい」


 おや? これは……。

 二人はしきりに「いやいや姉さんが」「いやいやマリーが」と譲り合っている。

 どうやら「興味はあるが、使うのは怖い」という感じらしい。


 まあ気持ちは分からないじゃないけど、二人は忘れているんだろうか? その魔導具の製作者が目の前にいる事を。

 俺泣いちゃうよ?




 二人が譲り合っているのを見て、俺が拗ねて膝を抱え、地面に座っていじけていると、流石に自分達の行動を反省したのか、慌てて俺に謝ってきた。


「すみません、カイトさん!」

「いや、悪気は無かったんだ。すまない、許してくれカイト君!」


 いいんだ、いいんだ。どうせ俺の作る魔導具なんて。

 俺はその場で「のの字」を書き始める。


「わ、私が使ってみますね! ね、カイトさん! ほら、付けますよ!」


 やたら使う事を強調して髪飾りを付けるマリー。

 流石にいじけ過ぎたかな?

 そんな事を考えていると、いつの間にかマリーが髪飾りを付け終えていた。


「どうだマリー? 何か変化はあるか?」

「うーん、どうだろう? これだけじゃよく分からないな。カイトさん、この魔導具には剛力が付与されているんですか?」

「え? いや、剛力と水魔法の二つだけど?」

「……え? 二つ?」


 ん? 俺何か変な事言ったか?

 オーガの魔石と水の魔石を使ったから、二つ付与出来た筈だ。

 鑑定でもそう出てたし。


「カイト君、もしかしたら私の聞き間違いかもしれないんだが。今「剛力」と「水魔法」が付与されていると言ったか?」

「うん? 言ったけど?」


 何? 何か変だったか?


「二つのスキルが付与された魔導具。しかも剛力と水魔法なんてレアスキル、売れば大金貨十枚はくだりませんね」

「ファッ⁉」


 この魔導具そんなにすんの⁉ 銀貨一枚で買った髪飾りとオーガの魔石で作っただけなんだけど⁉ 材料費銀貨二枚もかかっていませんが?


「カイト君は本当にこの世界の常識を知らないんだな。普通市場に出回っている魔導具には一つしかスキルは付与されていないんだ。二つ以上スキルが付与された魔導具なんて、滅多にないぞ」


 ええ、マジか。

 アミィにあげた髪飾りも多分二つ付与されている筈なんだけど。

 そう、ふた……つ?


「あっ」

「どうしたんですか、カイトさん?」

「え? いやいや、別に何でも?」


 そういえばアミィに渡した髪飾りって赤と白を混ぜたよな?

 背中を冷や汗が伝うのを感じる。


 まさかそんなに高価な物だとは思わなかった。いや、高価な物になっているとは思わなかった、か。

 とにかく、これって結構不味いんじゃ?


「カイト君、もしかしてなんだが」

「さあマリー! 早速使ってみてくれ!」


 出来ればフーリが気付く前に。


「え? あ、はい、そうですね」


 マリーはそう言うと、両手で杖を構えた。

 帰ったらアミィの髪飾りに鑑定かけないとなぁ。






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