1章 第31話

 まずはホーンラビットの跳躍突進(命名 俺)を回避し、そのままホーンラビットに向けてストレージを展開。そして……。


「射出!」


 岩を弾丸の様なスピードで射出するイメージで取り出す。

 すると予想通り、ストレージから岩が勢いよく飛び出してきて、ホーンラビットに直撃した。


 断末魔の声すら上げる事も出来ず、潰れた肉塊へと姿を変えるホーンラビット。一瞬の出来事だった。まるで交通事故にでもあったかのような。……う、頭が。

 とはいえ、あまり気持ちのいい光景じゃないな。次からは別の物を射出しよう。


 ホーンラビットの肉塊と魔石、そして岩をストレージに収納し、次の獲物を狙う。

 次はあそこにいるゴブリン達だ。


 今の音で俺の存在に気付いたゴブリン達が、こっちに向かってきている。が、足が遅い為、時間がかかっているようだ。


「この隙に、今度はストレージを二面展開してみるか」


 目の前にストレージを二つ横並びで展開するイメージで使ってみた。だが、これがなかなか時間がかかる。


 なので、ゴブリンの足が遅いのは俺にとっては好都合だった。

 なんとか展開し終える頃には、ゴブリンは残り五メートル程の場所まで来ていた。


「ギリギリ間に合ったな。今度も岩でいいか」


 二つのストレージから岩を同時に射出するイメージで。


「射出!」


 両面から射出された岩は、まっすぐゴブリンに向かって飛んでいく。

 片方は見事に命中し、そのままゴブリンを肉塊へと変えたが、もう片方は命中する直前にゴブリンがコケてしまい、外れてしまった。


 すぐに起き上がり、俺に飛び掛かってくるゴブリン。咄嗟に棍棒で攻撃を受け止め、右足でゴブリンを蹴り飛ばす。


 地面を二、三度バウンドし、ゴロゴロと転がるゴブリン。

 なんとか立ち上がるが、ダメージが結構入ったのか、よろよろとした動きになっている。


「よし、今度はこれを」


 一度ストレージを解除し、今度は目の前に展開。次は串が連続で射出されるイメージを頭に思い描く。要はマシンガンみたいなものだ。

 それをゴブリンに向かって。


「射出!」


 思い描いたイメージ通りに射出される木の串計五十本。


 いくら材質が木でも、銃弾の様な速度で射出されたそれは、硬い皮膚を持たないゴブリンぐらい軽々と貫通する。それを五十発もくらうという事は。


「ハチの巣、って言葉が一番しっくり来るな」


 全身至る所に風穴を空けたゴブリンは、その場で音もなく絶命していた。

 自分でやっておいてなんだが、オーバーキル過ぎるだろこれ。マリーのアイスアローといい勝負じゃないか?


 あっちよりは小さいが、数ならこっちが多い。と、今はそんな事どうでもいいか。


「とりあえず二体の死骸と魔石、あとは岩と串も回収しておかないと。勿体ないし」


 あーあー、あんなに散らばっちゃって。

 回収が面倒だが、仕方ないか。さっさと済ませて次に行くとしよう。


 そこから更に三十分程歩くと、さっきよりも多くの魔物の気配が探知出来た。


 パっと見の数と、気配探知に引っかかる数に違いがあるって事は、それだけ身を潜めている魔物が多いという事だろう。


 それが、俺という人間が訪れた事による警戒心からか、それとも別の理由なのかは分からないけど。


「まあ、やる事は変わらないか」


 数が増えようが、隠れていようが関係ない。俺がやる事はさっきと同じ。ストレージを使った戦闘の訓練だ。

 俺は茂みに潜む魔物に向かって、再び石を投げつけた。




 数時間後


「何とか同時に三面までなら同時に展開出来る様になったけど、これきっつ」


 射出のイメージは思ったより簡単だった。というより、この使い方は銃みたいなイメージで使えるから、漫画なんかでよく見てた分、割とイメージしやすかったっていうのが本音だ。


