1章 第14話 冒険者ギルドで一波乱の予感?

 マリー達の部屋を訪ねてみたが、二人共既に部屋にはいなかった。なので、とりあえず酒場に来てみると、そこには既にテーブルに着いた二人の姿が。


 俺と目が合うマリー。

 マリーはおもむろに席から立ち上がると。


「先ほどは大変申し訳ございませんでした」


 ほぼ直角に腰を折り、綺麗なお辞儀と共に謝罪。

 うわぁ、営業マンも裸足で逃げ出しそうな、見事な謝罪だ。


「う、うん。まあ気にしな……いのはダメだけど、次からは気を付けて」



 また同じ事をされても困るし。


「はい」

「まあ、過ぎた事だし、もう気にしないで。ほら、座って」


 シュンとなったマリーを席に着かせ、俺も同じテーブルに着いた。


「おはようカイト君。妹が朝から失礼した」

「ああ、おはようフーリ。まあ、うん」


 フーリに挨拶を返しながら看板娘――アミィの姿を探す。

 すると、店の奥から小走りでこちらに駆け寄ってくるアミィの姿を見つけた。


「おはようございます、皆さん! 昨日はよく眠れましたか?」


 もしかしてとは思ったけど、まさか本当にいるとは。昨日あの後も働いていた筈なのに。これが若さという奴か。いやまあ、俺も若返ってるから充分若いんだけど。


「ああ、おはようアミィ」

「おはよう、アミィちゃん」


 フーリ達がアミィに挨拶を返す中、俺は一つ気になる事があった。


「アミィこそちゃんと寝たのか? 昨日も遅くまで仕事してたんだろ?」

「はい! しっかり寝たのでバッチリですよ!」


 そう言うアミィの笑顔は昨日と同じ、見ているこっちまで笑ってしまいそうになる笑顔だった。

 確かにあまり疲れてる様には見えないけど。


「それより、皆さんお揃いの様ですので、すぐに朝ごはんをお持ちしますね!」


 そう言って酒場の奥に消えていくアミィ。

 よく働く子や。今度お土産沢山持ってきたるさかいな。


 などと、親戚のおばちゃんみたいな事を考えていると、アミィがお盆に人数分のパンとサラダを載せて戻ってきた。

 え、早くない?


「お待たせしました! スープとミルクもすぐに持ってくるので、先に食べてて下さい」


 俺が「全然待ってないよ」と言う前に、アミィは再び酒場の奥に消えていった。


「さて、それじゃあ朝食を食べながら今日の予定を決めようか」

「賛成。もうお腹ペコペコ」


 二人はそのままパンに手を伸ばして食べ始める。

 昨日も思ったけど、この世界って「いただきます」って言わないんだよな。日本育ちの俺としては違和感があるが、それがこっちの常識なのだろう。


 郷に入りては郷に従えってい言うしな。

 という事で、俺もそのまま自分のパンに手を伸ばし、心の中で「いただきます」と唱え、そのまま齧り付いた。


「昨日言った通り、今日は三人で依頼を受けてみようかと思うんだが、受けたい依頼とかはあるか?」

「いや、特にこれといってないな」


 そもそも、ギルドにどんな依頼があるのかもまだ分かっていないのだから、受けたい依頼云々以前の問題だ。


「そうか。なら、カイト君はまだFランクだし、無難にゴブリン討伐依頼でも受けようか」


 ゴブリンと聞き、思わず背筋が強張ってしまう。


「カイトさん? どうかしましたか?」

「あ……いや、別に何でもない。それにしても、このパン美味しいな」


 俺の様子に気付いたマリーに声をかけられたが、俺はそれを、パンを食べる事で適当に誤魔化した。


「そういえば姉さん。実はカイトさんが、戦闘の基礎を教えて欲しいって言ってるんだけど」

「戦闘の基礎? 私が? 別に構わないが、本当に私でいいのか?」

「え? それってどういう……」

「スープとミルク三人分、お待たせしました!」


 何かを言いかけたフーリの言葉を遮るように、アミィが運んできたスープとミルク三人分を、テーブルの上に置いた。


「フーリさん、いいじゃないですか。炎の美姫と名高いフーリさんなら適任ですよ!」


 俺達の話を聞いていたのだろう。アミィが実に面白そうに口を挟んできた。


「あのな、アミィ。お前は知らないだろうが、私は人に教えるのが大の苦手なんだ」

「え、そうなんですか?」


 アミィは意外だと言いたげな表情をしているが、それには俺も同意だ。フーリはしっかり者のイメージがあるから、人に教えるのも得意だとばかり思っていた。


「……そういえば、姉さんの教え方ってすごく独特だったね。すっかり忘れてた」

「そうなのかフーリ?」


 俺が尋ねるとフーリは実に微妙な表情で俺の事を見た。


「分かりやすい説明ってなんだろうな……。 まあ、一応努力はするが、あまり期待はしないでくれ」

「あ、はい。分かりました」


 つい敬語で返してしまったが、これは本当にあまり期待できないかもしれない。

 そこはかとなく不穏な空気を出しつつも、俺達は朝食を食べ終えると、三人で冒険者ギルドへと向かった。




 まだ朝も早い時間なのに、昨日と同様冒険者ギルドは依頼を受けに来た冒険者で賑わっていた。


「よおルーキー君! 依頼を受けに来たのかい? 命知らずな真似だけはするんじゃねえぞ!」


 そしてギルドに入って早々、またも謎多き人物モーヒ・カンテルに声をかけられた。昨日も思ったけど、この人実はいい人なんじゃね?