 問題はストレージの同時展開の方。こっちは本当に難しい。

 ただ展開するだけなら意外と簡単だったけど、問題は好きな場所に展開するのと、動きながら展開する事。


 この二つは本当に難しい。

 好きな場所に展開するといっても、どのぐらいの大きさで、どこに展開するかを二つ以上考えるとなると、なかなかどうして。


 同じ場所に二重に展開したり、上手く展開出来たとしても、それまでに時間が掛かり、棍棒で殴り倒すが早かったりする。

 要は、軽く脳のキャパオーバー気味になるのだ。


 動きながら展開は、自分の近くに展開したまま移動するのは簡単なんだが、問題は一か所に固定したままの移動。


「視線が釘付けになるんだよな」


 展開場所を見つめながらの移動になるため、周りがあまり見えなくなるから、単純に考えて危ない。


 何度か「気付いたら目の前にゴブリンがいる」という状況に陥ってしまったぐらいだ。

 幸い、ゴブリンなら咄嗟の行動でも充分対応出来るようになってきた為、事無きを得ているが、これがもしオーガとかだったらかなり危険だ。


 と、長々と考察してみたが、要するにだ。


「単純に、並列思考……マルチタスクってやつが出来ないからだろうな」


 俺ってそんなに器用な方じゃないし。どちらかというと一点集中型だ。

 多分何度も続けていく内に慣れるとは思うけど、これは時間が掛かりそうだな。

 と、そんな事を考えている時だった。


 気配探知に突然大きな気配が引っかかった。

 それと同時に、背後から「ズシンッ」という重低音の足音の様な音が聞こえてきた。思わずそちらを振り返ると。


「ウガァァァァッ!」


 一週間程前に見た巨人、オーガがそこに立っていた。

 心なしか、前回見た時よりも一回りぐらい小ぶりな気がする。


「は? ……え、何で!? 何でオーガがいきなり!?」


 明らかに不自然だった。少なくとも今日は気配探知を切った記憶は一切ない。

 いくら魔物退治に集中していたとはいえ、こんな大きい魔物がすぐ近くまで来ているなら、流石に気付く筈だ。


「一体何で?」

「ガァァァァ!」

「っ!?」


 っと、今はそんな事を考えてる場合じゃない! 咄嗟に身を落とし、オーガが横薙ぎに振るった金棒をギリギリの所で回避した。


 数瞬遅れてやってくる風圧を受け、髪の毛が数本はらはらと宙を舞う。

 危なっ! 直撃してたらタダじゃ済まなかったぞ。


 地面を蹴り、跳躍スキルで一気にオーガと距離をとる。

 さて、どうしたもんか。出来れば逃げたい所だけど、流石に無理かなぁ。隠れる場所も無いし。


 跳躍を連続で使い続ければ逃げ切れるかもしれない。でも、もし逃げきれたとしても、街までオーガを連れて行く事になる。

 Cランク以上の冒険者が討伐隊として招集されている以上、今街へコイツを連れて行くのはかなり危険だ。


 だったら、ここで倒すしかない、か。

 出来るだけ近づかないようにしたい所だけど……とりあえずストレージ展開。オーガの目を狙って串マシンガンを放ってみた。


 これで上手く直撃してくれれば、あっさり倒せるかもしれない。だが。


「硬いな」


 何もない空間から突然飛んできた串にオーガは驚いていたが、金棒を目の前に構える事で急所へのダメージを防いでいた。

 流石に金棒には負けるか。


 しかもオーガの皮膚はそれなりの硬度を持っているのか、防ぎきれなかった串が何本か命中していたが、それでもオーガの肉を浅く突き刺すのが限界だったようだ。


「マジかよ。ならこれはどうだ?」


 今度はオーガの頭上十メートルぐらいの位置にストレージを展開し、岩をオーガ目掛けて射出した。

 初めてゴブリンの特殊個体を倒した時に使った戦法だ。これなら。


「っ!? ガァ!」


 突然出来た影に驚いたオーガは、空を見上げるのと同時に金棒を振り上げて、落下してくる岩を砕いた。


 金棒に砕かれた岩の破片が飛んでくるが、正面にストレージを展開して身を守る。

 名付けるなら「ストレージシールド!」 と、今はそんな事言ってる場合じゃない!


「このオーガ、強い!」


 ストレージ戦法を二つも打ち破られた。この分だと、正面から岩を射出した所で結果は同じだろう。

 なら、魔法で……!?


「ウガァァ!」


 そんな事を考えている時だった。今まで一切反撃してこなかったオーガが、突然雄たけびを上げながら突っ込んできた。

 咄嗟に棍棒で迎え撃ち、オーガが振るった金棒と鍔迫り合いになる。


「ガァ!」


 身体強化と剛力のおかげで何とか拮抗していたが、オーガの口から突然火の玉が俺に向かって飛び出してきて、その均衡はあっさりと崩れ去る。


「うわっ!」


 反射的に身を屈めてしまった俺は、オーガに蹴り飛ばされてしまい、地面を何度かバウンドしながら転がり、少ししてから止まった。


「ぐっ!」


 全身に走る痛みに、思わず呻き声を上げてしまう。

 しかし、そんな事関係ないとばかりに追撃を仕掛けてくるオーガ。

 俺を叩きつぶそうと振り上げられた金棒が目に映る。


 あ、これ死んだ。

 身体は思う様に動かない。棍棒で受け止める事も、転がって躱す事も出来ない。どうしようもない、詰み。


 俺は死を覚悟して、両目を瞑った。


 ……だが、いつまで経っても金棒で叩き潰される事はなかった。

 不思議に思い、両目を開けてみると。


「危ない所でしたね」


 そこには例の仮面を付けた屋台の店主が、オーガの攻撃を片手で受け止めたまま、俺の目の前に立っていた。

 え? この人本当に人間?

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