「こんにちは、モーヒ殿」

「今日も初心者狩り、頑張って下さいね」

「おうよ、任せな! その兄ちゃんは二人に任せて大丈夫そうだな!」


 だから初心者狩りってなんだよ、初心者狩りって!?

 誰もツッコまないし。

 ……俺だけ? おかしいと思ってるの俺だけなの?


「どうしたんですかカイトさん?」


 一人で色々と混乱していると、マリーが怪訝な目を向けて尋ねてきた。いやいや、多分俺の感覚はおかしくないと思うよ?


「なあマリー、昨日聞きそびれちゃったけど、初心者狩りって一体何の話だ?」

「ああ、その話ですか。実はですね……」

「おーい、二人とも何してるんだ?」

「あ、ごめん、今行く! さ、カイトさん。早く行きましょう!」


 そう言って俺の手を取り受付に向かい始めるマリー。いや、だから初心者狩りは!?


「ねえ、初心者狩りは? 初心者狩りは!?」


 俺の問いかけにマリーが答えてくれる事はなく、モーヒ・カンテルの謎は深まるばかりだった。




 受付に行くと、既にフーリが二枚の依頼書を持って待っていた。


「二人が遅かったから、私が手頃な依頼を見繕っておいたぞ」

「ありがとう姉さん」

「悪いなフーリ、助かるよ。依頼書、見せて貰ってもいいか?」

「分かった。今回受ける依頼はゴブリン討伐と、ついでに解毒草の採取も受けようと思う」


 フーリから二枚の依頼書を受け取り、内容を確認する。

 一つ目はゴブリン討伐依頼。最近ペコライの北の平原に、小規模のゴブリンの群れが出没する様になったので、それの討伐。


 二つ目は解毒草の採取依頼。文字通り、解毒草を採取し、ギルドに納品する依頼。

 この二つが今日受ける依頼か。


「このゴブリンの群れって、大体何匹ぐらいなのか分かる?」


 あんまり数が多いと困るんだけど。


「小規模の群れって書いてありますし、精々五~六匹ぐらいじゃないでしょうか?」


 横からマリーが必死に背伸びをして、依頼書を覗き込みながら答えてくれた。何この生物かわいい。

 俺はマリーの目線の高さまで依頼書を下ろして話を続ける。


「で、この解毒草ってのはどこに生えてるんだ?」

「えーっと、この街の北の平原に自生してますね。ゴブリンの出没場所も北の平原なので、二つまとめてこなせますね」


 なるほど。二つとも目的地が同じだから、両方受けようって事か。


「どうだ? 問題なさそうか?」

「ああ、これなら大丈夫だと思う」


 ゴブリン討伐は少し気になるけど、今回は二人も一緒だ。俺も一応身体強化と火魔法のスキルを手に入れているし、きっと何とかなるだろ。

 そう思って賛成した。


「マリーも大丈夫か?」

「うん、特に問題はないよ」


 その返事に迷いは一切なかった。流石はBランク冒険者、とでも言うべきか。小規模のゴブリンの群れ程度には欠片も怯んでいない。


「よし、決まりだな。それじゃあさっさと受付を済ませてしまおうか」


 そのままフーリは受付のエレナさんに声をかけた。


「ゴブリン討伐と解毒草採取依頼ですね。メンバーは――はい、確かに。カイト様は初めての依頼となりますので、くれぐれも気を付けて下さいね」

「ええ、大丈夫です。分かってますよ」


 討伐依頼と聞いて、少し不安そうな表情になるエレナさん。この人、本当に良い人だよな。


「氷炎の美姫二人も一緒ですし、無理もしませんから安心してください」

「「ッ!?」」


 エレナさんを安心させようと冗談めかして言ったのだが、二人が「何言ってんだコイツ」みたいな表情でこっちを見てきた。

 いや、フーリは今朝アミィに炎の美姫って呼ばれても平然としてたじゃん。


「エレナ、ちょっとこっち手伝って!」

「あ、はーい。それでは皆さん、くれぐれもお気をつけて」


 他の職員さんに声をかけられ、エレナさんは俺達に一度頭を下げてから、そのまま受付の奥に下がっていった。

 さて、それじゃあ早速――。


「Bランク冒険者二人に、おんぶに抱っこで討伐依頼か? 駆け出しの癖に随分といい御身分じゃねえか」


 冒険に。と思った所で、突然背後から人をバカにするかの様な声が聞こえてきた。

 後ろを振り向くと、そこには俺と変わらないぐらいの背丈の、黒い犬耳を生やした男が、俺を睨みながら立っていた。

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